「天国行きの列車 凍えた手をつなぐ」



「螺旋 虫」が奏でられると、再び日本武道館がアンビエントな空気に包まれる。
天井より落下する口唇のような造形のオブジェが“螺旋 虫”なのだろうか?

先行シングル「ヒロイン」のカップリングに収録されている「螺旋 虫」は、
ドラムやギターのトラックが無いリミックスで更にアンビエント色が濃い
星野英彦作曲の空気感が独特な秀作だ。
これまたライヴでこういったミディアム調の楽曲を再現するのは、
ある種の演技力と背景の世界観やストーリー性を身に纏ってパフォーマンスすることになる。
しかし、こういったプレッシャーこそが、BUCK-TICKを新たなる世界へ誘うのだ。


以下、『UV』誌のインタビューから引用、抜粋する。

櫻井敦司

―――「螺旋 虫」はシングル・ヴァージョンよりもくっきりした輪郭の音像になってますね。

「これがもともとの形だったんです」

―――前回のインタビューで、これは童話のイメージと言っいましたが、
確かにすごく美しいんだけど、同時に怖さとか残酷さを持ってる世界ですね。

「まさにそういうふうに取ってもらえると嬉しいですね」

―――そういう世界に親しみを感じる?

「…はい(笑)、変な話ですけど、やっぱり童謡とか童話は怖いなって思うし、
そういうのが自分でもできればなって」

―――でも、ふだん、童話とか読まないでしょう?

「全然読まないです(笑)」

―――小さい頃童話を読んだ記憶とか、そういうノスタルジックなイメージを重なってるんですかね?

「うん、だと思います。
ヒデ(星野)のデモ・テープ聴いた時もそのノスタルジックなものを印象づけられたから、自分の中で。
具体的に言うとチビッコ兄弟(だった頃の自分)にはあるんじゃないですかね(笑)」

―――幼い頃の自分の姿と重ねているという?

「一番手っ取り早いですからね。自分は題材になるのは。
まぁ、でもそれは始まりで、まとは狂った感じになればいいなと思って(笑)」



星野英彦

―――そして「螺旋 虫」は?

「これは曲作り作業の最後の方に作ったんです。
アルバムのだいたいのイメージが見えてきて、
ふっと違うところ、全体を通して聴いたときに落とすようなところがあってもいいかなと思って。
それでミディアム調でアンビエント色のある曲がいいかなと考えて作ったんです」

―――確かに通して聴いていくと、この曲で気分を落ち着かせてくれますよ。

「激しい曲が多かったんで、それとは違った世界へも行きたかったんです。
ドラム・サウンドを生っぽいライヴな感じにしたのもそうですね」

―――逆に「蝶蝶」は落ち着かせてくれませんよ(笑)

「そうですね(笑)」


以上、引用。



この「螺旋 虫」もそうであるが、
アルバム『SEXY STREAM LINER』は“死”の匂いが充満している。
そういった童話的なノスタルジックの向こうにおぼろげに見え隠れする“死”の恐怖。
いや、BUCK-TICKの世界観では“死”は決して恐怖の同意語ではなく、
来るべき来世への旅立ちなのだ。

それは、すでに「die」を思い起してもらえればいいが、
苦悩に満ちた現世との離別こそ、解脱への道そのもので、
仏教的な思想をも取り込む櫻井一流の文学思想に他ならないのだ。

そして、彼らの親友もまた旅立って行った。

このライヴ映像には、そういった彼らの思念が封じ込められているようだ。



螺旋 虫
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)


ガラス遊園地 ふたり花を摘む
紫空天鵞絨 一輪また一輪

回る観覧車 それは 螺旋虫
天国行きの列車 凍えた手をつなぐ

下弦の月 照らされた君の目の中
星が浮かぶ ガラス玉 笑ってた

嵐が来る予感に 胸は狂おしく
夜に迷う螺旋の 観覧車は揺れる

静かの海 滑り出す 君の目の中
星の消えた ガラス玉 笑ってた

嵐が来る予感に 胸は狂おしく
夜に迷う螺旋の 観覧車が揺れる
誰もいない辺りは 音の無い世界
夜に迷う螺旋の 観覧車が揺れる

ガラス遊園地 回る観覧車