〈教育〉 親子で話そう 月経について2024年6月20日

  • 自分の体を知ることは「自立」につながる

スポーツ医学博士 鈴木なつ未さん

 女性は12歳ごろに初潮を迎え、妊娠期間や産後などを除いて、閉経までの約40年間、月経のある生活を送ることになります。毎月訪れる月経と上手に付き合っていくために家庭では何ができるのか。数多くの女性アスリートの月経に関するサポート活動を行っている、スポーツ医学博士で拓殖大学准教授の鈴木なつ未さんに、親が心がけたいポイントを聞きました。

■毎月来るのは「健康の証し」

 女性には毎月、月経があります。一生で見ると、初潮を迎えてから閉経まで、平均約6年半に及ぶ日数を月経とともに過ごします。

 月経は面倒でつらいものと思われがちですが、自分の体の状態を知る機会であり、毎月来るのは「健康の証し」です。子どもたちには月経をポジティブに捉え、「月経が来てよかった」と思ってほしいのです。

 そのためにも、ご家庭では月経についてオープンに話してもらえたらと思います。親御さんの中には、保健体育の授業で教員が教えてくれると思っている方もいらっしゃるかもしれません。確かに学習指導要領による指導や教科書から、基礎的な知識を得ることはできます。

 しかし、1、2回の授業だけで“わがこと”として考えられるようになるのは難しく、不調の際の対応を教えてもらう機会はなかなかありません。何度も話したり、母親など身近な人の経験を聞いたりする中で「あの時、言っていたのはこれか!」と知識と自分の体の状態がつながります。月経時の過ごし方や不調の際の対応策など、お母さんにはご自身の経験を交えて話してみていただきたいです。

 月経の話になると、男親の皆さんは「出る幕なし」と思ってしまうかもしれませんが、そんなことはありません。ある学生は父子家庭で、父親から「生理になったらトイレに張っているカレンダーに印を付けてほしい」と言われたそうです。父親は月経前の時期には「体調は大丈夫?」と声をかけたり、月経中は鉄分が多く含まれるドリンクを置いてくれたりしたようです。

 そうしたサポートが積極的にできるかどうかは、家庭の状況によって違うでしょう。ここで大切なのは、月経は秘すべきものではなく、「子どもの健康に関わること」との認識を持っていただくことなのです。

■大切なのは記録の継続

 家庭でのサポートとともに、子ども自身が自分の月経をよく知ることも重要です。そこで、ぜひお勧めしたいのが「月経の記録」です。具体的に記録するものは、三つあります。

①月経期間と周期
 月経が始まった日と終わった日を記録します。手帳やカレンダーに印を付ける、アプリで管理するなど、続けやすい方法なら何でも構いません。記録していくと、月経周期も分かります。「1カ月ごと」に来るというのは目安で、正常な月経周期は「25~38日」です。この周期を一つの正常な目安としてください。

②慣れてきたら「状態」も
 月経の記録に慣れてきたら、月経で出る血液の量や下腹部痛、イライラなどの精神状態も記録しておくといいでしょう。継続して記録することで、ささいな変化でも気付くことができるようになり、自分の健康状態を把握する手掛かりにもなります。

③基礎体温も記録するとベスト
 基礎体温とは、朝目覚めた時に起き上がらずに「寝たままの安静の状態」で測った体温のことです。基礎体温は婦人体温計(小数点以下2桁まで表示)で計測します。女性の体温はホルモンの影響で変動します。継続的に測定していくと、1カ月の中で、体温が低い時期と高い時期が分かります。数サイクル記録していけば、排卵日や次回の月経が始まるタイミングを予測できるようになります。また、排卵の有無を含め、月経異常を早期に把握することもできます。

 記録するのを忘れる日があったとしても、測れるタイミングからまた始めれば大丈夫。大切なのは、継続することです。

 月経の記録を続け、なおかつ気軽に相談できる大人がいることで、子どもたちは三つの力を養うことができます。

 ①自分が今どんな状態なのかを把握する
 ②不調や不安を感じたら対応を考え、必要であれば、周囲にも相談する(おなかを温める、鎮痛剤を飲む、休息するなど具体的な対応も)
 ③周囲にお願いしたいサポートも含めてどうするのか自分で決めて行動する

 こうした経験の積み重ねは、子どもの「自立」につながります。ご家庭でできることから始めてもらえたら、うれしく思います。

≪家庭で大切にしたいポイント≫

①何げない会話の中で聞く

 私は子どもたちに日頃の調子を聞くのと同じように「生理はどう?」「順調?」と、自然なテンションでさらっと質問します。すると、子どもも驚くことなく「大丈夫」と答えてくれたり、困り事を相談してくれたりします。

②間違っていても否定しない

 以前、ある子から「ネットで調べたら、痛み止めは癖になるので危険だとありました」と言われたことがあります。子どもたちは、ネットで見た不正確な知識を得て、誤った思い込みをしていることがあります。
 
 そうした発言に対しては、「それは違うよ」と頭ごなしに否定しないようにしましょう。「よく調べたね」と受け止めた上で、「飲むタイミングや回数を考えて服用すれば大丈夫」など、子どもが理解でき、安心する言葉をかけることも大切です。

③子どもを自分や他人と比較しない

 月経の重さや症状については、個人差が大きく、そのつらさはその人にしか分かりません。

 母親の場合、同性だからこそ理解できる部分がある一方、ご自身につらい症状がない場合、「我慢する」「寝ていれば大丈夫」と受け流してしまわないでほしいのです。「人によって月経前や月経中の状態は違う」との大前提のもと、子どもの症状に耳を傾けてください。その次に、「鎮痛剤を飲む?」「おなかを温めてみよう」など対応策を提示してもらえたらと思います。

④モノを介在させて話す

 生理用品など「モノ」について話すのはお勧めです。情報交換をする感じで、「これは良かった」「使いやすかった」など、自分が使ってみた感想を話してみましょう。新製品を一緒に試すのもいいかもしれません。
 
 そうした会話の中で、子どもからも質問や悩み事が出てくると思います。

⑤婦人科受診を当たり前に

 月経痛で鎮痛剤を飲んでも効かない、15歳になっても月経がないなどの場合は婦人科を受診しましょう。

 もちろん、それらに限らず少しでも心配なことがあれば、婦人科を受診してください。「これだけのことで……」とためらう必要はありません。

 歯が痛ければ歯科に、けがをしたら整形外科に行くのと同じように、月経に関する悩みがあれば婦人科へ行く。それを当たり前にしていくことが、子どもの健康を守ることにつながります。

鈴木なつ未著『真剣に生理の話をしよう』(時事通信社)

鈴木なつ未著『真剣に生理の話をしよう』(時事通信社)