「楽園 (祈り 希い)」は10枚目シングル「鼓動」にカップリングされた楽曲で、
シングル盤はアレンジが全く異なり、ハードロック調のアレンジになっている。
一方、アルバム『Six/Nine』に収録された「楽園 (祈り 希い)」は、
全編にインドの民族楽器タブラがフューチャーされた。
作曲者の星野英彦によると、
「・・・・・・単純に使いたかったから」
ということであるが・・・。
BPASS誌によると
星野英彦
「まぁ、いろいろ(タブラの入った)CDとか聴いて・・・・・・
生の(タブラ)でやってみたいなと思って(タブラ奏者に)頼んで来てもらったです」
●アルバムとシングルの、ヴァージョンの違いについては?
ヤガミトール
「シングルの方は打ち込みと生(のドラムと)の混合ですね」
星野英彦
「それもわがまま言って作ってもらったんです。
(タブラを)録音している時に凄く感動したんですよ。
で、ヴァージョン違いを(アルバムはリズムが打ち込みで、完全タブラ・ヴァージョン)
作りたいなと思って、作らせてもらったんですよ」
●タブラには不思議な浮遊感があって、浮かんでると同時に落ちていってるみたいな感じで・・・
星野英彦
「そうですね。
何か、あれだけの楽器で凄く表情がたくさんあるっていうか、そこの感動したので」
●これで、BTは一層タブーがなくなったという気もしますけど?
星野英彦
「そう・・・・・・ですね。わりと何でもありって、なっちゃいますけどね」
(以上、引用)
と語っている。
ヴィデオクリップもまるで黒魔術で呪文でもかけているように、
手を繋いだメンバーが円陣を回りながら唄っていて、
幻想的であると供に、宗教的なイメージを醸し出している。
浮遊感と落ちていく感覚がよく表現されたクリップだ。
更に、この星野英彦の珠玉の名曲は、“リアルな反戦メッセージ”を込めた櫻井敦司の歌詞で、
BUCK-TICKの新たなる側面を表し完成した。
“リアルな反戦メッセージ”と書いたのは、それがいかにもBUCK-TICKらしい表現だったからだ。
「楽園(祈り 希い)」はむしろ声高に反戦を叫ぶというよりは、
そういった現実に対して無力な自身を愁いている。
ここでも、櫻井の「攻撃性は、自己に向かう」という美学が貫かれているのだ。
これは、湾岸戦争をはじめ、メディアで戦争や惨状を見る世代になっての己の憂いだ。
そういった場面をまるで映画でも見るように騒ぎ立てるマスコミにだけではなく、
その対岸の火事を鑑賞し、自分の現実とは受け止められないジェネレーションであることを自覚し、
現実逃避、もしくは目を反らしてしまう大多数の自分も一員であるということを憂いているのだ。
“楽園”とはイコール“日本”。
そして、そういった社会形成している自分世代への櫻井敦司の痛烈な皮肉だ。
「テレビでは悲痛な声でまくしたてるメロドラマ
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた」
の一節が表している通り、
日本・社会・マスコミへの批判という側面だけではなく、
その一部を形成する自分を恥じて、哀れんでいるのだ。
こういったシリアスな現実を突きつける櫻井敦司の歌詞と、
エキゾチックな中東をイメージさせる星野英彦のメロディがリスナーの胸を締め付ける。
この種の“痛み”を刻み付けるのが『Six/Nine』の特異性で、
感受性に強いファンには、酷な部分にもなった。
また、アラビックなイメージと供に問題作として注目を集めた。
この楽曲の間奏に効果音として使われているコーラン(逆回転)が、
某宗教団体の反感を買い、クレームへと発展。
アルバム『Six/Nine』シングル「鼓動」供に回収騒動となった。
問題のコーラン部分を削除し、パッケージを変更して1995年9月21日に再リリースとなったが、
そのエピソードが『Six/Nine』の話題性を更に高め、回収に応じず手元に置いたファンが多かった為、
現在でも多く出回っている。
ちなみにアルバムジャケット初回盤は紫、再リリース盤が赤。
サブタイトルの(祈り 希い)は、櫻井敦司が今井寿宅で見つけたピアノ教本のサントラ盤に
“希”と書いて“ねがい”と読むの知り付けたと公言している。

『bp113-bt-3』
楽園(祈り 希い)
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
愛の国ここは楽園 愛する人抱きしめ合う 永遠とも呼べる様な春
愛の土地花の楽園 平和に慣れ増え続ける これ以上何を求めてる
見知らぬ街見知らぬ人 血を流し悲しみの目 ここでは夢の物語
テレビでは悲痛な声でまくしたてるメロドラマ
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた
神の子が殺し合う愛の園 この俺は知らん顔で夢を見る
愛の国ここは楽園 愛し合い慰め合う よく似た顔が笑い合う
銃声に不治の病 愛し合い傷つけ合う それ以上何を求めてる
優しい父も母も 燃えた大地黒い雨
この僕は軽く涙流すふりで目を伏せた
神の子が愛し合う愛の園 この俺は知らん顔で夢を見る
神の子が殺し合う愛の園 この俺は知らん顔でここにいる
