名字の言 ベートーベンの「第九」初演200年2024年5月7日

 ベートーベンの交響曲第九番の初演は200年前。1824年5月7日のウィーンであった▼ハーヴェイ・サックス著『〈第九〉誕生』(後藤菜穂子訳、春秋社)によれば、当時では類を見ない「合唱付」の初演は大喝采。音楽雑誌にも「(彼は)これまでの作品をすべて超えた」と記され、称賛をもって受け入れられたようだ▼「第九」の最終楽章で歌う「歓喜の歌」。この原詩であるシラーの「歓喜に寄す」に、ベートーベンが曲をつけたいと考えたのは20代の頃。完成させるまでの約30年の間に、音楽家の命ともいえる聴力を失ったが、夢を諦めなかった。まさに“苦悩を突き抜けて歓喜へ”との「第九」のメッセージそのままの人生を生きたのである▼彼は日記につづっている。「たとえ苦難に陥っても、悲しみが喜びにかわり 悲しみが快楽にとってかわる日から、目を逸らしてはならない」(沼屋譲訳)。常に前を向いて生きよ!――そうした叫びのように思える▼御書には「苦をば苦とさとり」(新1554・全1143)と。苦悩から目をそらさず、人生を深める契機と捉えて立ち向かう生き方を教える。挑戦の人に苦悩はあっても不幸はない。挑戦が歓喜の未来を開くことを知っているからだ。(聖)