〈教育〉 親子の会話が「尋問」になっていませんか2024年5月16日

  • 気持ちの「キャッチボール」を意識して聞き切ろう

「ママの学校」主宰・親子カウンセラー 島谷留美さん

 子どもと話していると、聞き方や伝え方が悪いのか、最終的に言い合いになったり怒らせたりしてしまう。「学校、どうだった?」と聞いても、「別に」「普通」としか返ってこない……。子どもの成長とともに、親子のコミュニケーションに難しさを感じることはありませんか。『モンスター三つ子男子の母ちゃんが見つけた 子どもに伝わる魔法の「ほめ方」「叱り方」』(講談社)の著者で親子カウンセラーの島谷留美さんは「親子の会話で大切なのは、キャッチボール」と言います。詳しく聞きました。

剛速球で返すのはNG

 「どうやったら、子どもが話してくれますか」「親の言うことを聞いてくれるようになりますか」「魔法の言葉があったら教えてください」――これらは、私のカウンセリングで、親御さん、特にお母さんたちからよく尋ねられる言葉です。
 
 こうした悩みを抱える親御さんの多くは、子どもが言ったことに対して「尋問」してしまっています。例えば、「今日、友達とけんかした」と子どもが言ってきたら、「誰とけんかしたの?」「たたいたりしていない?」など、瞬時に聞いているのです。子どもからすると、けんかをして悲しい気持ちを聞いてもらいたかっただけなのかもしれません。親から「尋問」されることで、気持ちを吐き出す場所がなくなってしまいます。そうしたやりとりが積み重なると、子どもは「親に言うと大ごとになるから話すのはやめておこう」「適当に答えておこう」と考えるようになります。
 
 親子のコミュニケーションで大切なのは、「キャッチボール」です。「友達とけんかした」と話してきたら、「そうなんだ。友達とけんかしたんだね」と、もらったボール(言葉)をそのまま返すことを意識してみてください。けんかした相手や詳細を問い詰めるなど、“剛速球”で返すのはやめましょう。

 子どもも、人間関係や勉強、部活動などのさまざまな悩みにぶつかります。ついつい口出ししたくなりますが、子どもの思いや考えを聞くことに徹してみましょう。親が先回りしたり、導いたりしなくても、子どもは自ら考え、どうすればいいのか答えを出します。
 
 子どもに「尋問」しているかもしれないと思った方は、次のポイント(下記)を意識してみてください。親の言葉がけや聞き方が変われば、子どもの反応も必ず変わっていきます。

■解決策が頭に浮かんだら…

 あるお母さんは、子どもの悩みを聞くたびに解決策や指示を出していました。「黙って見守ってください」とカウンセリングでお伝えすると、「これまで黙ることをしてこなかったので、ストレスで吹き出物が出ました」と苦笑していました。子どもの話をとにかく聞き切ろうと頑張るんだけれど、最後の最後に「こうしたらいいんじゃない?」と提案してしまっている親御さんもいます。
 
 親が「こうすればいいよ」と決めれば、早いかもしれません。しかし、親の指示を待つ子どもになる可能性があります。子どもが自分で考え、決めていく。時に失敗や後悔もあるでしょう。それを繰り返して、自立していきます。解決策が浮かんでも、口に出さず、子どもの意思を尊重してほしいと思います。
 
 子どもの話を聞く際は、「は」「ふ」「へ」「ほ」「そ」での相づちを心がけてみてください。私と息子たちは、こんなやりとりを日常的にしていました。
 
 息子「図書館行った方がいいかな。やばいんだよね、今度のテスト」
 私 「へー」
 息子「今日やっておかないと、明日きつくなるんだよね」
 私 「ふーん」
 息子「やっぱり図書館、行こうかな」
 私 「そ」
 
 次に、あるお母さんの実践例です。娘さんが帰ってくるなり、「もう私、バスケ部辞める!」と言い出しました。
 母 「ふーん」
 娘 「あの監督許せない! キャプテンだからって、私ばかり怒られた」
 母 「ほー」
 娘 「今日は私も大事な場面でミスをしたけどね」
 母 「ははぁ」
 娘 「確かにあのミスは私が悪かった。明日、朝練、早めに行こう」
 母 「そ」
 
 「は」「ふ」「へ」「ほ」「そ」での相づちは、相手が心に秘めている“本音”に触れることのできる効果的な方法です。

■注意する時はレッテル語を使わない

 子どもが家に帰ってきて、ずっと動画を見ていたとします。「毎日毎日、YouTubeばっかり見て! いい加減にしなさい」と言いたくなりますよね。

 ですが、子どもからすると、「毎日じゃないし!」とカチンとくるはず。親も「今日もカレーなの。いつもカレーじゃん」と言われると、「昨日は親子丼を作ったよ」と言い返したくなります。

 「いつも」「また」「ずっと」など、決め付けの「レッテル語」を使うのは控えましょう。子どものやる気を損ないます。
 
 何かを伝えたい時、重要なのは「事実」に基づいて話すことです。「事実」とは、分かりやすく言うと、スマホで写真や動画に残せる出来事です。冒頭の状況で言えば、「午後5時から7時まで、YouTubeを見ている」となります。
 
 その上で、嫌だと感じる理由と親の気持ちを「I(アイ)メッセージ」で伝えます。例えば、「2時間見続けていると目が悪くなるよ。寝る時間が遅くなるし、朝起きられなくて、あなたは学校、私は職場に遅刻するかもしれないから心配になるんだよ」と、叱る理由と親の気持ちを伝えます。
 
 レッテル語を使わず、事実を見ることで、親自身も何にイライラしているのかを客観的に考え、冷静に伝えられるようになります。

■沈黙も立派なコミュニケーション

 思春期で、そもそも何も話してくれないという場合もあるでしょう。しかし、学校での人間関係や勉強のことなど、悩みや不安、イライラなどを抱えている時、子どもは何かしらのサインを発しています。

 子ども部屋のドアを閉めて引きこもる、何か聞いても「うるさいな、ほっといて」とだけ返してくる。それは、「今は何も言いたくないというサイン」です。
 
 焦って無理やり聞き出そうとしなくても大丈夫。何も言わず、ただ見守る。「沈黙」も立派なコミュニケーションです。子どもの声なき声を聴いている親の姿勢は、静かに伝わります。