気候変動――今、私たちにできること〈SDGsトークセッションより〉2024年5月13日

 聖教新聞社主催の「SDGsトークセッション」が4月23日、東京・千代田区の「think coffee」で開催されました。ソーシャルデザインスタジオ「THE INOUE BROTHERS...(ザ イノウエブラザーズ)」の井上聡さん、国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」の儀同千弥さん、「SGIユース」(創価学会インタナショナルの平和活動を推進する青年世代の総称)の西方光雄共同代表が参加し、「気候変動」をテーマに語り合いました。異常気象や自然災害など地球規模の大きな課題と、私たち一人一人の生活は、どのように結び付けて考えることができるでしょうか? トークセッションの内容を通して考えたいと思います。
  

(登壇者)
SGIユース共同代表 西方光雄さん
THE INOUE BROTHERS... 井上聡さん
グリーンピース・ジャパン 儀同千弥さん

  
 〈西方〉 3月24日、国立競技場で「未来アクションフェス」が開催されました。SGIユースやグリーンピース・ジャパンなど、核兵器廃絶や気候危機に取り組む16の協力団体が参加しました。私たちはこれまで、創価学会青年部として平和への取り組みを続けてきましたが、今回の運動により、団体の枠を超えて、未来を担う青年の連帯を広げることができたと感じています。
  
 〈儀同〉 フェス当日は、約7万人が来場し、約50万人がライブ配信を視聴してくれました。「核兵器廃絶」や「気候変動」といったテーマに多くの人が関心を持ってくれ、率直にうれしかったです。
  

儀同さん㊨

儀同さん㊨

  
 〈西方〉 実行委員会で実施した「青年意識調査」では、約12万人から回答を得ることができました。儀同さんは、調査結果のどの辺りに注目しましたか?
  
 〈儀同〉 「気候変動を解決するための行動をしている、または意識していますか?」という問いに対して、「行動はしていないが意識はしている」と回答した人が52・9%となり、最も高い結果になった点です。
 世界気象機関によれば、2023年は観測史上最も暑い1年となり、世界平均気温は産業革命前に比べて、1・45度上昇しました。日本でも、酷暑や豪雨災害等、多くの人が気候変動を感じたと思います。その上で、行動に結び付いていないと考えている人が多いことも気になりました。
  
 〈西方〉 「行動はしていないが意識はしている」というボリュームゾーンがアクションを起こせば、社会に大きなインパクトを与えられるはずです。今後のSDGs推進を考える上で重要なテーマですね。
  
  

アクティビスト・メンタリティー

 〈儀同〉 気候変動に対して起こせるアクションは多様です。エコバッグの使用や節電といった生活習慣から、署名活動や寄付への参加、行政との対話まで。現在、グリーンピース・ジャパンが事務局となって、地域住民と自治体とが話し合う場をつくり、市民の声を気候変動対策に反映させる取り組みを行っています。
 例えば、長野県では、専門家や市民の意見を行政に届けたところ、2030年までの温室効果ガスの削減目標(2013年度比)を約60%減にまで引き上げることができました(国としての目標は46%減)。
  
 〈西方〉 個人の思いや声を集約して政治の場に届けるのは、NGOなどの中間団体の役割といえますね。
  
 〈井上〉 私の生まれ育ったデンマークでは、デモや社会運動が活発に行われています。「アクティビスト・メンタリティー」というのですが、国民の多くが自分たちの意志や行動で政治家や企業を動かすというマインドを持っています。その裏付けとして、国政選挙の平均投票率は約85%と高水準です。
 SDGsが掲げる各目標の背景にある、地球の危機的現状を生み出してしまったのは、私たちやその上の世代です。若い皆さんには、申し訳ない思いでいっぱいです。日本の若い人はもっと怒っていいし、若者の声が社会変革には必要です。
  
 〈西方〉 井上さんは20年以上、生産者が低賃金で不当な労働を強いられることのない“エシカル(倫理的な)ファッション”に取り組んできました。ファッション業界では労働搾取が問題視されるとともに、「大量生産・大量消費」のビジネスモデルが、地球環境に多大な負荷をかけているといわれます。
  
 〈井上〉 私の転機は、アルパカの繊維の一大生産地・ボリビアを訪れたことでした。アルパカの繊維はクオリティーが高く世界中で人気がありますが、現地の労働環境は過酷そのもの。仲介業者が利益を搾取しており、貧困が広がっていました。こうした不条理を変え、アルパカ繊維の特性を生かしたサステナブル(持続可能)な製品をつくろうと、プロジェクトを開始しました。
  

西方さん

西方さん

  
 〈西方〉 一人一人がSDGsのためにできることはあるでしょうか?
  
 〈井上〉 私は、SDGsの本質は「感謝」だと考えています。例えば、コーヒー一杯をとっても、コーヒー豆を育てた人がいます。現地からお店まで豆を運んできてくれた人がいます。本日会場を提供してくれた「think coffee」の担当者の方は先ほど、生産者との契約から店のカップの材質まで、サステナブルにこだわっていると教えてくれました。製品に込められたストーリーを想像できれば、そのストーリーに、消費者である自分を組み込んでいくことができるはず。長く使えるマイボトルを日常的に持ち歩くことが、自然な行動になるでしょう。
 つまり「マインドシフト」が大切です。私たちはどうしても「安いもの=良いこと」と考えてしまいがちですが、この「良さ」のコンセプトを再定義したい。ファッションでいえば、「良さ=長く使えること」にシフトする。お金がなくて、大量生産の「ファストファッション」を買わざるを得ないという人も、一着を大切に長く使うことで、行動も含めてシフトしたことになります。この「価値観の変革」が、青年意識調査の結果で話題にあがった“意識と行動のギャップ”への架け橋となるのではないでしょうか。
  
  

哲学・理念の共有

 〈西方〉 私の「師匠」である創価学会の池田大作先生は、2002年8月、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルクサミット)に寄せて「環境提言」を発表しました。
 その中で、三つの視点を提示しました。1点目は“この地球環境問題の現状を知り、学ぶこと”。2点目は“持続可能な未来を目指し、生き方を見直すこと”。3点目が“問題解決のために共に立ち上がり、具体的な行動を踏み出すこと”です。今日、セッションに参加させてもらい、対話することから、多くの気付きや学びが生まれることを感じました。
  
 〈井上〉 実は僕もこの提言を読んだことが契機となって、「ザ イノウエブラザーズ」の取り組みを始めたんです。
  

井上さん

井上さん

  
 〈西方〉 SDGsの各目標に取り組む団体・個人の多くは、「この地球を良くしたい」「誰もが幸せになってほしい」といった目的意識を持っていると思います。そして、仏教の最高峰の経典である法華経には、「全ての人に尊い仏性がある」という万人尊敬の哲学があります。それゆえに私たちは、各団体・個人の理念を尊重しつつ、大きな連帯をつくることができると考えています。
  
 〈儀同〉 気候変動に関する状況は、刻一刻と変わっています。私自身も学び続けて、アップデートしていかなければいけないと常々感じています。また、地球の現状に問題意識を持つ皆さんと意見を交わしつつ、手を取り合うことが、ますます必要になってくると思います。3月の未来アクションフェスでは、私たちのように環境保護に取り組む団体が、SGIユースや、核兵器廃絶を目指す団体などとも交流できました。新鮮な経験であり、大きな財産となりました。
  
 〈井上〉 SDGs推進において、日本には課題もありますが、私はある種の「希望」も抱いています。個人主義の欧米とは違って、日本社会は協調性が高いといわれる。変革の波が起きたら、一気に社会全体が変わる可能性が十分にあります。“経済大国”の日本の変革が世界に与える影響は、なお大きいでしょう。だからこそ、私たち市民が“下からの改革”を進めていかなければならないと思います。
  
 〈西方〉 本年9月には、国連で「未来サミット」が開催されます。SDGsの取り組みの加速を目指し、国際協力を一段と強化するための会議です。そこでの議論に貢献できるよう、実行委員会として、「青年意識調査」の結果を、その分析とともに、国連関係者や政策決定者に届ける予定です。
 気候危機や核兵器など、課題はいまだ山積みです。しかし、今回の未来アクションフェスのように、一人一人が自分の周囲に行動の連帯を広げていけば、社会に大きなインパクトを与えていけるはずです。SGIユースとしても、世界の平和と人類の幸福を目指し、善の連帯を広げていきます。
  
  

○登壇者プロフィル○

 いのうえ・さとる 1978年、デンマークで日系2世として生まれる。2004年、「ザ イノウエブラザーズ」を設立。エシカルファッションを信条として、南米アンデス地方の貧しい先住民が牧畜したアルパカや、南アフリカやパレスチナで伝わる伝統工芸を使った商品を販売する。
  
 ぎどう・ちひろ 2017年からグリーンピース・ジャパンでのボランティアに参加。2020年2月から正職員に。現在は、コミュニティーアウトリーチ担当。気候変動について取り組む、さまざまな団体やコミュニティーとのコラボ企画に関わる。
  
 にしかた・みつお 1984年、大阪府生まれ。創価大学卒。創価学会の学生部長、男子部長等を歴任。SGIユース共同代表。「未来アクションフェス」では、実行委員会の一員として携わった。
   
   
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