マーキュリー最終楽曲の「ミウ」。
【PHANTOM TOUR】【OTHER PHANTOM TOUR】を通して本編での登場はなく、
アンコールに、幾度か登場するに止まった星野英彦会心のアコースティック・バラード。

この20世紀最終ツアー【TOUR ONE LIFE, ONE DEATH】では、大阪・名古屋・東京と
しっかりと本編のセット・リストに名を連ねた。

ややライヴ慣れが気になったが、この最終公演ではベストのパフォーマンスと言えるだろう。
やはり、耳を衝いて離れない星野英彦のアコースティックの調べをなぞるように、
今井寿の赤マイマイが、ストロークされ、見事なアンサンブルとなっている。
今井寿のマイマイダンスも、この星野英彦のギターの調べの中で、
ドラマチックに揺れ動いている。

樋口“U-TA”豊のツーフィンガーによるグルーヴと、
ダイナミックな展開のヤガミ“アニイ”トールのドラミングに乗り今井寿が舞う。
一体感が増したバンド・サウンドをこの「ミウ」では披露している。

星野英彦のコーラスが胸を衝く。

ドラマチックな演出にマッチする日本武道館の観衆も、
この楽曲には、静かに横揺れしながら聴き入るのがベストだろう。


それにしても、「ミウ」。

なんという愛らしい名を、櫻井敦司は、この楽曲に付けたのだろう。

由来を訊いても「思い付きなんです」としか答えてくれない彼であるが、
深い愛情をこの名に感じてしまう。
星野英彦の「恋文」を受け取った櫻井敦司が、期待に応えようと作った詞は、
彼の優美な語感に沿って、まるで一本の映画を見ているようだ。

甘美な死の誘惑と、生命の象徴として最後に登場する少女。
どうしても、想い浮かんでしまう光景は、戦場の焼け野原。これが現実世界。
そこで夢見た蝶蝶の舞う花園に、一閃の“光”が発ち込める。
祈る少女は、母親も失ってしまったけれど、最後に希望を持ってこの世界を歩み出すのだ。

「JUPITER」が、Led Zeppelinの「天国への階段」のような存在のバラッドならば、
この「ミウ」は、David Bowieのベルリン時代を象徴する「“Heroes”」のような存在感である。
東西冷戦の崩壊前のベルリンの壁を前に、ドラッグ抜きのリハビリを兼ねたDavid Bowieが、
英雄になり切れない、もしくは、英雄視されることから逃避を重ねた日々の中で、
この時代の盟友Brian Enoと創りあげたのベルリン三部作『Low』『“Heroes"』『Lodger』の
硬質なサウンドの中にある哀愁が類似してしまうのである。

BUCK-TICKに取ってのマーキュリー時代こそが、
David Bowieのベルリン時代にあたるのではなか?と不図感じてしまう一曲である。
実験と試行錯誤の日々の中で、彼らのスケールはとてつもなく大きくなって我々の前に姿を表した。

そして、前に進む力を得た彼等は、もう迷うことなく我が道を行く。
そう、“編み上げブーツ履く少女”と同じように…。




ミウ
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)


千切れた羽を欲しがる あの人は羽ばたく
夢見るアゲハの様に 狂い咲く花園
砕け散る嘘を欲しがる あの人は羽ばたく
夢見るアゲハみたいに 狂い咲く花園

編み上げブーツ履く 少女が歩いている
悪くない目覚めに 空を飛んでみようか