〈インタビュー〉 定住外国人労働者との共生――誰もが自分らしく生きられる日本社会へ2024年5月20日

  • 一般社団法人グローバル人財サポート浜松代表理事 堀永乃さん

 定住外国人労働者の包摂と共生に必要なこととは――。(「第三文明」6月号から)
 

1975年生まれ。共立女子大学卒。企業勤務のかたわら、浜松市の日本語教室などでボランティア活動に従事。2001年から、公益財団法人浜松国際交流協会で、定住外国人への日本語教育や交流事業などにたずさわる。11年にグローバル人財サポート浜松を立ち上げ、定住外国人の介護職員研修や日本語教育、大学生を対象にした次世代の人材育成を行う。一般財団法人自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザーほか公職多数。著書に『やさしい日本語とイラストで学ぶ みんなの介護』(日本医療企画)など
 

1975年生まれ。共立女子大学卒。企業勤務のかたわら、浜松市の日本語教室などでボランティア活動に従事。2001年から、公益財団法人浜松国際交流協会で、定住外国人への日本語教育や交流事業などにたずさわる。11年にグローバル人財サポート浜松を立ち上げ、定住外国人の介護職員研修や日本語教育、大学生を対象にした次世代の人材育成を行う。一般財団法人自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザーほか公職多数。著書に『やさしい日本語とイラストで学ぶ みんなの介護』(日本医療企画)など  

もぐら叩きのような場当たり的制度改正

 近年の日本は、慢性的な人手不足解消の方途を、外国人労働者の受け入れに見いだしてきました。バブル景気末期の1989年には、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」を改正(90年施行)。在留資格に新たに「定住者」を設け、ブラジルなど日本にルーツをもつ海外日系人子孫の居住を認めました。

 ただし、認定要件が「ルーツ」のみで、日本語能力や日本社会への理解などは問われませんでした。そのため、せっかく来日しても不安定な就労を余儀なくされたり、地域社会に順応できなかったりして、孤独・孤立状態に陥るといった問題が多発したのです。

 続く93年には、「外国人技能実習制度」が開始。入管法の別表に定める「技能実習」の資格で在留を認めるもので、日本の技能・技術・知識を習得させ、開発途上国の発展を担う「人づくり」への寄与を高らかに謳っていました。
 

 ところが実態は、安価な海外輸入品との価格競争にさらされた企業が、低賃金労働力確保のために制度を悪用する事例が目立ちました。例えば、パスポートを取り上げたり、最低賃金以下で違法な長時間労働・時間外労働を強いたり、些細なミスに違約金を請求したりするなど、悪質な事例が多発したのです。

 国連の人種差別撤廃委員会等は、「虐待的かつ搾取的な慣行」と日本を厳しく批判。日本唯一の同盟国であるアメリカの国務省も、「世界各国の人身売買に関する報告書」において、名指しで強制労働だと指弾するなど、国際社会が改善を求めました。いずれにしても、今後も「もぐら叩き」のような場当たり的対応を続けるなら、日本は国際社会からの信頼を失いかねません。
 

祖母の在宅介護での気づきから始まった

 一般社団法人グローバル人財サポート浜松は、地域に生きるすべての人が、国籍や言語をはじめ、あらゆる差異を乗り越えてお互いに尊重し、理解しあう共生社会の創造を目指す団体です。具体的には、グローバル化が進む地域社会に貢献する人材、特に定住外国人の社会的自立に向けた人材育成事業を展開しています。

 団体設立のきっかけは、2008年に起きたリーマン・ショック。製造業の盛んな浜松にも多大な影響が及びました。当時の私は、定住外国人の日本語教育や生活相談に応じる仕事に従事していたのですが、その彼らが、不況とともに真っ先に解雇されていく現実を目の当たりにしたのです。先行きの見えない状況に途方に暮れ、ビルから飛び降りてしまう外国人労働者も出てくる始末。そんなつらい日々が続きました。
 

 時を同じくして、私自身も、認知症を発症した祖母の在宅介護で大変な状況にありました。そんな時、ふと「いつも笑顔でホスピタリティ(おもてなしの心)をもっている外国人労働者の皆さんなら、介護職に向いているのではないか」と気づきました。そこで、09年から定住外国人向けの「介護のための日本語教室」を開講。介護関連の各種技能実習や資格取得講座なども開くようになり、グローバル人財サポート浜松設立へとつながりました。これまで100人を超える介護従事者を輩出しています。

 冒頭に述べたとおり、外国人労働者を取り巻く諸問題の根源は、日本語能力や日本社会への理解なしに来日することから生じています。そこで私たちは、2021年から、フィリピン第3位の経済都市ダバオにある私立専科大学「フィリピン カレッジ オブ テクノロジー(PCT)」と業務提携を結び、日本への就労を目指す学生に教育支援を行っています。
 

 また、国内の制度改革にも挑戦中です。その1つが、トヨタ財団助成事業(2022年)に採択された「外国人労働者の適正な雇用のための監査・評価制度のあり方に関する調査・研究及びモデル事業の開発」でのアセスメントシート等の開発です。

 外国人労働者を特に必要とする小売・製造・医療介護・ビルメンテナンス業の4分野の企業と学識者で協議会を発足させ、さらに名古屋入管(出入国在留管理局)にも参加してもらい、外国人労働者の適正な受け入れのガイドライン策定や、100を超える評価項目の確立に取り組んでいます。関係者からは、「自分たちの業界・会社が取り組むべき課題がわかった」など、好評を博しています。
 

相互に連環する文化圏の創造を

 公明党はこれまで、外国人労働者の人権を守るための声をあげてくださっていますが、その背景には、党創立者・池田大作氏の「他人の不幸のうえに自分の幸福を築くことはしない」との思想的基盤があると伺っています。

 経済格差に伴う分断の時代にあって、公明党には、経済合理性に傾きがちな自民党の手綱をしっかり握るとともに、ダイバーシティ(多様性)の重要性、特に、「日本は定住外国人と共に生きることが大切なのだ」との意義を、国民にわかりやすく語ってほしい。そうした姿勢のもとに、下の図に示したような社会を目指して、政策・制度の確立に取り組んでいただきたいと思います。
 

堀さんが思い描く「相互に連環する文化圏」の図
CC-BY-ND 4.0 SeienEduLab

堀さんが思い描く「相互に連環する文化圏」の図 CC-BY-ND 4.0 SeienEduLab

 人口減少社会に突入した日本が目指すべきは「一対多」の関係、つまり、日本と複数の外国、または外国の都市が、相互に連環する共通の「文化圏」の創造だと考えます。

 双方の市民が、修学旅行やインターンシップ、就職や転職、結婚や子育てなど、さまざまなライフステージに応じて双方の国や都市を行き来し、お互いの良いところ、改善すべきところを学び合っていく。そうして双方の社会への理解と共感、愛着を育み、二つの社会を「逆さ円すい型」に盛り上げていく。つまり、外国での日本ファンを増やし、日本での外国ファンを増やすイメージです。

 日本単体で社会の存続を目指すのではなく、日本の文化領域を世界へと広げていく心意気で、さまざまな施策を進めていく。公明党には、そんな雄大なかじ取りを期待しています。