「Kick (大地を蹴る男)」は、まさしくBUCK-TICKの未来像であった。
今井寿の新しい武器“MIDIシンタックス”が活躍するハイテク大作で、
SCHAFTで培った打ち込みのセンスが光る。
こういった打ち込みサウンドとヤガミトール&樋口“U-TA”豊のリズム隊が、
機械と生バンドの融合が今後のBUCK-TICKの方向性を示唆している。

当時流行し始めたレイヴ系ダンス・ミュージックとはまた違った未来系を志向していたのが分かる。

映像のヴィデオクリップもシンプルながらそういった機械と生の躍動感を表しているかのように跳ねる。
「デタラメ野郎」「密室」と『Six/Nine』も後半に入り、
鬱屈した深い暗い闇を突き進むようであったが、「Kick (大地を蹴る男)」で将来の光を見るようだ。


BUCK-TICKは日本のロックバンドである。

こう改めて言い直したのは、洋楽では感じられない独自な光があるからだ。
それは日本ロックらしさの為かも知れない。
薄暗い中に鈍く光るナイフのような光だ。



この「Kick (大地を蹴る男)」では、
櫻井敦司のヴォーカルも序盤、深いリバーヴのかかったエフェクティヴなサウンドが
前作『darker than darkness -style93-』からの深くて暗い作風を思わせる。
第2節に入って、エフェクトが外れ、クリアな櫻井敦司のヴォーカルが出現すると、
本当に、彼はいいヴォーカリストになったと実感する。

櫻井敦司は、日本語をしっかりリスナーが聞き取れるように気を使って唄うヴォーカリストだ。
ドラマー出身の彼が、唄い手を目指し、少しづつ彼独自のヴォーカルスタイルを構築していった過程も、
恐らくは相当の探求の賜物だと思う。

イメージとしては、ポスト氷室京介として登場した櫻井敦司ではあったが、
80世代の日本人ロック・ヴォーカリストが和製洋楽風に日本語をわざと崩し、
例を挙げると桑田圭介、佐野元春、吉川晃治といったカリスマが後塵のJROCKにも影響を及ぼすほど
横文字のようなイントネーションでロックの空気を表現していく中、
櫻井敦司は、その日本語歌詞を聴かせることに注意を払い和製ロック・ヴォーカルを構築してきた。
どちらかというと尾崎豊に近いものがあるやも知れない。
(叫び自体を歌詞に取り込む手法は尾崎豊も取り入れていた)

BUCK-TICKという全方向性アヴァンギャルドなサウンドのグループに、
統一感を持たせ、これがBUCK-TICKであると証明する明確な何か。
メンバーがよく口にするが、
それこそが、“櫻井敦司”のヴォーカルであろう。

この第2節の一声を聴いた瞬間に、まさに、
「大地を蹴り宙に舞う」感覚を憶え、
BUCK-TICKの将来性は、明るいと実感することになる。

そういった意味においてアルバム『Six/Nine』は、『狂った太陽』に続く覚醒を
BUCK-TICKにもたらした。

それが『Six/Nine』という長い暗いトンネルの出口のようにも感じる。



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『bp113-bt-14』




Kick(大地を蹴る男)
 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:今井寿・横山和俊)


大地を蹴り宙に舞う 永遠の瞬間目を閉じる
体中剥き出し宇宙に浮かぶ これが自由
唾液を流し悶えてた

怖い夢見て泣いていたの だいじょうぶ全て夢 ここは
呼吸 鼓動 響く 終わりなき愛のチューリップ

存在消え霧の中 大河を越え会いに行く

星と繋がり呼びかけてる 解き放て全てから そこは
呼吸 鼓動 響く 血まみれの愛の中

さあ道化師 躍れ躍れそれが運命 光る地獄で泣きながら
道化師 歌え歌えこれが運命 闇の真実に帰るんだ

怖い夢見て泣いていたの だいじょうぶ全て夢

星と繋がり呼びかけてる 解き放て全てから そこは
呼吸 鼓動 響く 血まみれの愛の中

さあ道化師 躍れ躍れそれが運命 光る地獄で泣きながら
道化師 歌え歌えこれが運命 闇の真実に帰るんだ

ドアの向こう側にそれが運命 闇の真実が待っている
ドアの前で叫ぶそれが運命 闇の真実に帰るんだ

大地を蹴り 宙に舞う