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世界資源研究所 ワンジラ・マタイさんに聞く2024年7月9日

  • 〈SDGs×SEIKYO〉 木を植えることは人間の尊厳を取り戻すこと

©本人提供

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 アフリカに5000万本以上の木を植えた「グリーンベルト運動」を創設し、2004年に環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ博士。その息女であるワンジラ・マタイさんは現在、米国に本部のある「世界資源研究所」でアフリカ地域とグローバルパートナーシップを担当するマネージング・ディレクターとして活躍し、昨年、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれています。SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」を巡って、マタイさんにインタビューしました。(取材=樹下智、山科カミラ真美)

 ――マタイさんは米国の大学院で公衆衛生の修士号を取得した後、著名なNGO「カーターセンター」で6年間、勤務されました。その後、母国のケニアに戻り、グリーンベルト運動に参加するようになったのは、なぜでしょうか。
  
 実は、米国で12年間、勉強して仕事をしたので、少し休もうかと思って帰国したんです。1年間だけリラックスして、次にどうするかを考えようとしていたのですが、「せっかく1年も家にいるなら」と、母からサポートを頼まれました(笑)。でも、母の仕事に携わるようになり、彼女の日々の活動を目の当たりにするにつれ、独創的なグリーンベルト運動にほれ込むようになりました。運動についてはずっと知っていましたが、それまで一緒に働くことはなかったからです。

 米国では、「カーターセンター」のスタッフとして、米疾病対策センター(CDC)で、オンコセルカ症、メジナ虫症、住血吸虫症といった、とりわけ社会から最も置き去りにされた人々に影響を与える熱帯病の撲滅のためのプログラムに従事しました。こうした疾病は、水の汚染など、その地域の環境の悪化と密接に関わっています。ですから、母の活動を手伝うようになり、自身が深めてきた専門分野を生かしながら環境問題に取り組めることにやりがいを感じました。
  

これまでアフリカで5000万本以上の木を植えてきた「グリーンベルト運動」 ©Green Belt Movement

これまでアフリカで5000万本以上の木を植えてきた「グリーンベルト運動」 ©Green Belt Movement

 ――マータイ博士が2011年に亡くなられた後、マタイさんはグリーンベルト運動の議長(現在は正規メンバー)、ワンガリ・マータイ財団の理事長として活動され、お母さまの遺志を受け継いでこられました。
  
 運動の設立から母がノーベル平和賞を受賞した04年までの約30年間で、約3000万本の木を植えましたが、その数は現在は5000万本以上にまで増えています。グリーンベルト運動は、レストレーション経済(森林回復による経済発展)の先駆的存在です。ただ木を植えるだけではなく、人々の人生と生活を変革する運動です。種子の生産、苗床の管理、植樹、果物などの収穫、商品の売買まで、その一連の過程がうまくいき、地元地域が潤うようにしてきたのです。

 〈グリーンベルト運動には、女性を中心にのべ10万人が参画し、貧困からの脱却、女性の地位向上にも寄与してきた〉

 木を植えることは、自然の景観を変えるだけではなく、人々の人生をも同時に変えます。

 グリーンベルト運動によって、劣化した土地に木々が生い茂り、川が再び流れるようになった景色を、私たちは実際に見てきました。そしてまた、その活動を通して、人生を変えていった人々も多く見てきました。

 長年、運動に携わったある女性は、誇らしげにこう語っていました。自分の植えた木から収穫した果物を家族で食べ、息子たちが結婚した時には、自分の植えた木で家族のために家を建ててあげられたんだ、と。自分の手で植えた木を木材としてできた、その尊厳に満ちた家に、愛する子どもたちが住んでいる。母たちにとって、これ以上に意義深いことはあるでしょうか。

 森林を回復させ、収益も得ることができる。それだけではなく、人間としての尊厳を取り戻すことができたのです。

アフリカ各地で進む森林伐採 ©Martin Harvey/Getty Images

アフリカ各地で進む森林伐採 ©Martin Harvey/Getty Images

7億5000万ヘクタール

 ――SDGsの目標15には、「森林減少を止め、劣化した森林を回復させ、世界全体で新規植林と再植林を大幅に増やす」ことが掲げられています。マタイさんは、「森林回復によって土地劣化の負の連鎖を止め、気候変動による人々への最悪の影響を和らげることができる」と強調されています。
  
 温室効果ガスである二酸化炭素の排出量の約20%を、森林が吸収しているといわれています。気候変動緩和の目標を達成するためには、森林破壊を止め、劣化した土地を再生させていかなければなりません。

 一方で、人口増大による農業分野の土地利用の拡大が、森林に大きな圧力をかけています。したがって、いかに森林を守りながら、効果的かつ再生可能な形で、農作物の生産量を増やせるかが、大きな課題になっているのです。

 アフリカ大陸全体の実に6割で、土壌劣化が進んでいるといわれています。その劣化した土壌も含め、7億5000万ヘクタールもの土地に森林回復の可能性があります。これは、オーストラリア大陸と同じくらいの広大な面積です。

 アフリカ連合開発庁が事務局となって各国政府が推進している「アフリカ森林景観復興イニシアチブ(AFR100)」では、2030年までに1億ヘクタールの土地の森林回復を目指しています。

 世界資源研究所も協力しており、私たちは「リストア・ローカル(地元からの再生)」という運動を進め、グリーンベルト運動のような森林回復のチャンピオンたちと一緒に、地域に根差した森林回復の活動を支援しています。

 私たちは、こうした活動がいかに効果を発揮するのか、その方程式を知っています。地域コミュニティーの最前線で活動する人々の中にこそ、知恵があり、情熱があります。何がなされなければならないかを熟知しているのです。
  

世界資源研究所が推進している運動「リストア・ローカル(地元からの再生)」。グリーンベルト運動のような地域に根差した森林回復の活動を支援する ©Serah Galos/WRI

世界資源研究所が推進している運動「リストア・ローカル(地元からの再生)」。グリーンベルト運動のような地域に根差した森林回復の活動を支援する ©Serah Galos/WRI

 ――マタイさんは現在、世界資源研究所のマネージング・ディレクターとして、どのような活動に注力されているのでしょうか。
  
 世界資源研究所では、「食料、土地、水」「エネルギー」「都市」の三つを、根本的な変革を推進する主要な分野と定め、自然を守り、気候変動を緩和し、貧困を解決するためのグローバル戦略を立案しています。その戦略を実行に移すのが私の責任です。

 人々の生活の質の向上と、自然保護・再生を同時に実現するという変革が必要です。私たちは研究機関として、その変革を促進するための方法とプラットフォーム(基盤)を開発し、政策決定者や市民社会と共有しています。

 都市を開発し、貧困問題に取り組むために、自然を犠牲にする必要はありません。今日における都市開発とは、もっと回復力があって持続可能な未来をつくることに貢献し得るものです。

 逆を言えば、自然を守り、気候変動を緩和するための行動を起こすことが、経済・社会の開発目標を達成するための推進力にもなります。この「ニュー・クライメイト・エコノミー(新たな気候経済)」という概念を、多くの人に知ってもらいたいと考えています。

母の献身と楽観主義

 ――マタイさんは05年2月、お母さまと一緒に聖教新聞本社(当時)を訪れ、創価学会第3代会長の池田大作先生と会見されました。
  
 池田氏との会見は、とても特別なものでした。池田氏は、自然の価値を理解している献身的な活動家でした。

 池田氏は、世界の別の場所で、同じ価値観を持って行動していた母の業績を正しく評価し、感謝してくださいました。氏と母は、全く違う場所で、全く違う文化的背景で育ちました。しかし、2人は自然について同じ価値観を共有し、人間生命を維持するために、いかに自然環境が重要であるかを理解していました。

 池田氏のおかげで、私たちは創価学会のコミュニティーについて学ぶことができました。そして、世界のどこに行っても、創価学会の方々と出会えたように思います。

 〈池田先生はマータイ博士との会見で、グリーンベルト運動の原点ともなった「イチジクの木」をアメリカ創価大学(SUA)に植樹することを提案。SUAには博士の名を冠した「イチジクの木」が植えられ、11年完成の教室棟は「マータイ棟」と命名された〉
  

池田先生ご夫妻がノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイ博士(左端)とワンジラ・マタイさん(左から2人目)を歓迎(2005年2月、東京・信濃町の旧・聖教新聞本社で)

池田先生ご夫妻がノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイ博士(左端)とワンジラ・マタイさん(左から2人目)を歓迎(2005年2月、東京・信濃町の旧・聖教新聞本社で)

 ――マタイさんは昨年5月、SUAの第19回卒業式で記念講演を行いました。池田先生との会見で聞いた哲学について語りながら、「今日、こうした哲学を持つリーダーが求められています。皆さんは、正しい道を進んでいることを認識していただきたい」と、学生たちに呼びかけました。
  
 SUAを訪問できたことは、私にとって素晴らしい経験となりました。美しいキャンパスに世界中から学生が集う、多様性に満ちた様子に感銘を受けました。アフリカからも学生が留学していましたね。何より学生たちが、グローバルな視点を持ち、自身の行動がいかに他者に影響を与え得るかを学んでいたことが重要でした。

 卒業式では、「あらゆる機会を大切にすること」「グローバルな視点を持ち続けること」「何をするにしても、それが他の人にどのような影響を与えるのか考えること」という三つのメッセージを共有させていただきました。特に強調したかったのは、三つ目の点です。

 私たちが当然のように与えられている機会や権利に感謝し、その恩恵にあずかれない人々のために戦っていけるよう、私たちは常に努力していかなければなりません。混迷の度を深めるこの世界にあって、自分たちだけが恵まれていればいいという考えではいけないのです。
  
 ――理想に向かって歩み続けるのは、簡単なことではありません。
  
 私は母から、他者への献身、そして楽観主義を貫き通す強さを教わりました。たとえどんなに厳しい状況に置かれても、私たちは必ず壁を破れると信じていました。

 母の忍耐、粘り強さ、献身の姿は、私の勇気の源泉でした。私も同じように実践したいと、どんな時でも道を開けるよう、決して諦めずにベストを尽くしています。

 日本での母との忘れられない思い出があります。1年に2度は、母と訪日している時期がありました。各地を訪問させていただく中で、これほど発展した国に、これほど多くの緑があることに、いつも驚いていました。

 母は新幹線の中で、車窓に映る緑の山々を見ながら、私に「写真を撮って!」と何度も言うのです。森林が土壌を覆っているのは、自然の貴重な資源を守っているということです。美しい緑を守り続けている日本の姿を通し、あらゆる土地に、木々や草花を生い茂らせることができるのを、私に教えたかったのだと思います。

 森林の生態系は、私たちが想像している以上の価値があります。自然をただの“天然資源”として、人間の経済発展のための搾取の対象としか見ることができなければ、森林を守ることはできません。森林の本質的な価値を知り、その生態系への私たちの見方を変える必要があるのです。

アメリカ創価大学の第19回卒業式で記念講演を行うワンジラ・マタイさん(昨年5月)

アメリカ創価大学の第19回卒業式で記念講演を行うワンジラ・マタイさん(昨年5月)

 Wanjira Mathai ケニア生まれ。米ホバート・アンド・ウィリアム・スミス・カレッジを卒業し、エモリー大学大学院で修士号(公衆衛生・経営学)を取得。NGO「カーターセンター」で勤務した後に帰国し、母であるワンガリ・マータイ博士が設立した「グリーンベルト運動」に従事する。2019年に環境シンクタンク「世界資源研究所」の副理事長、アフリカ地域ディレクターに就任し、22年から現職。

 
 
 
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sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html