「あの日 君と約束を交わした
 今は二人 想い出せずに」


2000年12月13日よりスタートした集大成ライヴツアー【TOUR ONE LIFE,ONE DEATH】では、
名古屋、大阪、東京とアンコールにて、スペシャル・プレゼント「ドレス」が披露されている。

バックステージに手を振りながら再登場するメンバーを、
日本武道館の拍手が包み込む。
まずは、青のスーツから、真紅のスーツに着替えたヤガミ“アニイ”トール。
つぎに、爽やかな笑顔を振りまきながら樋口“U-TA”豊。
スタイリッシュで凛々しい星野英彦は、観客にフレンドリーに手を振って。
その姿を一瞬眺めるようにして、今井寿は、赤いジャケットに赤マイマイがセクシーだ。
星野英彦は、ギターを持たずに、鍵盤の前に陣取る。
気が付くと乱れ髪を整えた櫻井敦司が、中央に構える。
と同時にステージは暗転し、黒装束の櫻井敦司は、
マイクスタンドを握り、やがて深く深く頭をうな垂れる。

「ドレス」が始まる。

細やかなヤガミトールのフィルから、
櫻井敦司の深い吐息と樋口“U-TA”豊のフィンガープレーの濃厚なフレーズが心に響く。
やがて、今井寿のギターシンセの調べが、幽玄に舞い始める。
観衆の手がそれに乗せるようにゆらゆらと揺れる。

櫻井敦司は頭を上げ、天を見つめ、そして優しく唄い出す。

「鏡の前で君とまどろむ 」

樋口“U-TA”豊の味わい深いフレーズとややアンヴィエントな今井寿のギターシンセが絡み合う。
名曲として、繰り返しライヴでも披露されている壮大な「die」とは違い、
双子の関係を持つ、滅多に生での演奏を目にすることのない優美な「ドレス」。

『darker than darknessーstyle93ー』からのシングルナンバーは、
それまで最多のライヴ回数を数えた【TOUR darker than darknessーstyle93ー】時の、
嘆きの靄のかかったような幻想的な雰囲気と比べると、
生きる力を滾らせる今回の【TOUR ONE LIFE,ONE DEATH】では、
クリアなサウンドで力強くもあり、サウンド・バランスから言っても、
この「ドレス」パフォーマンスは最高の出来と断言できる。

本当に、この3回の公演での「ドレス」は、貴重なプレゼントとなった言える。



新アルバム『ONE LIFE,ONE DEATH』収録楽曲とのリンクも端々に垣間見れるこの「ドレス」そして「die」。

「RHAPSODY」で“風切り羽の黒い翼”を得た“ケロイドの男”は、
ひょっとすると“嘆きのカイン”の末裔であったのかも知れない。

しかし、その深き哀しみの心の奥底で、芽生えた「FLAME」の小さな炎は、
「女神」の降臨にて、自分を貫く力を得たのだ。

「忘れないで 愛あふれたあの日々
 君の顔も 思い出せずに
 いつか 風にかき消えされてゆくだろう
 今は二人 思い出せず   ああ」



そう、黒いドレスを纏った絶望の男にも、明日という日は来るのだ。

もう、泣いてばかりの日々は過ぎ去った。
“フィニッシュ”という耽美な魅力に彩られた暗闇の一撃『darker than darknessーstyle93ー』も、
今という時代となっては、BUCK-TICKに偉大なパワーを授ける魔法に変わっている。


この日、日本武道館で「ドレス」を唄う櫻井敦司は、もう血反吐を吐きながら、
「友達が欲しいたった一人だけ 雨が大好きで夜が大好きな 」と叫び、
「光は信用できない!」と言いきった“Death Wish ”を振り切った。

そんな印象を受けるのだ。


今はただ、「この愛もこの傷も懐かしい 今は愛しくて痛みだす」だけ。







そしてこの【TOUR ONE LIFE,ONE DEATH】アンコール2曲目も固定セットされた…


破壊と誕生


「idol」…。





ドレス
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)



鏡の前で君とまどろむ
薄紅の指先その手は不意に弱さを見せて 唇をふさいだ
あの日 君と約束を交わした
今は二人 想い出せずに

退屈な歌に耳を傾け
窓の外見つめる
僕はドレスをまとい 踊って見せよう
狂ってるかい 教えて
いつか 風にさらわれてゆくだろう
今は二人 想い出せず

僕はなぜ 風の様に雲の様に
あの空へと浮かぶ羽がない なぜ
星の様に月の様に全て包む あの夜へと沈む羽がない ああ