〈社説〉 2024・5・30 あす「世界禁煙デー」2024年5月30日

医療やツールを上手に利用

 厚生労働省の2022年国民生活基礎調査によると、日本の喫煙率は、01年と比べてほぼ半減した。一方、喫煙に関連する病気で亡くなる人は国内で年間約19万人に上り、その影響は依然として重大だ。

 ニコチン、タール、一酸化炭素など、たばこの煙には多くの有害物質が含まれている。発がん性物質だけでも約70種類。肺がんをはじめ、さまざまながんを引き起こす原因になる。また脳卒中、動脈硬化、大動脈瘤といった血管の病気、肺や気管支など呼吸器系疾患の悪化につながるほか、認知症の発症リスクを2倍以上に引き上げることが知られている。利用者が増える加熱式たばこも、有害物質や発がん性物質と無縁ではない。

 「受動喫煙」の問題も深刻で、年間約1万5000人が関連する病気で亡くなっている。被害は幼い子どもたちにまで及ぶ。副流煙は小児ぜんそくの発症と重症化、乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因になる。後者は、両親とも喫煙する場合、突然死のリスクが8倍超になるとの報告もある。

 近年は「受動喫煙」を他者への危害とみなし、民事裁判で損害賠償請求を認める判例も出ている。たばこに対する社会の見方は大きく変わり、喫煙は単なる個人の趣味・嗜好の問題ではなくなっていることを知らねばならない。

 なお、“禁煙できないのは意志が弱いから”とは言えない。ニコチンは違法薬物と同程度の依存性を持つため、喫煙者が自らやめることは困難だ。ニコチン依存症になると、喫煙で一時的に快感物質が放出され“リラックスできる”と脳が錯覚してしまう。

 喫煙の背景に、吸う人自身のストレスなどが強い場合も。喫煙率が減少する社会の中で“どうしてもやめられない”と孤立を深め、依存の症状が悪化する事態は避けなければならない。大切なのは依存症への配慮と、“卒煙”できるようになるための共助・公助の環境づくりだ。禁煙外来や禁煙を促すスマホアプリなど、医療機関やツールを上手に利用したい。

 喫煙者も、煙を吸わされる非喫煙者も、「どちらもタバコの被害者」と言えよう(田淵貴大著『新型タバコの本当のリスク』内外出版社)。あす31日は「世界禁煙デー」。同じ社会の一員として、心も体も健康に暮らしていくために、皆で共に知恵を働かせ、行動を起こすきっかけとしよう。