「今回、ヒデ(星野)は、自信満々で持ってきましたからね(笑)」
(ヤガミトール)
斬新な極彩色とマシナリーな機械音に彩られたマーキュリー在籍最期のMAXIシングルが、
1999年10月20日にリリースされた。
「ミウ」とタイトルされたナンバーは、
このマーキュリー時代の楽曲群の裏を画くような
櫻井/星野コンビの久々にシンプルなバラードであった。
MAXI収録楽曲は
1.ミウ
2.パラダイス
3.BRAN-NEW LOVER -CUSTOM-
の3曲で、
2曲目は、タイトル・ナンバーとは正反対に、今井寿が以前から暖めていたという
マーキュリー時代らしいボディー・ビート系のハイパーなデジロック。
3曲目には、今井寿によるセルフ・リミックスが収録された。
MAXIシングルが故に、オリジナル・アルバムには収録されていないが、
これもマーキュリーのベスト盤『97BT99』で鑑賞出来る。
ヴィデオクリップもリリース当時
まるで有名アニメキャラクターの“スナフキン”のようにアコースティックをかき鳴らす星野英彦が
主人公の展開がファンの間では話題を呼んだ。
これは「JUPITER」「ドレス」以来の星野本領発揮の傑作シングル・チューンとなった。
ストーリーテラーの櫻井敦司が物語を語るかのように進行する本作。
この両名とは別ショットで今井、樋口、ヤガミの三人は、“死化粧”のようなゴシックな雰囲気のメイクで、
今井寿は漫画「デスノート」に登場するメロを先取りしたようなキャラクターに扮している。
この区分は、「キャンディ」のクリップも彷彿とさせるが、トランクから飛び出す臓物など不気味な雰囲気も忘れない。
それでは、この「ミウ」について、『FOOL'S MATE』誌からメンバーのコメントを抜粋引用する。
●まずは冒頭のヤガミトールの言葉になる。
星野英彦の高校時代からの親友樋口“U-TA”豊から。
―――今回のニューMAXI「ミウ」ですが、久々に星野さんのタイトル曲ですね。
樋口“U-TA”豊
「今回は本当にヒデ(星野)の曲も今井くんの方の曲も凄く良くってどちらをシングルにしょうかって悩んだくらいで、
そこで今後自分達がどういう風にアプローチしたいとか、聴いている人にどういう風に感じられたいか考えて
今回はヒデの曲になったんですよ」
―――「ミウ」はメロディアスで凄くきれいな曲ですけど、そっちの方が今のバンドの気分だったということですか?
樋口「というか、前と一緒だなという風に思われるのが大嫌いなバンドなんで。
ある程度はBUCK-TICKっぽいねっていうのはあるけど、
あまり、“こう来たか”みたいな風には聴かれたくないっていうのがあって。
今井くんのも凄くいい曲だけど、そういう印象が強いんじゃないかなって」
●そして、作曲者:星野英彦も語る。
―――星野さんの中では、自分の曲がタイトル曲として採り上げられることの意味ってどの程度のものなのでしょう?
星野英彦
「今回も一応「パラダイス」とどちらをA面扱いにするかもめたんですけど、
俺はやっぱり前のシングルとの兼ね合いを考えて、
逆に今度はアコースティックなサウンドの曲で極端に行った方が面白いんじゃないかって
言って決まったんですけど。
やっぱり曲のキャラクターですよね」
―――いつもどんな形でシングル曲を決めているんですか?
話し合いをするとか(笑)?
星野「多数決ですかね(笑)。
一応メンバーで決めるんですけど、時々、周りのスタッフの意見を聞いたりしながらなんですけど」
―――5人組でよかったですね。多数決なら必ず結果が出るわけだし(笑)。
星野「そうですね(笑)」
―――ただ、これだけ長くやっていると、今井さんの作る曲との色合い的なバランスというか、
何となく納得しているここと言うか、分かってることがあると思うんだけど…。
星野さん自身はバンドの中で自分の曲の役割について、どう自覚しているのかな?
星野「う~ん、多分、みんなは「JUPITER」とか「ドレス」とかそういうイメージを
俺の曲に対して持ってるんだと思うんだけど。
でも一時期は自分自身で、それを拒否してたんですよ。
周りが期待するような同じタイプの曲はもう作りたくないなって。
何だか一つの型に押し込められてしまうような気がしてね。
でも今回はそういうのもなく、
またいいかなって気持ちになれたから自然な感じで作ってみたんですけどね。
いい曲が出来たからいいかなって、素直にそう思えたから」
―――自分の中でいい曲の基準ってどこにあるんですか?
「それはデモを作り終わってから何回か聴いてみて、それを自分が納得できるかどうかってことですかね。
これまでも途中まで作ってそのまま放ってある曲もあるし。
やっぱり作ってる途中で、アレンジのアイデアが出てくるかどうか、
自分の気持ちが乗ってくるかどうか、そういう部分だと思うんですけど」
●作詞を担当した櫻井敦司は、この「ミウ」で初めて星野英彦から恋文をもらったという。
―――ニューMAXIの「ミウ」がまたBUCK-TICKの新生面を表していて興味深いんですが、
櫻井さんはこの曲を聴いてどんな印象を受けましたか?
櫻井敦司
「淡々としてるんだけども、
曲の最後の方でガラッと場面が開かれた感じがあったので、“そういうことか”って。
最後は希望というか光というか、そういうのが見えればいいなと」
―――じゃあ、まさに曲に導かれた歌詞なんですね。
櫻井「柄にもなくヒデ(星野)がDATのテープと一緒に手紙をよこしたんですよ。
“今回はこういう感じ作ったんですけど…”って。言葉でひとつふたつぐらい。
こんな感じっていうのがあって、じゃあ期待に応えようと思って」
―――そういう手紙をもらったのは初めて?
櫻井「そうですね。初めてです。
昔は今井とかも一言あったような気がするんですけど、
こういうラヴレターは初めてもらいました(笑)」
―――それだけ星野さんもこの曲に対する思い入れが強かったということですかね。
櫻井「だと思います」
―――「ミウ」というタイトルは、何を表しているんですか?
櫻井「本当にパッと思い付きなんですけど(笑)。
具体的なタイトルとかじゃなくて、意地悪というか、わかんなくしてやろうというか。
“何言ってんの?”って感じでいいんですけど。
(タイトルについて質問されると)本当に困っちゃうんですけど、思い付きなんですね」
―――外国語のようにも聞こえるし、女の子の名前のようでもありますね。
櫻井「そうですね。坂本美雨さんとか、“ああ、そうだ、そういう人いたんだ”って後で気付いたんですけど(笑)」
―――ストレートに解釈すると、ミウという少女がいて、その子のことを歌っているのかなと。
櫻井「うん、それでもいいですね。多分そういうところもあったと思います、自分の中で」
―――“嫌いだ/今夜もまた眠れやしない”という歌詞で始まるところが凄い。櫻井さんらしいですね。
櫻井「吐き捨てるような、舌打ちするような感じで、“あー、眠れない”っていう感じ(笑)」
―――前半はわりとドロッとした恋愛を歌っている感じで、最後の方で少女が希望の象徴みたいに登場しますよね。
けっこう展開のある曲だから、歌詞もその辺りを意識されたんじゃないかと。
櫻井「理論立てて説明できないんですけど、まあそういうはなない……愛じゃなくて恋の方ですね。
そういうのもあったと思うし。
あと常にあるのは……死ですね。
常にこう何かに触れていたいというと変ですけど。
この世界の中でリアルなものじゃなくって、怖いけど甘いとか、
そういう誘惑にかられるところがあるのかもしれない。
……難しいですけど」
―――怖いけど甘い死の誘惑?
櫻井「でも、まだ希望があるという……お母さんは死んだけど、娘は元気で歩いて行くという」
―――そういうイメージって映画を観るように浮かんでくるんですか?
櫻井「いや、やっぱり蓄積っていうか、頭の中に残ったものがあってパッと出てくるという」
―――じゃあそれほど時間は掛からないですね。
櫻井「言葉は埋まっていくんですけどね。
“果たしてこれで自分は納得してるのか”というところ、それだけですね」
―――今回の新曲ってすごくBUCK-TICKらしさを感じさせながら、
同時に今までにない新しさを出してると思うですが、
その辺でメンバーに対する信頼を新たにすることってあるんですか?
櫻井「ええ。凄いメンバーだなって。
個人個人ってどうしても自分中心に物事を考えたりするじゃないですか。
自分が世界の主人公くらいまで(笑)。
でもそういうところでみんなも一人一人、自分が主人公だということであって。
ヒデも自分を中心に周りのいろんなものを吸収したり、排除したりしていってるんだなとか、思いますね」
(以上『FOOL'S MATE』誌より、要約、引用、抜粋)
長年のキャリアの中でBUCK-TICKメンバーも、まるで兄弟のように供に時を経ながら、
各個人の財産たる“楽曲”を醸造しているのだと思う。
そんな意味で、このMAXIシングル『ミウ』は、コンポーザー二人の象徴的な楽曲、
「ミウ」「パラダイス」の一騎打ちとなった。
そういった切磋琢磨の環境の中で名作は生み出されているということであるが、
最後はやはり、自分が納得できるかどうかということのようだ。
また、面白い現象であるが、
毎回尖った感覚で時代を切り裂く今井流楽曲は、時折、これが今井作品か!?と思わせるような、
センチメンタルな一面を垣間見せることがあるし、
壮大で美しいアコースティック・サウンドのイメージの星野節にも、
本家、今井寿を喰ったかのようなトリッキーなメロディを編み出すことがある。
これは、恐らく互いに知らない内に影響を与えあっていると考えるのが自然であろう。
もしかしたら、各メンバーの本当のライバルと呼べる存在は、
他でもないバンド内に存在するのかも知れない。
だからこそ、BUCK-TICKは、唯一無二の存在として君臨しているではないか?
MAXIシングル『ミウ』は、マーキュリー在籍最期の新譜となった。
打ち込みと人間のグルーヴという命題に突き抜けたマーキュリー時代、
最後は、星野英彦のアコースティックなサウンドが胸に突き刺さる。
さらに僕個人の感想だが、その「ミウ」のドラマチックな展開に今井寿の影を見るのだ。
そして、BUCK-TICKは舞台をBMGに変え、新展開を迎えることになる。

ミウ
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
