バンド初の海外レコーディングされたアルバム『TABOO』。

その前年1988年10月26日に先行シングルとしてリリースされた楽曲が
独特な雰囲気ながらもメロディアスな「JUST ONE MORE KISS」。
このシングルは累計14万枚をセールスし、チャートでも最高6位を記録していた。

また、マス・マーケティングを実践するメジャーレーベルのビクターは、
相乗効果を利用して、BUCK-TICKを一般世間に一気に売り込んだ。
それより以前の日本音楽シーンには、歌謡曲とロックには、ジャンルという壁があったといえる。
それを切り崩して来たBOØWYや吉川晃司、そしてそのフォロワー達によって、
この頃には、ジャンルの垣根は曖昧になりつつあった時期である。
この年1988年末にはBUCK-TICKは日本武道館で、日本レコード大賞新人賞受賞してしまうのだ。



しかし、このメジャーの洗礼を反比例するかのようなアルバムが『TABOO』であった。

前作『SEVENTH HEAVEN』より約半年という短いスパンでリリースされた『TABOO』。
ここでようやく数多く存在するBOØWY直系ビート・ロック・スタイルから脱却、
ついにBUCK-TICK独自の世界観構築へ踏み出す。

顕著なのは全体に漂うゴシック・フレイバーである。
とは言えそれが完全に表現しきれていない印象を受けるのは、
製作にかける時間が非常に限られていたという事情の為だろう。
おそらく彼らの中には、もう少しこうしたかったという欲求を次に残すかたちになったのではないか。
とはいえ、彼らを語る上で欠かせない名曲が点在するのも確か。

アルバム・オープニングを飾る「ICONOCLASM」は、
EBMのリズムを取り入れつつ固定されたギター・リフの反復と櫻井の英詞の呟きだけで進行する
BUCK-TICK流インダストリアルSE。

その後に続く「TOKYO」では崩れいく都市をダークな空気感で表現した。
この上なくアバンギャルドでありながら、
ライヴやベストアルバムの定番にもなっているそのポップさは、
彼らの類稀なる手腕の賜物といえる。

同様に初期の名曲として名高い壮大なスケール感の「ANGELIC CONVERSATION」

その他大勢のBOØWY後継ビート・ロック・バンド群の中から、
個性的なBUCK-TICKという存在への橋渡しの役目を果たす
ゴシックのダーク雰囲気と重くハードな作風を強調した初のコンセプト・アルバム。

それが『TABOO』の正体だ。


そしてメジャー初シングルにして
キャッチーなビート・ロックの名作「JUST ONE MORE KISS」が
最期の10曲目に収録されている。



全体的にダークな雰囲気の『TABOO』 の中に
キャッチーな「JUST ONE MORE KISS」を入れたのは?との問いにメンバーが答えている。



今井寿

「「TABOO」を最後にしようと思ってたんだけど、
アッちゃんがあの曲が最後だと『死んじゃうよ』とか『苦しいよ』とか言ってて。
やっぱり、救われないといけないよな、と。
で、最後が「JUST ONE MORE KISS」になった」



櫻井敦司

「でもあの曲は音質的な事から言ってもあそこにしか入らない。
まして一曲目だったら、そこでアルバムが完結してしまう。
俺は「JUST ONE MORE KISS」はね、オマケみたいな、それくらいの気持ちで入れたかった。
(「JUST ONE MORE KISS」を)入れても入れなくても
『TABOO』は『TABOO』なんです。
あのダークで、ヘビィなトーンは変わらないと思う」


やはり、あの曲は、あのポジションしかなかったのだ。