〈地理学者・牧口常三郎の「人生地理学」――その精読の試み〉2 東京学芸大学名誉教授 斎藤毅2024年5月19日

  • 第1編 人類の生活処としての地

 第1編は「日月および星」や「地球」の章の後、「島嶼」「半島および岬角」など全13章で構成されています。いずれも自然地理学的な説明の後、人々の暮らしと環境との関わりに移ります。

宇宙から見た地球のイメージ。牧口先生は人類が生活する場所を論じるに当たり、まず、地上現象の原因となる太陽や月、星と人間生活の関係を述べ、その後、地球、島、半島、地峡、山、平原などと具体的に見ていく(ジオスタジオ/PIXTA)

宇宙から見た地球のイメージ。牧口先生は人類が生活する場所を論じるに当たり、まず、地上現象の原因となる太陽や月、星と人間生活の関係を述べ、その後、地球、島、半島、地峡、山、平原などと具体的に見ていく(ジオスタジオ/PIXTA)

●第1章「日月および星」

 ここでは「地上現象の総原因としての」という副題が付き、天体としての天文学的な記述とともに、時間、暦、方位など人間生活を律する基本的な事象が、神話にまで及びます。特に「日本人と太陽」との一節を設け、「国号を『日本』となし『日の丸』を国旗となし(中略)日本国民は、太陽と一種独特の交渉を表するものと謂うべし」とあり、太陽に対する感性的な関わりが強調されています。
 
 ただ現在では、バングラデシュや北マケドニアなど、太陽を国旗に描く国は日本以外にも幾つか見られます。
 
 一方、月に関しては百人一首にある「月見れば/千々に物こそ/悲しけれ/わが身ひとつの/秋にはあらねど」が登場。月を観て、先立った夫をしのぶ歌でしょうか。
 
 他方、月や星を描いた国旗は多く、太平洋戦争の激戦地ペリリュー島のあるパラオは平和な夜を願ってか、青地に満月を描き印象的。また、陰暦のイスラム諸国では新月を描いたものが多く、新年への願いが込められています。こうした人々の願いや思いのこもる国旗を大切に扱うのは、国際理解への第一歩かもしれません。
 

●第2章「地球」

 この章では、地球の形状や大きさとともに、その運動や水界・陸界などの自然地理の記述の後で、人間生活との関係に迫ります。
 
 ところで、もし今、牧口師が『人生地理学』の改訂を試みられたら、ここにプレートテクトニクスの理論が加えられたことでしょう。地球の表層は幾つかの移動するプレート(岩盤)でできており、それがちぎれたり、一方が他方に滑り込んだりすることで、火山活動や大地震が発生するとみる理論です。師は同時に、地球の温暖化問題にも触れられたかもしれません。
 
 それにつけても終戦直後の「社会科」創設で中等教育の地理科の諸単元のうち、人文地理が社会科に、自然地理が地学、特に理科に組み込まれたのは、両者の関わりを重視する地理教育の立場からは大変、不幸なことでした。必修化された高校の「地理総合」が期待されるところです。