〈クローズアップ ~未来への挑戦~〉 スペイン・イタリア㊤ カトリック社会で広げる信頼と共感2024年5月24日

 世界の同志の姿から、創価の哲学と運動の価値を考える「クローズアップ 未来への挑戦」では、本年3月にスペイン、4月にイタリアの躍動の様子を紹介しました。両国での取材を振り返りながら、カトリック社会における日蓮仏法への信頼と共感の広がりを考察します。(記事=萩本秀樹、写真=石井和夫)

スペイン・バルセロナで行われた座談会。一人一人の信仰体験に惜しみない拍手が送られる

スペイン・バルセロナで行われた座談会。一人一人の信仰体験に惜しみない拍手が送られる

 昨年9月に取材で訪れたスペイン、イタリアの両国は、長年、ローマ・カトリック教会が、国家に唯一認められた宗教だった。
 その国教制は、スペインでは1978年、イタリアでは84年に廃止された。近年は、憲法で保障された「信教の自由」の下、あらゆる宗教が等しく尊重されるための社会づくりが進められている。
 
 スペインでは、92年に「スペイン仏教連盟」が発足。同連盟は2007年、政府から「社会に着実に根を下ろしている」団体であると認められ、さまざまな権利が付与されるようになった。スペイン創価学会は08年に連盟に加盟。16年にはエンリケ・カプート理事長が、全会一致の決定で連盟の会長に就任し、6年の任期を務めた。
 イタリアでは16年、国家とイタリア創価学会との間で宗教協約(インテーサ)が発効した。カトリック以外の宗派・団体としては12番目の認定だった。そして今月10日には、同国を訪問した原田会長が、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇とバチカン市国で会見した。
 
 「カトリック社会でなぜ、仏法の人間主義が広がっているのか」
 取材は、その答えを探ることに主眼の一つを置いていた。

世界広布の構想

 1961年10月、池田大作先生は初のヨーロッパ訪問の折、スペイン、イタリアにも第一歩をしるした。当時はまだ両国とも、カトリックが国教の時代。いかに仏法を弘めていくのか――先生と共にヨーロッパ広布の草創を開拓したメンバーは、まだ見ぬ未来に不安を抱いていた。
 小説『新・人間革命』第5巻「歓喜」の章には、そうした同志に、山本伸一が世界広布の遠大な構想を語る様子が描かれている。
 
 「同志は、本当に、あとに続くのでしょうか」と心情を吐露するメンバーに、伸一は語る。
 「大丈夫だよ。3年、5年、10年とたつうちに、学会員は、このヨーロッパにも続々とやって来る。やがて、現地の人たちも、どんどん信心するようになるよ」「そのためにも、今、各国にいるメンバーを力の限り励まし、大切に育てていくことだ。すべては、その一人から広がっていく」と。
 
 また、「他の宗教と、いかに接していくか」との青年の質問にはこう答えた。
 「いかなる宗派の人であれ、人間として最大限に尊重していくことが、本来の仏法の精神であり、創価学会の永遠不変の大原則です。なぜなら、平和を、そして、一人ひとりの幸福を実現していくための仏法であり、それが人間の道であるからだ」
 
 ヨーロッパをはじめ、世界各国の広布の伸展は、いついかなる時代も、この先生の大慈悲と大確信に包まれての歩みであった。
 スペインで、イタリアで、国教制が廃止され、新たな国づくりが模索される中、両国の同志は師の指針を胸に、社会に尽くす活動を続けていった。

幸福のスクラムを広げる女子部の友(スペイン・マドリードで)

幸福のスクラムを広げる女子部の友(スペイン・マドリードで)

宗教間対話

 スペインの近年の宗教事情について、マドリード・カルロス3世大学のフアン・ホセ・タマージョ名誉教授はインタビューで、「78年の国教廃止以前も存在していた宗教的多様性が、より顕著に現れるようになった」と語った。ムスリムやプロテスタント、ヒンズー教徒や仏教徒が増えている、と。
 同じくインタビューしたスペイン仏教連盟のルイス・モレンテ会長によれば、現在、スペインにいる仏教徒は約10万人。約400の仏教施設があるという。
 
 さまざまな宗教が共生する時代にあって、一段と重要視されるのが宗教間対話の取り組みである。
 スペインで、市民による宗教間対話の取り組みが本格的に始まったのは2004年。カタルーニャ州からスタートして、今ではスペイン全土で対話が行われている。
 
 対話では、異なる宗派の人たちが定期的に顔を合わせ、平和、人権などさまざまなテーマについて語り合う。一つの結論を“導き出す”のが目的ではない。意見を重ねる中で、時にぶつかり合うことも。同じ一つのテーマでも、宗派や生まれ育った環境によって捉え方は違う――それを否定せずそのまま受け入れることこそが、相手を敬う実践である。
 また、多くの対話の場に、宗教を持たない人が参加しているのも特徴だ。スペインではカトリック以外の宗派が増える一方で、最近は、若者を中心に“宗教離れ”が進んでいるのも事実。「信仰をしない」こともまた、宗教的多様性の一部として尊重されている。
 
 スペイン創価学会は04年当初から、宗教間対話に関わっている。多くの対話の中心に、学会員がいる。長年、学会と協働してきたカタルーニャ・ユネスコ宗教間対話協会のフランセスク・トラデフロート元事務局長は、「創価学会は、スペインの宗教間対話の柱のような存在」とたたえていた。
 
 メンバーはどのような思いで、対話に臨んできたのか――。
 
 1990年代初頭、日蓮正宗宗門による広布破壊の謀略を勝ち越えたスペイン創価学会。他宗教との対話は、宗門の閉鎖的な権威主義から解き放たれ、世界へと飛翔していく象徴でもあった。
 「もちろん、最初は戸惑いました」と、理事長のカプートさんは語っていた。何もかもが手探りの中、同志は池田先生の指針を読み深め、心に刻んできた。
 
 先生はつづっている。
 「それぞれの異なった教義の中には、人間の幸福を実現するための何らかの洞察と真実が含まれている。現代の宗教間の対話において、それぞれの違いは違いとして認め合いつつ、各宗教の洞察と真実を学びあっていけば、人間の幸福のための宗教として、互いに錬磨していくことができるに違いない」

エンリケ・カプートさん

エンリケ・カプートさん

 この先生の指針を体現する宗教間対話は、「学会で培った、一人を大切にする実践そのもの」であったとカプートさんは振り返る。その実感があるからこそ、カプートさんは、学会活動もまた、尊い「社会貢献活動」だと確信する。
 「学会員一人一人が、自分がいる場所で力を発揮し、他者の幸福に尽くしていけば、社会は必ず良くなる。メンバーには、いつもそう訴えています」

会合運営などを陰で支える青年部のメンバー(バルセロナで)

会合運営などを陰で支える青年部のメンバー(バルセロナで)

今いる場所で

 「自分の場所」で力を発揮する、2人のスペインのメンバーに話を聞いた。
 
 シモーナ・ペルフェッティさん(支部婦人部長)は、マドリード工科大学で、さまざまな団体や企業が持続可能な協力関係を築くコミュニケーションのあり方について研究し、政策提言などを行う。コロナ禍の中で参加したプロジェクトは、ポストコロナ時代の協力関係のあり方を示唆するものとして、高い評価を受けた。
 
 フリア・カルデナスさん(婦人部副本部長)は、高齢者をはじめ社会的支援を必要とする人たちのケアに従事する。コロナ禍の中で孤独感にさいなまれそうな人たちにも、決して置き去りにしないとの思いで寄り添い続けた。
 故郷のペルーで折伏を受け、スペインに渡った後の1996年に入会。当時、婦人部の先輩から、「スペインでたくさんの折伏をするのよ」と言われた。その通りに実践する中で、言葉の真意をつかんでいった。
 「当時、私の仕事は不安定でした。将来、ペルーに帰国することになるかもしれない。だからこの地に妙法の種をまき、今いる場所で使命を果たす大切さを、教えていただいたのだと思います」
 多くの友人らに弘教を実らせる中、不思議と仕事は安定し、スペインに住み続けることができた。「広布に尽くした功徳で、この場所に残ることができました」と、カルデナスさんは笑顔で言う。
 
 「毎朝、歯を磨くのと同じような生活の一部」。信心をそう表現したペルフェッティさんは、イタリア生まれ。家族はカトリック教徒で、彼女自身も小さい頃から教会に通い、宗教は身近にあった。仏法により深い納得を見いだして2012年に入会したが、社会奉仕の精神をはじめ、仏法とカトリックには、多くの共通点があるという実感も大切にしている。

シモーナ・ペルフェッティさん

シモーナ・ペルフェッティさん

フリア・カルデナスさん

フリア・カルデナスさん

 近代世界の世俗化に加えて、フランコ独裁政権時代(1939~75年)の影響などにより、人々の“教会離れ”が顕著に進んできたスペイン。
 カトリックが国教だった社会から諸宗教が共生する社会へと、大きく舵が切られる時代にあって、スペイン創価学会は、宗教的多様性を支える生命尊厳の思想を輝かせ、励ましの民衆運動を広げてきた。今、その価値は一層高まる。
 
 今いる場所で使命に胸張り、社会に尽くす同志の奮闘によって、仏法の人間主義への信頼と共感は広がる。それは、世界のカトリックの中心地であるイタリアでも同じであった。(㊦に続く)

中世の面影を残すバルセロナの旧市街

中世の面影を残すバルセロナの旧市街

 ご感想をお寄せください
 kansou@seikyo-np.jp