「やがて来る 限界での祝福 消えるには若すぎた 」
この日の日本武道館を不可思議な空気が覆う。
今井寿は―――「迦陵頻伽 Kalavinka」のイメージを語る。
「東洋的なイメージと、怖い感じ。
具体的にそういうイメージはありましたね。
それで使うスケール(音階)だけ決めて、膨らませて行ったんです。
キーボードで使う音色は絶対にフルートだなって思いました」
―――フレットレス・ベースがいい雰囲気を出してますよ。
「これも基本的なフレーズがデモ段階であって、
それを聴いたユータがフレットレスのほうが合うと言ってアレンジしました」
以上、『UV』誌より引用。
前衛的アルバム『SEXY STREAM LINER』での樋口“U-TA”豊のベース・プレイは、
ロック・バンドのベースとは違う。
打ち込みループが全面に押し出され、ギターが減少した本作では、
弦楽器のベースは、リズム感を出すだけに止まらず、
その音色、フレーズ、アレンジにおいて大きな存在感を持つものに変貌している。
それは、この「迦陵頻伽 Kalavinka」の不可思議な空気感にも大きく貢献している。
そして、この歌詞。
以下、『FOOL'S MATE』誌、引用、抜粋。
―――言葉に関して言えば、すごい豊かなイメージが広がってると思うんですよ。
でも、その中で一見不可解に思えるタイトルもあったりしますよね。
例えば「迦陵頻伽 Kalavinka」とか。
櫻井敦司
「タイトルは後から付けただけなんですけど、
…つまんないこと言うと、前から辞書とか広辞苑とか見てて、イラストが載ってるところがありますよね。
絵が載ってて説明しているところ。
ボーッと見てて、何か変な絵が描いてあって、
そういうのちょっともらっとこうかなっていう感じで(笑)」
―――“迦陵頻伽”とは植物か何かですか?
「いえ、まぁ、広辞苑を引用しますと(笑)体が鳥で、顔は人間の顔していて、仏の声を出す、
空想の生き物という」
―――あ、そういうの見つけたんですか?
「ええ、今回じゃなくて、前々回くらいの(アルバム・レコーディングの時に)。
まぁ、“変なの”っていう感じで(笑)。
歌詞の内容とは、まぁ、結ぶ付けられるけれども、タイトルは名前みたいなものだから、
そこからいろんな想像っていうか、
何て読むんだろう?ってくらいからはいってもらった方が良いかな思うんですけど」
―――プレス用の資料ではこの曲のみ歌詞が縦書きになってて、
BUCK-TICKは以前から日本語の響きを重視しているところがあったけど、これもそんな感じですね。
「そうですね。そういう強い思いはありました。
詞と歌に集中できてる分、今井が(歌詞で)英語を遊びっぽく使ってるのとはまた別に、
自分のできることをやろうと。『迦陵頻伽 Kalavinka』は特に縦にしてくれって言って。
何ていうんですか、
昔の昭和文学っぽく、ワをハにしたりとか、
そういうので変だなと思って聴いてもらったらいいかなと(笑)」
以上、抜粋。
※迦陵頻伽・迦陵頻迦(かりょうびんが)は上半身が人で、下半身が鳥の仏教における想像上の生物。サンスクリットの kalavinka の音訳。『阿弥陀経』では、共命鳥とともに極楽浄土に住むとされる。
殻の中にいる時から鳴きだすとされる。その声は非常に美しく、仏の声を形容するのに用いられ、「妙音鳥」、「好声鳥」、「逸音鳥」、「妙声鳥」とも意訳される。また、日本では美しい芸者や花魁(おいらん)、美声の芸妓を指してこの名で呼ぶこともあった。
一般に、迦陵頻伽の描かれた図像は浄土を表現していると理解され、同時に如来の教えを称えることを意図する。中国の仏教壁画などには人頭鳥身で表されるが、日本の仏教美術では、有翼の菩薩形の上半身に鳥の下半身の姿で描かれてきた。敦煌の壁画には舞ったり、音楽を奏でている姿も描かれている。
(Wikipediaより)
映像のライヴでは、
今井寿のMIDIシンタックスから奏でられるアンサンブルに合わせて、
エキゾチックな「迦陵頻伽 Kalavinka」を完全に表現している櫻井敦司の舞は素晴らしい。
この日の櫻井のMCはいつもより少な目で、5月8日の初日公演では、
「迦陵頻伽 Kalavinka」の前のMCにて、
「昨日のことも明日のことも忘れて、今日ここで踊りましょう」
(前日の5月7日はhideの告別式。それを指しているかどうかは読者の想像にお任せする)
であった。
「やがて来る 終焉での喜び 生きるには老けすぎた」
迦陵頻伽 Kalavinka
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)
暁闇 夜を待ち望めば
獣たち指を鳴らす
やがて来る 限界での祝福
消えるには若すぎた
薔薇が咲き 赤く染まれと歌う
狂い咲く 棘を震わせて
風淫らに 胸アラハニ
忘れ去れ過去の悲喜交交
瞼閉じ耳を塞げ
やがて来る 終焉での喜び
生きるには老けすぎた
桜咲く 赤い血を吸い歌う
風に舞い 人を狂わせる
今ハノ際 波打ち際
君が咲き 密の薫りが誘う
甘く苦い 毒と知りながら
ああ うれしや ああ かなしや

