1995年3月24日、オリジナルとしては2年振りとなるシングル「唄」がリリースされる。

これは次のアルバム『Six/Nine』の先行シングルであり、
3ヵ月連続リリースされると
予め予告されたBUCK-TICKの活動再開第1弾のシングル楽曲として発売された。
オリコンで初登場第4位を獲得する。

シングル盤としては9作目の楽曲となり、アルバムVerとはミックスが異なる。
今井寿の作曲が遅れた(もしくは止まらなくなって難航したとも言われる)為、
長引いていたアルバム『Six/Nine』の製作過程では、
「叫び」というタイトルであったらしいが、
あまりに平凡すぎるという事で、「唄」に変えられたとされる。

アルバム『Six/Nine』を聴くと納得するのであるが、
暗黒世界を唄うだけではなく、いきなりこの楽曲では、
BUCK-TICKの新たなモチーフが“生命”であると解る。

櫻井敦司による歌詞は、未だに“自己否定美学”を追求していて、
生きる“苦悩”の「叫び」が、「唄」へと昇華していく様が描かれているようだ。
しかし、ただ人生を憂いているのでは無く、曲調とリンクして、
力強く、絶叫し、手繰り寄せ、生きていく“覚悟”を決めた男の唄だ。

サウンドは、前作『darker than darknessーstyle93ー』での暗く重い、
分厚いデストローションのかかったギターサウンドで引っ張られていて、
PANTERAやSoundGarden、Stone Temple Pilots、Rage Against the Machine等の
アメリカのオルタナティヴ・グランジロックの影響を多分に受けたとされる。
確か重厚であるが、今井寿特有の一度聴くと忘れられないメロディーのせいか
シングルとしては持って来いのへヴィ・ロック・ナンバーとなっている。


さて、映像であるが、久々の新作登場で注目を集めたヴィデオ・クリップ。
BTメンバーは、それぞれにコスプレを楽しんでいて、
深刻な楽曲の内容を、自ら茶化しているようだ。

桜井敦司は自称怪しい人?で、マスクを付けて登場し、
久々の登場ながらその麗しい素顔はほとんど見せてくれない。(モザイクも入る)
この時期、トレードマークとなっていたワンレンを大胆にカットしたのだが、
それも、金髪のカツラで確認出来ない。
恐らくはマドンナ(Madonna)か?マリリンモンロー(Marilyn Monroe)か?
をモデルとしたものと思われるが、
本人はラジオ番組にて「誰だかわかんないですね」とコメントしていた。

今井寿のカート・コバーン(Kurt Cobain)星野英彦のレニー・クラビッツ(Lenny Kravitz)
はグランジサウンドとの相性はぴったりでコンバースを星野に投げつける今井が印象的。

樋口“U-TA”豊は自称ロック小僧とされ、特定のモデルはいないようだが、
プレイスタイルや手にする楽器は、Mötley CrüeのNikki Sixxのようにクールだ。

ヤガミ“アニイ”トールは、The Beatlesのリンゴ・スター(Richard Starkey)で、
敬愛する Led Zeppelinのジョン・ボーナム(John Bonham)と並んで、
彼の好きなドラマーをコスプレで演じている。
BUCK-TICKのバンドロゴをThe Beatles風にバスドラム描くなど細部にもこだわりを見せている。

こういったある種子供染みた演出を本気でやりつつ、“生命”を唄う
新生BUCK-TICKの姿には、誰もが衝撃を受けた。




 (作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿 / 編曲:BUCK-TICK)


どうして生きているのか この俺は
そうだ狂いだしたい 生きてる証が欲しい

神経は落ちてくばかりで 鼓動はずっとあばれ出しそうだ

深い森に迷い お前の名を呼ぶ

逃げ出すことも出来ない 立ち止まることも知らない
聞いてくれこの声 お前を愛しているのに

抱いて慰めてくれ そう甘く
だめだ溺れてしまう 優しい君の中

誰も泣きたいはずだろ 優しくきっとされたいはずさ

熱い肉の軋み お前にこの愛

生きる事はできる 消えていくすべを知らない
この手伸ばしている お前を愛しているのに

ああ この世で美しく ああ 限りないこの命
ああ この世で激しく ああ 燃えろよこの命

どうして生かされてるのか この俺は
そうだ叫びだしたい 生きてる証が欲しい

神経は落ちてくばかりで 鼓動はずっとあばれ出しそうだ

熱い皮膚の裂け目 吹き出すこの愛

消える事はできる 生きてゆく意味知らない
この手伸ばしている

逃げ出す事もできない 立ち止まる事も知らない
聞いてくれこの声 お前を愛しているのに

ああ この世で美しく ああ 限りないこの命
ああ この世で激しく ああ 燃えろよこの命