〈インタビュー〉 政治改革は公明党が主導すべし2024年6月30日

  • 九州大学名誉教授 藪野祐三さん

 今国会で議論が進む政治資金規正法の改正――。政治改革のあり方について、藪野祐三氏に聞いた。(「第三文明」7月号から)

やぶの・ゆうぞう
1946年、大阪市生まれ。政治学者。専門は現代政治分析、国際関係論。大阪市立大学法学部院助手などを経て、九州大学大学院法学研究院教授に就任。多数の公職を兼任するとともに、政府や政党に対してさまざまな政策提言を行ってきた。九州朝日放送の番組などにもコメンテーターとして出演。近著に『現代日本政治講義 自民党政権を中心として』(北海道大学出版会)、『有権者って誰?』(岩波ジュニア新書)がある。

やぶの・ゆうぞう 1946年、大阪市生まれ。政治学者。専門は現代政治分析、国際関係論。大阪市立大学法学部院助手などを経て、九州大学大学院法学研究院教授に就任。多数の公職を兼任するとともに、政府や政党に対してさまざまな政策提言を行ってきた。九州朝日放送の番組などにもコメンテーターとして出演。近著に『現代日本政治講義 自民党政権を中心として』(北海道大学出版会)、『有権者って誰?』(岩波ジュニア新書)がある。

規正法の問題点

 今国会では、自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて、政治資金規正法の改正などの政治改革に向けた議論が行われています。

 戦後の政治改革には、これまで2度の大きなターニングポイントがありました。1つは1976年に起きたロッキード事件であり、もう1つは1988年に起きたリクルート事件です。いずれも政治家が絡む大規模な汚職事件であり、そのたびに政治改革が行われてきました。

 政治資金規正法もたびたび改正してきたわけですが、今回は自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる問題によって、これまでに改正し切れなかった部分が明らかになったと言えるでしょう。
 

 政治資金規正法をもとに、政治家を罰するには障壁が相当高く、私はこれが政治改革を阻む最大の問題だと思っています。

今回の自民党裏金問題に関与した議員への処分は、そのほとんどは党内の規約によるものです。法律によって罰せられない以上は、政治的・道義的に政党内で処分する以外にありません。しかし本来であれば、国民の信任を得た国会議員である以上、法律によって罰則が適用されるのが望ましく、単に党内の問題に矮小化されないようにするべきでしょう。

 自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で、違法とされるのはパーティーそれ自体でもキックバックでもなく、収支報告書への不記載です。しかし、法的な責任は政治資金団体の会計責任者が負うことになっているため、政治家本人は法的責任を免れる形になったわけです。

 そこで政治資金規正法改正のポイントになっているのが、会計責任者だけでなく議員も処罰の対象とする、いわゆる「連座制」の導入です。与党では公明党が本年1月に発表した「公明党政治改革ビジョン」のなかでいち早くこの連座制の導入を主張しました。当初の自民党は慎重だったものの、4月末に自公で与党案を取りまとめました。議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務付け、会計責任者が虚偽記載などで処罰された場合は、一定の条件下で議員も処罰されるというものです。

 もちろん、国民に選ばれた国会議員の身分は重く、みだりに失職させるようなことがあってはいけません。巷には「企業であれば部下の失敗の責任を上司が取るのは当然」という例を持ち出し、国会議員もそうすべしとの声もありますが、企業と国会議員を同列に論じるのは乱暴な考え方です。
 ただ、それでもやはり、議員がしっかりと責任を取れるような仕組みづくりが必要になってきていると思います。

第三者機関の設置を検討すべき

 政治改革で最も大切なのは、今後同じ問題を起こさせないことです。そのためには、自民党だけの問題とするのではなく、与野党ともに政治改革に真摯に向き合う必要があります。

 論点の1つとなっている政策活動費は、自民党だけでなく、立憲民主党や国民民主党、日本維新の会でも使われていました。その点公明党は政策活動費を支給していませんので、改革の議論をリードできると思います。

 過去の議論も参考になるはずです。1990年代の政治改革の際には、政治資金に関するオンブズマン(外部から監視・検証・勧告などを行う制度や団体)の導入も論点となっていました。ところが、当時はそこまでの制度をつくることができませんでした。

 有権者の信頼を取り戻し、二度と同じ問題を起こさないためには、オンブズマン制度など第三者機関の導入が必要だと私は考えます。第三者機関の設置についても、公明党は政治改革ビジョンのなかで、その必要性を訴えています。 さらに、第三者機関や国民が収支報告書を監視しやすくするために、報告書のデジタル化の推進もビジョンに掲げています。

公明党が主導する形でしか成し得ない

 公明党は他にも、①政治資金パーティーの支払者の氏名の公表②同パーティーの入金方法の厳格化③政策活動費の使途公開④調査研究広報滞在費の使途公開や未使用分の返納――などを政治改革ビジョンに掲げています。

 ①については、支払者の氏名の公開基準となる金額について、現時点では自公で意見が分かれています。私は透明性の観点から、公明党が主張するように、20万円超から5万円超に引き下げるのが妥当だと思います。

 ②では、入金方法を口座振込に限ることが主張されていますが、現金だと足がつきにくいので、妥当な提言と言えます。

 ③は、公明党が強く主張しなければならないことです。先述のとおり、自民のみならず立憲・国民・維新などもこの名目に該当する支出をしていますが、公明党は行っていないからです。

 ④は、現状ではおおよその見積もり額を先に支払う概算払いが行われています。現在多くの企業が概算払いではなく精算払いにしている状況を考えると、国会議員も使途公開や未使用分の国庫への返納は避けられないと思います。

 公明党のビジョンは、日本におけるこれまでの政治改革の経緯を踏まえた的確なものと言えます。これは、公明党が結党以来、一貫して清潔な政治を志向し、不正を糾弾してきたからこそ、つくり得たビジョンだと思います。

 公明党の党史を見ると、前身となる公明政治連盟の時代に、都議会公明が推し進めた“宴会政治の追放”が大きく取り上げられています。宴会予算の削減や全廃は、都議会公明が主導したことで全国各地に伝播しました。公明党による政界浄化の原点の出来事と言えます。

 この歴史を大切にしている公明党では、今もなお政治とカネについての議員教育がしっかりと行き届いているように思います。また、支持母体である創価学会による強力な支持基盤があり、全国各地に約3000人の地方議員を擁するネットワーク政党でもあります。それがゆえに、公明党の国会議員は政治活動に集中することができるのです。

 私はそんな公明党だからこそ、ぜひとも今般の政治改革をしっかりと主導してもらいたいと思っています。野党としては、どうしてもこの問題を政局に利用したくなる。一方の自民党は、この件に関しては一貫して慎重な姿勢を見せています。真に国民のためになる政治改革は、長らく政界浄化に徹してきた公明党が主導する形でしか成し得ないのです。