〈健康PLUS〉 食後の強い眠気、「糖質疲労」かも2024年5月11日

北里研究所病院 糖尿病センター長
山田悟さん

 食事の後、強い眠気やだるさに襲われていませんか。それは糖質の取り過ぎが原因かもしれません。緩やかな糖質制限「ロカボ」という言葉の生みの親であり、『糖質疲労』(サンマーク出版)の著者である北里研究所病院・副院長、糖尿病センター長の山田悟さんに聞きました。
 
 

《こんな症状ありませんか》

・食後に眠い、だるい、集中力が持たない、イライラする
・食べた量の割にはすぐ小腹がすく
・上記の症状を自覚せずとも周囲から指摘される
・食後血糖値が140㎎/㎗以上
 
 
 

血糖値の乱高下

 昼食後、仕事のパフォーマンスが低下するほどの強い眠気や倦怠感に襲われる。イライラする。しっかり食べたはずなのにすぐ小腹がすく。首の後ろが重くなる――社会人やアスリートの方で、このような症状が増えていることに気付き、不快症状をまとめて「糖質疲労」と名付けました。
 当然、食後の眠気に襲われるのは、過労や睡眠不足などが原因の場合もありえます。しかし、食後2~3時間に激しい眠気や倦怠感などが続く場合、「糖質疲労」に陥っている可能性があります。
 この原因は、糖質の取り過ぎによる「食後高血糖」と「血糖値スパイク」です。
 食後1~2時間の血糖値が140㎎/㎗以上になると「食後高血糖」と判断します。血糖値が急上昇すると、反動でインスリンというホルモンが過剰に分泌され、血糖値が急降下します。急上昇・急降下する様を「血糖値スパイク」と呼びます。
 急降下する時、「このままだと低血糖になるかもしれない」ということが危険信号として脳に伝わります。すると脳は、実際には低血糖でないにもかかわらず、体を休めさせようとして眠気を感じさせたり、空腹感を自覚させたりするのです。これが「糖質疲労」の正体です。
 健康診断で「空腹時血糖値」が110㎎/㎗以上となると、血糖異常と指摘されます。その10年ほど前から食後高血糖と血糖値スパイクが生じているといわれています。
 「糖質疲労」を放置しておくと、ドミノ倒しのように糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満などに至る恐れがあります。

 食後高血糖で血液中にあふれた糖質がタンパク質と結合(糖化)すると、肌のシミやしわなどの全身の老化、白内障などの目の病気、腎機能の低下などにつながると考えられています。
 血糖値スパイクがくり返されることで、体内で活性酸素が発生し、血管が傷付けられて動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが高まります。また、認知機能が低下することも報告されているのです。
 
 

食生活を工夫する

 「糖質疲労」を改善するには、食生活を工夫することが重要です。具体的には、糖質は控えめにして、脂質とタンパク質を満腹になるまで食べましょう。
 脂質とタンパク質は、糖質以上に満腹中枢を刺激するため、満足感が得られやすいといわれます。そのため、一般的なカロリー制限よりも継続しやすくなります。私は、この緩やかな糖質制限を「ロカボ」と名付け、推奨しています(別掲に食事例)。
 脂質は血糖値の上昇を抑制する働きがあり、脂質を摂取する量が多い人ほど、血中の中性脂肪が低いという報告もあります。マヨネーズや、バター(できれば無塩)は何にでも使いやすいのでオススメです。個人的にはごま油やオリーブ油、ラー油も好きです。ただし、古い油やトランス脂肪酸などの人工的な油は避けてください。油が苦手な方は、肉や魚、ナッツやチーズなど、食品から取るようにしましょう。
 タンパク質も、食後の血糖値の上昇にブレーキをかける効果があります。筋肉量を維持して元気で長生きするためにも、積極的に取ってほしいと思います。
 食べる順番も大切です。先に脂質とタンパク質を食べ、最後に糖質を食べる「カーボラスト」を心がけましょう。糖質に手を付けるのは、一口目から20分後以降を推奨しています。一食だけでも意識してみてください。また、運動を行うことで、体内で糖が細胞に取り込まれ、血糖値が低下します。食後15分散歩することから始めてみましょう。
 糖質疲労になりやすい人は、いわゆる“糖尿病家系”の方だけではありません。運動習慣があってスリムな体形でも、35歳以上で、普段から脂質を控え、スポーツドリンクやスムージーなど糖質が多い物を好む方は要注意です。
 「糖質疲労」を感じている方は、一日も早く改善に取り組んでほしいと思います。
 
 
 

食後血糖値を調べよう

 食後血糖値は一般的な健康診断では分かりません。自分で測定する方法を二つ紹介します。
 一つは、薬局やドラッグストアで測定する方法です。検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)が設置されていて、検査項目に「血糖値」がある店舗で検査できます。料金は500円程度。測定前の食事は、おにぎり2個と野菜ジュース1本で、一口目から1時間後に測定してください。ただし、混み合ってすぐ検査できない場合もあります。事前に店舗に問い合わせてください。140㎎/㎗以上だと食後高血糖、200㎎/㎗以上は糖尿病の基準を満たすため、医療機関を受診しましょう。
 もう一つは、血糖測定器を使用する方法です。高度管理医療機器販売資格のある薬局やドラッグストアで購入できます。最近では、血液を採らずに測定できる医療機器も出ています。「糖質疲労かも」と感じる方は測定してみてください。
 
 
 

●検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)はこちらから
https://navi.yubisaki.org/map/
 
 
 

 血糖値測定器「Free Style リブレ」(Abbott)。上腕の裏側に小さな針の付いたセンサーを貼り付け、スマートフォンのアプリで血糖値を2週間調べることができる。痛みは全くない。付けたまま入浴や運動もできる。価格は7000円程度。

《ロカボの食事例》

 糖質は毎食20~40g、おやつで1日10g摂取する。糖質40gは、半膳のご飯、おにぎりなら1個程度に相当。実際の食事では、麺なら半玉、食パンは8枚切り1枚だと、おかず(野菜)の糖質量を含めても糖質40gに収まる。
 みそやしょうゆの味付けが濃いと、ご飯などの糖質を食べ過ぎるため、できるだけ塩分控えめに。マヨネーズやごま油など油での味付けを意識する。
 外食の際は、ご飯半膳にして冷ややっこや唐揚げといった低糖質の小鉢を1品、2品追加する。
 
 
 

〈朝食〉

 ・8枚切りの食パン1枚(バターたっぷり)、チーズオムレツ、無糖ヨーグルト、ナッツ、コーヒー

 ・焼き魚、ご飯半膳、オイルをしっかり垂らしたみそ汁や納豆、ツナサラダ(ドレッシングたっぷり。ノンオイルはNG)

 朝は最も血糖値が上がりやすい。脂質とタンパク質をしっかり取ることで、一日中血糖値が上がりにくくなる。果物のスムージーのみはNG。
 
 
 

〈昼食・夕食〉

・唐揚げ定食(マヨネーズたっぷり)、ご飯半膳、小鉢1品追加

・牛皿、卵、ご飯半膳、冷ややっこ、みそ汁

・ハンバーガー(パテとチーズを2倍)、無糖のドリンク、チキンナゲット(ポテトは避ける)
 
・ステーキ、サラダ(ドレッシングたっぷり)、ご飯半膳、みそ汁

・お好み焼き(豚肉、チーズ、マヨネーズたっぷり、ソース控えめ)

・カルボナーラ(チーズたっぷり)

 とろろそば、ラーメン・ライスセット、おにぎりと野菜ジュースなど、糖質かぶせのメニューはNG。カレーライスは、ご飯・ルー・ジャガイモの糖質トリプルになるので要注意。
 
 
 

〈おやつ〉

・ミックスナッツやチーズ
・板チョコ1/3枚
・ファミリーパックのアイス1個
・「ロカボ」マークの入ったお菓子

 商品の成分表示の「糖質」量を確認する。糖質の記載がない場合は、「炭水化物」量が指標になる。
 
 
 

 やまだ・さとる 医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。北里大学北里研究所病院・副院長、糖尿病センター長。糖質制限のトップドクターとして糖質制限食を積極的に糖尿病治療に取り入れている。糖質制限「ロカボ」の提唱者。『図解 炭水化物の話』(日本文芸社)など著書多数。
 
 
 

山田さん近著『糖質疲労』
 
 
 

イメージ写真はPIXTA