「受けるより、与えるほうが、幸せ」
(イエス・キリスト)
ヴィデオ収録のためのスペシャル・コンサート『CLIMAX TOGETHER』が
1992年9月10日,11日に横浜アリーナにて行われた。
当時のBUCK-TICKの通常のライヴとは違い、
この『CLIMAX TOGETHER』 は序盤からドラマチックに盛り上っていく構成となっている。
この映像は、まるで一本の映画作品を見ているようだ。
オープニングも美しき名曲「JUPITER」から幕を開け、
終盤までBUCK-TICK特有のデカダンな世界が演出された伝説のライヴ・パフォーマンスであった。
そして、このライヴのオープニングを飾るナンバー「JUPITER」のテイクは、
『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』からのテイクである。
作曲を担当したギタリスト星野英彦によるとこのアレンジは、
「これは再現できないでしょう。
荘厳な曲になったなぁ、と。
昔俺が作ってたデモからすれば、
比べもんにならないくらい豪華に変身してくれた曲なんです。
シングル盤の女性コーラスよりももっと清らかな雰囲気が
グレゴリオ聖歌によって出せたと思います。
自分でもいい曲になったなぁと思うし、
シングルで気に入ってくれた人にも大丈夫じゃないかな。
イヤがられないでしょう」
と語った。
しかし、実際には、このライヴ『CLIMAX TOGETHER』 において
アルバムそれ以上の世界観を持って表現がされていると言える。
漆黒の暗闇に灯された蝋燭。
蝋燭を灯しながら、メンバーの面々を櫻井敦司が照らし開幕への道標を歩む。
櫻井敦司が蝋燭の明かりを吹き消す。
暗転した横浜アリーナを横に使った巨大なステージを覆う、これまた巨大な緞帳に、
メンバーのシルエットが映し出され「JUPITER」はプレイされ始める。
こういった演出ひとつひとつが、スペシャルライヴたる宴の幻想感を盛り立てる。
演奏も静から動へと移る中盤まで、シルエットのみのショウを続けるBTメンバー達。
そして、この宴、初のClimax!!
それは、櫻井敦司の絶叫!!
「Say-Good-Bye!!」
これは、彼の最愛なる母親へのメッセージに違いない。
そして緞帳は開き
「Oh, My Mother!!」
そして、ここではじめて彼らを支え、未来への希望を繋ぐファンへ
メッセージは移る。
「愛してくれるか?」
とドラマティックに、
そして、それまでベールに包んでいた自分という殻を
赤裸々に曝け出し、櫻井敦司は「JUPITER」を唄い続ける。
これは、彼の過去への決別と未来を掴む決意の表明だったのかも知れない。
そして、唄い終えるとつぶやく「Thank, You MaMa」と。
この楽曲の作詞を担当した櫻井敦司は、1990年のツアー中に母親と死別している。
その思いを込めたナンバー「JUPITER」は、1991年アルバムの『狂った太陽』 に収録され、
サード・シングルとなってリリースされた。
この『狂った太陽』で、櫻井敦司はミュージシャンとしてのターニング・ポイントなったと語る。
それまでの形に拘る【ことば】ではなく、自身を見つめ、表現する【ことば】を楽曲に投影している。
それは、死の受け入れと、生へのパワーなのかも知れないし、
彼の人生の付き纏う命題なのかもしれない。(それは彼自身にしか判らない)
とにかく、この後、BUCK-TICKが、
櫻井敦司の世界観を武器として表現者としての幅を広げたのは確かであった。
そして、この「JUPITER」によって文字通り『CLIMAX TOGETHER』の幕が上がった。
JUPITER
(作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦 / 編曲:BUCK-TICK)
歩き出す月の螺旋を 流れ星だけが空に舞っている
そこからは小さく見えたあなただけが
優しく手を振る
頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
初めから知っていたはずさ 戻れるなんて だけど。。。少しだけ
忘れよう全てのナイフ
胸を切り裂いて 深く沈めばいい
まぶた 浮かんで消えていく残像は まるで母に似た光
そして涙も血もみんな枯れ果て
やがて遥かなる想い
どれほど悔やみ続けたら
一度は優しくなれるかな?
サヨナラ 優しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?
頬に濡れ出す赤い雫は せめてお別れのしるし
今夜 奇麗だよ月の雫で 汚れたこの体さえも
どんなに人を傷つけた
今夜は優しくなれるかな?
サヨナラ 悲しかった笑顔
今夜も一人で眠るのかい?

