〈SUA第20回卒業式から〉 SUA理事長 スティーブ・ダナム氏の講演(要旨)2024年6月3日

  • 言論の自由と対話の重要性

 アメリカ創価大学(SUA、カリフォルニア州オレンジ郡アリソビエホ市)の第20回卒業式が、5月24日(現地時間)に開催された。席上、全米大学弁護士協会理事などを歴任し、SUAの理事長を務めるスティーブ・ダナム氏が記念講演を行った。「言論の自由――対話、民主主義、コミュニティー」と題した、氏の講演の要旨を紹介する。

  
 ご卒業、誠におめでとうございます。皆さん一人一人を、心から祝福いたします。
 また、卒業生を励まし、支えてこられたご家族やご友人の皆さまにも、お祝い申し上げます。
 そして、SUAの教職員の皆さんが、学生のため、大学のために行ってきたこと、行っていることの全てをたたえたいと思います。
  

■貢献的人生――創立者が示したSUAの使命

  
 この講演の主題は、第一に「言論の自由」の原則は、現在のアメリカ、そして世界中の大学のキャンパスで起きている対立や混乱に、どのように適用されるかということです。
 第二に「建設的な対話」は、言論の自由と組み合わされたとき、どのように紛争の解決に役立つかということです。
  
 冒頭で私の結論を申し上げれば、建設的な対話のためには、個人が自分の意見を述べることができる言論の自由が必要であり、建設的な対話は、私たちが直面している対立を平和的に解決するために必要であると信じています。
  

SUA創立者の池田大作先生が、スティーブ・ダナム氏(当時はSUA副理事長)を迎えて。21世紀の教育と法律を巡って語り合った(2004年1月、八王子市の東京牧口記念会館で)

SUA創立者の池田大作先生が、スティーブ・ダナム氏(当時はSUA副理事長)を迎えて。21世紀の教育と法律を巡って語り合った(2004年1月、八王子市の東京牧口記念会館で)

  
 現在の大学のキャンパスにおける言論の自由の問題は、昨年来、中東地域で続いている紛争を巡るデモの文脈で、最も顕著に生じています。また、近年は多くの大学で、人種と差別の問題に関連する抗議行動が起きており、これも言論の自由についての議論を提起しています。
  
 創立者・池田大作先生は、SUAの使命として、「貢献的人生」「世界市民」「平和」そして「対話」といった点を掲げました。私もまた、SUAの使命は、言論の自由と対話を支持するものであると信じています。
  

■どうやって人々を結ぶのか――そこに「対話」の出番が

  
 言論の自由は、なぜ重要なのでしょうか。第一に、言論の自由は真実を見つける方法であるからです。真実は正々堂々と虚偽と戦い、打ち勝つでしょう。
 第二の理由は、言論の自由は、公共の関心事に関する情報や見解の自由な流れを促し、結果として、良識ある市民による民主的自治を支えるからです。
 最後に、言論の自由は、個人が自らの意見を形成し、アイデンティティーを確立する権利を保護することによって、個人の自由を守るという点において重要です。言論の自由は個性を守り、多様なアイデンティティーと思想を守ります。
  
 ただ、そう単純な話だけではありません。言論の自由は良いことですが、競合する利害関係も出てきます。言論の自由があるといっても、例えばヘイトスピーチ(憎悪表現)は人々に害をもたらします。言論の自由は、無法や暴力につながることもあるのです。
  
 相反する利害や考慮すべき事柄のバランスを取る上で、私たちはどうやって人々を結びつけられるでしょうか。私は、そこにこそ「対話」の出番があると思います。
  

■他者を尊重し、異なる視点から学ぶ

  
 対話とは何でしょうか。調停、交渉、議論、説得、討論といった言葉もある中で、私が対話を選んだのには、いくつかの理由があります。
 第一に、対話は創立者・池田大作先生の著作や思想の重要なテーマであり、それはSUAの使命における重要な一側面を占めています。
 第二に、対話という知的概念は、何百年、何千年にもわたる古典的な探究に支えられています。
 第三に、紛争解決の手段としての対話については、多くの文献があります。
 そして最後に、対話は異なる背景や視点を持つ個人間の尊重を示唆するものであり、紛争の平和的解決に有用な要素であります。
  

SUAの第20回卒業式では、創立者が示した「貢献的人生を生きゆく世界市民」との理念を胸に、卒業生がそれぞれの進路へ旅立ちの時を迎えた(5月24日、SUAの創価芸術センターで)

SUAの第20回卒業式では、創立者が示した「貢献的人生を生きゆく世界市民」との理念を胸に、卒業生がそれぞれの進路へ旅立ちの時を迎えた(5月24日、SUAの創価芸術センターで)

  
 しかし対話にも、うまくいかない状況があります。相手が平和的解決に関心がなかったり、あるいは邪悪であったりしたら、どのように話し合えばよいのでしょうか。意見が対立し、どうしても調和しない場合に、対話の原則をどのように適用するのでしょうか。
 本題に戻るならば、現在キャンパスで起きている議論や、より広い意味での社会的紛争を解決するために、対話の核となる要素とは何でしょうか。また、対話は言論の自由と、どのように関わっているのでしょうか。
  
 池田大作先生は、異なる意見や対立する意見を表明する際には、「他者を尊重し、自分とは異なる視点に耳を傾け、そこから学ぼうとする謙虚さ」が必要だと強調しています。
 さらに池田先生は、異なる背景や視点を持つ人々と関わることで、寛容と理解の能力を培うことができ、その結果、他人の痛みや苦しみを理解し、自分の怒りをコントロールし、小さな違いや誤解を乗り越えることができると述べています。
  

■悪に打ち勝つ相互理解と連帯の力

  
 それでは、耳を傾け、違いを尊重し、他者の視点を学ぶことによって、実際に対立を解決するには、どうすればよいのでしょうか。私には、これが問題の核心であるように思えます。
  
 創立者・池田先生は、対話から生まれる相互理解と連帯の力は、悪の脅威に打ち勝つことができると指摘しました。創立者は、「開かれた対話に基づく教育こそ、単なる知識や情報の伝達にとどまらず、偏狭な視点や感情の超克を可能にする」「特に大学は建設的対話を通してソクラテス的世界市民を育て、新たな統合原理を探索する突破口を開きゆく使命を有している」と語っています。
  
 言論の自由の観点から言えば、創立者・池田先生は大学に対し、偏狭な視点を超えた開かれた対話、つまり反対意見を制限しないこと、異なる意見に耳を傾け、尊重することを奨励しました。そうすることで、新しい原則、相互理解と連帯、そして世界の平和的統合、つまり紛争を解決していくことができるのです。
  

SUAの第20回卒業式では、在学生によるオーケストラとコーラス隊が、卒業生への感謝を込めて、演奏・合唱を披露した

SUAの第20回卒業式では、在学生によるオーケストラとコーラス隊が、卒業生への感謝を込めて、演奏・合唱を披露した

  
 楽観主義的な観点から、キャンパスや地域社会で「言論の自由」「対話」「紛争解決」をサポートするために、皆さんがどのように貢献できるかを考えていただくようお願いして、私の講演を終えたいと思います。
  
 最後に、皆さんが検討することができる行動のリストです。
 ①自分自身と対話し、家族や友人と、また小グループで、今日の本質的な問題や衝突について話し合いましょう。
 ②言論の自由を支持する教育的な活動に参加するかどうかを検討しましょう。これは弁護士だけの問題ではないと思います。米国では、「言論の自由」は「法の支配」の一部である憲法上の原則ですが、言論の自由の原則を推進することは、あなたがどの国の出身であろうと、どこに住んでいようと、民主主義の原則と紛争の平和的解決を支援すると、私は信じています。
 ③団体の活動に参加したり、大学のキャンパスなどでの会合に出席したりして、意見の異なる人々の話を聞き、その人々と対話する機会を求めましょう。言論の自由の権利を行使しましょう。多様な視点を尊重しましょう。紛争を平和的に解決するために対話を活用しましょう。
  
 あらためて、卒業される皆さん一人一人に、心からお祝いを申し上げます。
 ご清聴ありがとうございました。