〈教育〉 子どもと歩む――“育自”日記 ポエム編2024年5月9日

 子どもと家族をテーマにした読者からの詩を「子どもと歩む――“育自”日記 ポエム編」として紹介します。併せて、詩人・エッセイストの浜文子さんのコメントも掲載します。

◆「じいじが かぜをひいた」

 じいじが かぜをひいた
 早く治してねーっと
 しんちゃんが
 似顔絵とアイスをもってきた
 ママは玄関においてと言ったけど
 ピンポーン 押しちゃった
 じいじはうれしーっと
 一粒食べて涙……
 ありがとう 大好き!
  
 作・小林進
 (岐阜県関市 会社員・76歳)

◆「ひーちゃん ありがとう」

 お母さんはお父さんと離婚した
 保育園へお迎えに行くと
 あなたは先生とお別れをしていた
 あなたの目は涙でいっぱいだった
 それからのお母さんは
 お姉ちゃんとあなたを育てて
 生きていくために必死で働いた
  
 あんなによく
 おしゃべりしてくれたあなたも
 だんだんと無口で
 おとなしい子になっていった
 やがて中学生になり不登校に
 3年間あなたと
 毎日毎日保健室へ通った
 あなたの気が済むまで
 教室には行かなくていいからね
 そして保健室での卒業証書受理
  
 高校生になったあなたは
 お友だちもいっぱい出来て
 学校生活を取り戻すように楽しんだ
 「バイトがしたい」と最近バイトに
 給料日の日 「ハイ」って
 ケーキをひとつ渡してくれた
 コンビニで165円のケーキ
 「じいじと半分ずつするね」
 もったいなくて もったいなくて
 なかなか食べられなかった
 ひと口食べると 甘いはずなのに
 しょっぱい味が口いっぱい広がった
  
 ひーちゃん ありがとう
 ばあばに
 もう一度子育てさせてくれて
  
 作・赤尾津多子
 (愛知県豊田市 主婦・77歳) 

◆「娘の強さ」

 口蓋裂で生まれた娘は
 構音障害があり
 上手く発音できない音がある
  
 小学校に入学すると
 言葉の事をからかわれ
 辛い思いを何度したことか
 しかし それでも
 我が子は果敢にも
 お友達との会話に挑んでくる
 娘は笑顔で言う
 「お友達が沢山欲しいから」
 その言葉に
 こちらがとても勇気付けられる
  
 娘の頑張りで
 お友達が少しずつ出来てきたとの
 嬉しい報告
 胸が熱くなる
 私は娘の話を
 毎日ドキドキしながら待っている
  
 作・鈴木さやか
 (浜松市中央区 会社員・39歳)

◆「おいた」

 おるすばん ありがとう
 姉妹そろって おめかしごっこ
 びっくり
 おねえちゃん3歳 いもうと2歳
 たがいに おつむに アロエなんこう
 ほっぺにマヨネーズ テカテカ
 「どこへおでかけですか?」
 3人そろって 笑顔いっぱい
 しあわせいっぱい
  
 作・宮﨑幸子
 (神戸市西区 主婦・69歳)

〈私の感想〉 詩人・エッセイスト 浜文子さん

読者に優しい共感を残す世界

 「じいじが かぜをひいた」。風邪をひき、横になっているところに鳴ったチャイム。玄関先には、作者の似顔絵とアイスのお見舞いを手にした孫の姿。作者の心に、ずっと残るだろう、この日の「幸せな一瞬」を、しっかり言葉にしようと動いた“詩へ向かう心”が、真っすぐに伝わる一編。この心は、そのまま成長したしんちゃんにも届き、作者の温かい思いは、孫の中にも、ずっと残るはず。アイスをほんの少し口に含むのと同時に溢れた涙を、それだけを記した作者の気持ちが、ズシリと伝わります。書くということの意味を表す作品です。
 「ひーちゃん ありがとう」。小さかった孫が味わった、いろいろな出来事。それらの時間を超えて成長していった、ひーちゃんの姿がストーリーになって記されます。このストーリーの中に際立っているのが、165円という価格の説得力。読む者は、「165円の放つリアリティー」に、心をつかまれます。そして、ケーキを手にした作者と同じ感慨を味わいます。読者に優しい共感を残す世界。ひーちゃんの作者への思いが輝きます。
 「娘の強さ」。タイトル通りの娘さんの日常が実例と共に展開します。親としての作者は、これまで何かと案じることの多い日々もあったかと思いますが、この一作を記す時期は、もう娘を信じ切って、頼もしく見つめている様子。「信頼」と「心配」は、音にすると「シンライ」「シンパイ」と一音違いですが、親は何かと愛情から生じる「心配」が先行することも多いもの。心を決めて「信頼」で傍らに寄り添うことに努めれば、子の心も定まるでしょう。強い娘さんに拍手ですが、この姿勢も作者が育てたものですね。
 「おいた」。女の子なら、思い出のシーンの一つに「お化粧ごっこ」がある人もいるはず。頰にマヨネーズ、頭にアロエ軟こうで、とびきりのおめかしが整う時期の幼子のいじらしさ、楽しさ。そのいとおしさを、作者のように存分に味わえる大人でありたいもの。叱って、しつけることのほんの少し前に、驚いて、クスッと笑う心を持つ大人が、幼子の環境には必要であることも忘れられがちな昨今、それを思い出させる一編です。

★読者の詩を募集

 子どもとの関わりのなかで気付いたことなど、子育ての日常を詩にしてご投稿ください。募集要項は次の通り。
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