『市川哲史の酒飲み日記 on TV』は、前日前々日の続き。
今井寿の愛犬BJも番組に登場している。
また、猫好きで有名である櫻井敦司が親バカに照れながら自分の猫の名前を披露する表情が印象的である。
メンバーのペットに関しては、星野英彦も今井寿を真似てビーグル犬を飼ったのだが、
今井寿と市川哲史に“負”と名付けられてしまったという話も、
「酒飲み日記」には記されている。
その「酒飲み日記」が掲載された音楽情報誌『音楽と人』から、
前日に続いて櫻井敦司が語るアルバム『COSMOS』について要約抜粋する。
以下、要約抜粋。
●●例えば“Ash-ra”なんかもタイトル見た瞬間に、「うわ―また自我葛藤ソングかぁ」と思っちゃうんだけども、聴くと単なる「僕と踊ろ」って能天気な曲だしなぁ(笑)。
「そう(笑)。自分でもそっちに行っちゃうかなと思ったけど、今井の曲聴いた瞬間に『そんな事全然関係ないな』と思って」
●●キャラクターを自らかなり遊べた、という手応えはありましたかね。
「うん、良い意味でやっとそういう事を演る機会が生まれたというか、チャンスだったと思うし」
●●つまり現在の櫻井は、従来の一点集中内向モードには入っていないと。
「うーん、そうですね。変な真面目少年みたいな感じ行ってしまうと……もう本当に駄目だなと思ったんで」
●●「駄目」とは。
「『Six/Nine』以上にあの系統に行ったらもう……(笑)」
●●この世に還ってこれない(笑)。
「還ってこれない(笑)」
●●あ、行こうと思えば行けるわけだからね。
「行こうと思えばね、全然行けます」
●●じゃあ櫻井敦司の抱える「闇の自我」の部分が、別に薄れたわけでは決してないんだ。因果な奴よのお。
「決して薄れてない……です。と思います。元々好きですからね」
●●ということは、闇の自我をコントロール出来るようになったのかもなあ。
「そういう風に仕向けたつもりなんですけど……」
●●コントロールするコツはありますかね。
「コツっスか(笑)。ブレーキかけてきましたよ。ずっーと(笑)。ほっといたらやっぱりキネヅカが暴れちゃうんで、ブレーキかけつつ雰囲気を巧みに操れればなと思って」
●●今回の「自爆防止」アプローチを実際に駆使してみての感想は。
「あのー……まるっきり自分に無いもので演ったわけじゃないですから(笑)、自分が人間として入っちゃうんではなくて、あくまでも自分の好きな言葉達を上手くハメてくだけだから、今回実際演ってみていい感じには出来たなと。好きだなあ、精神的に全然楽だから。前は『精神的に入り込まなきゃ嘘だ!』と思ってたから」
●●ああ、「自分で自分を徹底的に痛めつけなきゃ、この表現が嘘になってしまう!!」的な自己強迫観念が。
「そうそうそう。だから凄く疲れたし、聴いてくれてる人もたぶん疲れるだろうなあと(笑)」
●●すると今回は、「傷口から血は吹き出てるけど、これは血糊です」「包帯巻いてるだけです」「仮病です」的な(笑)。
「はははは。そうそうそう。ざっくり切れてんのに『大丈夫です』って(笑)」
●●自分で傷がわかってない(笑)。
「うん。そう(笑)。わからせない」
●●とにかく詞同様、音も重くない。今までは傷をしっかり皆様に御披露目して「ほらこんなに流血してます」と言わなきゃならんぐらいに、重ぉーい厚っーいへヴィーな音だったわけで――。
「はははははははは」
●●『COSMOS』の性能を的確に表現するならば、鉄下駄やパワーアンクルを外した瞬間に走るスピードが5倍になったような、そんな感じよ。詞も音もさ。
「はははははははは。ええっ?」
●●そういう意味では「初期への先祖返り」を指摘する声もあるだろうけども、全然性能良いもんねぇ。今井は「初期を全然意識してない」と言ってたけども。
「うーん、いや、でも演ろうと思って演ったと思うんですよね、たぶん。今井も性能がパワーアップするであろう事は見えてたと思うし」
●●今井が“キャンディ”の唄入れ見ながら、ふと『北風と太陽』の話を思い出したというのも心温まるエピソードだったしなあ。
「あ、言ってましたね」
●●服を脱がすのに風の勢いで脱がそうとしてた事自体が誤りだった、と。
「素晴らしい。“キャンディ”を聴きながらそんな(笑)」
●●はははは。北風BTさようなら太陽BTこんにちは、だよなあ。あいつ把握してるよ。
「そうか(笑)。でもわかってくれたっつうのが凄く嬉しぃっスね」
●●櫻井にしても、今井にしても、ようやく自分達の事を把握出来るようになった感があるなあ。BTって、これまで自己把握をせずして歩んできたじゃない?「把握出来ないとこが格好良い」的な、カオスである事の開き直りで。
「ええ、ええ」
●●櫻井の詞も今回の自己戯画化は、やっぱり自分を把握したとこから始まってるわけでさ。
「そういう意味では、わかった上で北風吹かすようになったというか――進歩しましたね(笑)」
●●というか、何故今になって把握出来たのかと。
「10年も懸った末にようやく(笑)」
●●マジで今初めてわかったんじゃないか、自分達の演ってる事とかバンドの在り方とか。
「ええ、なんとなく。なんとなく今までには無い……見せ方とか見え方がありますね。今では説明つかなかったけど。うん」
●●それが何故10年目に出来たのかと。
「……」
●●(失笑)。
「(失笑)節目を重んじる日本人なんスかね、俺らも知らず知らず(笑)」
●●(失笑2)「俺らって一体何演ってきたんだろう」「自分のスタイルってなんだろう」と考えた?
「ええ。いろいろ考えました。遊びながら、歌の中で。その一連の流れを自分なりに考えて、把握したかったんだなと――今思うと。自分の家で歌詞書きながら、息抜きにぼけーっとしている時に考えたんですけどね」
●●例えばどんな事を考えたの。
「具体的には言葉にしにくいんですけど……やっぱりいろいろあったんじゃないですかね。自分の事だからもう本当に感覚で、そん時そん時の感覚に想いを馳せながら(笑)」
●●「しょうがねえ事してんなあ」とか?
「何か……優しく見れました(笑)、『そっかそっか』とか」
●●「血だらけだけど大丈夫か?」「今度は少し楽させてやるからな」とか(笑)。
「はははは!優しく、見れました(笑)。今まで変に余裕無かったですよね。時間的な余裕があっても自分達を振り返るって事をあんまりしなかったし――そういう冷静さに欠けてたから。『振り返るのはいけない事だ!』と思ってたし」
●●そういう強迫観念があったんだ。
「たぶん」
●●気分的な余裕が生まれてるんだな、今は。
「そうでしょうね。その状態を怖いと思うと、やっぱり前みたいな『気分的な余裕があったらいかん!』と変にストイックさが出ちゃうだろうし」
●●やっぱり追い込み過ぎてたのよ、全てに。
「はい。そういう方法が美しい自分達なんだ!と思ってたんじゃないですかね」
●●アルバムタイトル『北風と太陽』にすりゃよかったのに――と今井にも言ったけど断られた。
「(笑)それは当然でしょう」
●●スリリングな音なのにほのぼのしてるとこなんか、似合うんだけどなあこのタイトル。
「そうですね。今回は怖い方にもってこうとしても、そういう風になんないですもんね。でも聴いてた人達どう思いますかね、『こんなの違う』と言う人も居るかもしんないし、BTに対しても固定観念持ってるだろうし、その人その人で」
●●そこで「見えない物は全て誤解だ」なんて安直なオチをつけてみたりして(笑)。
「わはははははは」
●●にしても“キャンディ”のリフ好きだな俺。
「今井の笑い声にそっくりの(笑)」
以上、『音楽と人』より抜粋引用。
この櫻井敦司の言葉のように自分を把握し、優しくなれたというアルバム『COSMOS』は、
以前のBUCK-TICKにはなかった遊びの要素と『Six/Nine』から受け継がれる“生命の鼓動”を感じる
印象的な楽曲の宝庫となった。
1996年6月21日のアルバムリリースに続き
7月4日より 【BUCK-TICK TOUR 1996 CHAOS】のライヴツアー開始。
しかし、上記ように自分を優しく客観視できるようになった櫻井敦司は、
BUCK-TICK10周年を迎えるこの年の12月急病のため入院を余儀なくされる。
ソニーマガジンズから予約者限定発売で発行される予定だった櫻井敦司写真集撮影の為に
訪れた先のネパールにてS字結腸破裂腹膜炎を発病。
緊急帰国手術になった。(一時は生命の危機に陥った)
手術後も自宅療養のため、
12月2日より予定していた【BUCK-TICK CHAOS After dark】ツアーは翌1997年3月からに延期となる。
レコード会社移籍とこれまでの10年の苦悩が櫻井敦司の急病という形で発露したのかも知れない。
しかしこの後10周年の厄が剥がれ、BUCK-TICKは極上最新型へ変型を見せることになる。
