「腐りかけたワタシを綺麗と言った お前の顔美しい官能的だ」
日本武道館に“死神”が舞い降りる。
迎えの“刻”が来たのだ。
櫻井敦司の放つ“死神”のオーラを避けるかのように、
今井寿はガスマスクを装着したテロリストと化す。
「die」で壮絶な終焉を迎えるアルバム『darker than darkness -style 93-』とは逆に
この“死”というテーマに向き合った「タナトス」でアルバム『SEXY STREAM LINER』は幕を開ける。
まさに“死”から始まりを告げる作品といえるが、
ライヴ『SWEET STRANGE LIVE』の本編のラストナンバーはこの楽曲で、
アルバムは、ライヴ・オープニングのインスト「SEXY STREAM LINER」にループしていると言える。
樋口“U-TA”豊によると、この大胆にテクノロジーを全面に押し出した本作の中で、
制作初期と一番印象が変化したのがこの「タナトス」であったらしい。
メロディのリフはギターの音をサンプリングしたものをシンセサイザーで鳴らしている。
以下、『UV』誌より引用抜粋。
―――リズム録りの後、上ものが乗っかったり、あとからループが修正されたりすると、
最初の段階で見えなかったものが見えてくると思うんですけど?
樋口豊
「そこは面白かったですね。
入れてあった仮ループもあとから音色が変わってくるから、イメージが全然変わってくるんです」
―――最初にイメージしていたのと仕上がりが変わったなっていう曲は?
「「タナトス」ですね。
もうちょっとまっすぐで。ヒネッてなかったんですけど。
でも、ああいうふうにバサッと切っちゃって。このほうがインパクトがあるんじゃないかな」
―――あの切れはすごいですよね。
「録ってる時も一応ブレイクはしているんですけど。
より切れを際立たせるために。最初はもっと九州チックな感じだったんです(笑)。直球みたいな。
でも、シュート回転入れてみて(笑)」
―――ベースもベストなものが弾けた?
「ええ。苦労したというより、ループものが混ざってくるから、違った意味で考えさせられましたから」
以上、引用。
アルバムの全体的な空気感とトータルなイメージのため、
技術的なこと以外でも頭を悩ませたということであるが、
このアルバムを始めとするマーキュリー時代のBUCK-TICK楽曲には、
このテクノロジーとバンド・サウンドの融合が命題となったのは明確に事実であり、
それを象徴するサウンドそのものが、「タナトス」と言える。
作詞を担当した櫻井敦司も『UV』誌で語っている。
以下、引用。
―――詞は余裕を持って書くことが出来たのでしょうか。
櫻井「曲によって、ですね」
―――大変だったのは、どの曲ですか。
「…「ヒロイン」とか……「タナトス」。
シングルになりそうなヤツは、何か意識しちゃいましたね。
「タナトス」は最初はシングルどうかなって話し合ってたんで。意識して考え過ぎましたね。
「キミガシン..ダラ」っていうのも、シングルになるかも知れないよって脅かされて(笑)。
すらっとは行きませんでしたね」
―――確かに今挙がった3曲はメロディがポップで、
どれがシングルになってもおかしくない感じですね。やっぱりシングルだと意識するものですか。
「う~ん、ありますよ。「JUST ONE MORE KISS」の頃から(笑)」
以上、引用。
この後のマーキュリー時代のBUCK-TICKの展開を考えると、
このデジロックの大作「タナトス」に象徴されるサウンドが、主流を成すことからも、
それまでのBUCK-TICK的メロディの「キミガシン..ダラ」よりも本作に軍配が上がる可能性は高かったかも知れない。
(結果的にシングル・カットを勝ち取ったのは意外にも「囁き」で、「キミガシン..ダラ」はカップリングで収録された)
このシングル候補の共通点は“死”というモチーフに他ならない。
映像の、この日5月9日の日本武道館では、度重なるトラブルに気が立ったのか?
ダークな「Schiz・o幻想」のプレイもいつも以上に激しい「Schiz・o幻想」となったが、
つづく、この「タナトス」も壮絶なパフォーマンスで、『SWEET STRANGE LIVE 』本編も幕となる。
まさに、この日櫻井敦司は、何処でも飛ぶ“死神”に成り変って、
日本武道館に、稲妻を打ち下ろしたようであったが、
今井寿のノイジーなギター・リフレインの中、演奏が終了しても、最後までステージに残り、
「どうもありがとう」
と深々と頭を下げる櫻井敦司が印象的であった。
※タナトス(Θάνατος, Tanatos, Thanatos)は ギリシア神話に登場する、死そのものを神格化した神。
ニュクス(夜)の息子でヒュプノス(眠り)の兄弟。抽象的な存在で、古くはその容姿や性格は希薄であった。
ただ、神統記では、鉄の心臓と青銅の心を持つ非情の神で、
ヒュプノスと共に大地の遥か下方のタルタロスの領域に館を構えているという。
しかしホメロスは、タナトスとヒュプノスの兄弟が英雄サルペドンの亡骸を
トロイアからリュキアへと運ぶ物語を述べ、初めてタナトスは人格神として描かれた。
さらに後世の神話では、臨終を迎えんとする人の魂を奪い去って行く死神として描かれる様になる。
英雄の魂はヘルメスが冥府に運び、凡人の魂はタナトスが冥界へ運ぶともされる。
また、王妃アルケスティスの魂を運ぼうとしてヘラクレスに奪い返された話や、
冥府に運ぶはずのシシュポスに騙されて取り押さえられ、
それから しばらく人が死ねなくなった話なども伝えられている。
一説にはレテと兄弟であるとも言われる。
また、ヒュプノスとタナトスの兄弟のモチーフは、ドイツではザントマンとその弟の死神として結実する。
ギリシア神話でのタナトスの役割から
ジークムント・フロイトでの攻撃や自己破壊に傾向する死の欲動を意味する用語、
独: Todestrieb(デストルドー)の同義とされる。
(Wikipediaより)
タナトス
(作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
舌の先全てをあなたにあげる
抱いておくれとろけた唇吸って
腐りかけたワタシを綺麗と言った
お前の顔美しい官能的だ
(自由ニオ庭デ遊ビマショウ...)
(太陽ガ沈ムソノ日マデ...)
何処迄も飛ぶ何処へでも行くわたしの胸にタナトスの花
舞台裏を覗けば夢は終わりさ
時を止めてみたい思ったことが?
むせる様な匂いを残していった
父よ母よあなたに感謝している
(真夜中ハ一人震エマショウ...)
(明日ノ朝ニオ会アイシマショウ...)
何処迄も飛ぶ何処へでも行くあなたの胸にタナトスの花
(自由ニオ空デ遊ビマショウ...)
(太陽ガ羽根ヲ溶カシテモ...)
何処迄も飛ぶ何処へでも行くわたしの胸にタナトスの花
陽炎に燃え清らかな空光の中へ光の中へ...

