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〈ヒーローズ 逆境を勝ち越えた英雄たち〉第42回 ラルフ・ウォルドー・エマソン2024年5月6日

エマソンにゆかりの深い、ボストン近郊のケンブリッジの町並み。池田先生は1991年9月、右手前のハーバード大学で講演を行い、友情をうたい上げたエマソンの詩でしめくくった(同年同月、池田先生撮影)

エマソンにゆかりの深い、ボストン近郊のケンブリッジの町並み。池田先生は1991年9月、右手前のハーバード大学で講演を行い、友情をうたい上げたエマソンの詩でしめくくった(同年同月、池田先生撮影)

〈エマソン〉
勇気があれば、すべてのことは、
なんと違って見えることか!

 2010年4月、第3代会長就任50周年となる「5・3」記念の本部幹部会で、池田大作先生はある偉人の箴言を紹介した。

 「勇気があれば、すべてのことは、なんと違って見えることか! 断固たる決意の人は、その強靱な精神と力強い声によって、敗北に終止符を打つ。そして勝利へと転じていくことができるのだ」

 アメリカの思想家ラルフ・ウォルドー・エマソンの言葉である。

 アメリカ文学が飛躍的に発展した19世紀。今月は、この「アメリカ・ルネサンス」の中心を担ったエマソンが誕生した月である。

 1803年5月、エマソンはボストンの牧師の家に生まれた。8歳の時に父が亡くなり、一家は経済的に困窮。その中で母は子どもたちを懸命に育てた。家事を手伝ってもらいながらも、勉強時間は確保し、自らも読書を欠かさなかったという。

 教育熱心な叔母の存在も、エマソンたち兄弟の成長に大きな影響を与えた。「些細なことにこだわるな、志を高く持て。こわくてできそうにもない物事こそやるものだ。崇高な人格は、崇高な動機から生まれる」との教えは、彼の信念の土台になっていく。

 そして14歳で名門ハーバード大学に入学。母は苦しい家計をやりくりしながら、エマソンや彼の兄弟を同大学に送り出した。エマソンは「総長付新入生」として働くことで大学から援助を受けつつ、アルバイトで子どもたちに勉強を教えて学費をまかなった。

 体も決して強いほうではなかった。他の学友たちのように時間的な余裕もない分、必死で勉学に励んだ。日記には「よっぽど注意して自分を鍛えてゆかないと、将来悔恨と劣等感にさいなまれるだろう」とも記している。

 卒業後は女学校で教壇に立ち、21歳で再びハーバード大学へ。神学と宗教学を学び、父と同じ牧師となる。やがて結婚もし、幸せな生活が始まった。

 しかし、その日々は長くは続かず、わずか1年半足らずで、妻が結核で亡くなってしまう(31年)。

 エマソンは悲しみに暮れた。深い喪失感の中、一度は牧師の勤めに戻ったが、形式的な儀式に疑問を持ち、妻の死から1年半後に辞職。ヨーロッパへ旅立つ。

 「心にいだく宗教は軽信ではなく、宗教の実行は形式ではない。宗教は生命である。一人の人間の秩序であり、健全さである。得たり加えたりできる別のものではなく、すでに諸君がそなえている能力の新しい生命である」――教会の説教壇から離れ、著述家・講演家としての道を歩き出したのである。

1870年ごろのラルフ・ウォルドー・エマソンの肖像©brandstaetter images/Getty Images

1870年ごろのラルフ・ウォルドー・エマソンの肖像©brandstaetter images/Getty Images

〈エマソン〉
世界中で価値のあるものは
ただひとつ、活動的な魂です。
この魂は誰にでも持つ資格があります。

 ヨーロッパから帰国したエマソンは、ボストン郊外のコンコードを拠点とし、本格的な執筆・講演活動を開始する。

 1838年には、前年に続き母校ハーバード大学で登壇。その年の卒業予定者を前に、有名な「神学部講演」を行った。その中で彼は、人間を軽んじ、「宗教のための宗教」と堕した教会を痛烈に批判。「現在行なわれている形式のなかにあなたが新しいいのちの息吹きを吹きこんでほしい」「形式のいびつさを救うものは、第一に魂、第二に魂、そして永遠に魂なのです」等と訴えた。大学はエマソンの主張を問題視し、以降約30年にわたり、彼は神学部で講演することを禁じられる。

 人間の尊厳を踏みにじる奴隷制度にも、断固として反対の声を上げた。奴隷制を固持しようとする「逃亡奴隷法」が50年に制定されるや、法律を猛勉強し、鋭い論陣を張った。翌51年のコンコードでの講演でエマソンは「ひとつに結束して、真理をして口を開かせ、正義をおこなわさせようではありませんか」と呼びかけている。

 南北戦争が起きた60年代にも、徹底して奴隷解放を支持する言論戦を展開。当時の日記には「今日の義務をはたせ。目下のところ、すべてものを考える人間の最上の公的義務は、自由を主張することである」とつづられている。

 エマソンは妻だけでなく、最愛の家族を相次ぎ失った。2人の弟に続き、再婚相手との間に生まれた5歳の長男も死去。そうした悲哀や幾多の試練を乗り越え、後世に残る著作や講演を数多く生み出していったのである。

 彼の言葉にこうある。
 「苦役、災難、重病、貧窮、すべて雄弁と知恵を教えてくれる教師です。本当の学者なら、行動の機会が通りすぎていくことを、すべて能力の喪失として惜しむものです」
 「世界中で価値のあるものはただひとつ、活動的な魂です。この魂は誰にでも持つ資格があります。この魂は誰もが自分の内側に持っているものです」

 権威の者たちから疎まれる一方で、エマソンの周りには温かな人の輪が広がっていた。72年に自宅が火災で焼けた際には、友人たちの助力により家が再建された。

 その10年後、78歳で永眠したエマソンは、愛する家族や友人の思想家ソローらと同じ墓地に埋葬されている。

創価大学の中央図書館に所蔵されているエマソンの著作。池田先生が寄贈した『代表偉人論/自然論・論文鈔』(中央)は「池田文庫」に収められている

創価大学の中央図書館に所蔵されているエマソンの著作。池田先生が寄贈した『代表偉人論/自然論・論文鈔』(中央)は「池田文庫」に収められている

〈エマソンの言葉を通して語る池田先生〉
今の境遇がどうであろうと、
挑戦の歩みを続ければよい。
自分を卑下する必要など全くない。
自分にしか果たせない「使命」が、
この世にあると信じて進むのだ。

2度目のハーバード大学講演に臨む池田先生。世界的経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイス博士(壇上右)がコメンテーターを務めた(1993年9月)

2度目のハーバード大学講演に臨む池田先生。世界的経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイス博士(壇上右)がコメンテーターを務めた(1993年9月)

 池田先生はエマソンを「私が青年時代に愛読した、忘れえぬ『友人』の一人」と呼ぶ。恩師・戸田城聖先生からも「しっかり読みなさい」と薦められ、「いつでもひもとけるように、つねに近くの書棚に置いていた」と述懐した。
 
 1991年9月には、エマソンゆかりのハーバード大学で講演。「ソフト・パワーの時代と哲学」とのテーマでエマソンの言葉などを引用し、人間の内発的な力を高めゆくことを訴えた。93年9月にも「21世紀文明と大乗仏教」と題し、2度目の講演を行っている。
 アメリカ・ルネサンスの旗手の精神を継承する「エマソン協会」とも交流が深かった。
 
 2006年には、同協会元会長のロナルド・ボスコ、ジョエル・マイアソン両博士と鼎談集『美しき生命 地球と生きる――哲人ソローとエマソンを語る』を発刊。池田先生は発刊を前に、次のようにスピーチした。
 
 「ボスコ博士は、語らいの結びで語っておられる。
 『私たちはエマソンとソローの二人が取り組んだ会話の手法――あるいはより適切と思われる言葉を使わせていただければ、池田会長が生涯をかけて取り組まれているSGIの理念を反映した〈対話〉の手法――を実践に移す絶好の機会を得ることができました。まさに、私たちが参画したような交流を通して、初めて人々の真実の出あいがあるのです』
 皆さま方が、日々、実践されている創価の対話運動のなかにこそ、新しいルネサンスへのはつらつたる創造の息吹がある。エマソンもソローも、偉大なる魂を求め、偉大なる人生をつねに志向していた。そして、卑劣な魂、卑劣な人生を悠然と見おろしていた。(中略)
 無名無冠の庶民のなかにこそ、真に偉大な魂、真に偉大な人生が光っている。私も、入信以来、そうした偉大な『三世の同志』『三世の家族』とともに、戦ってきたことが、無上の喜びであり、誇りである」(06年8月24日、信越最高合同会議でのスピーチ)

「エマソンと想像力」をテーマに開かれた米・池田国際対話センター(当時・ボストン21世紀センター)のフォーラムで、エマソン協会のワイダー会長(当時)が登壇。同センター創立者の池田先生がエマソンと同様に人々の健全性を開発していると述べた(2006年9月)

「エマソンと想像力」をテーマに開かれた米・池田国際対話センター(当時・ボストン21世紀センター)のフォーラムで、エマソン協会のワイダー会長(当時)が登壇。同センター創立者の池田先生がエマソンと同様に人々の健全性を開発していると述べた(2006年9月)

 同じく、元会長のサーラ・ワイダー博士(米コルゲート大学名誉教授)とは、対談集『母への讃歌――詩心と女性の時代を語る』を編んだ(13年)。
 
 その中で先生は「凡庸な人間などは存在しない。人間の大きさというものは、結局、皆、同じなのだ」「人間が授かる最も素晴らしい幸運とは、内なる精神に導かれて、正真正銘の自分自身になることである」とのエマソンの信念を紹介。この言葉を「特に次代を担う青年たちにかみしめてほしい」と述べ、こう話を続けた。
 
 「今の境遇がどうであろうと、夢や希望を手放すことなく、挑戦の歩みを一日一日と続ければよい。自分を“とるに足らない存在”と卑下する必要などまったくありません。自分でなければ果たせない『使命』が、この世にあることを信じ、前進することです」

 【引用・参考】『エマソン論文集』酒本雅之訳(岩波書店)、『エマソン選集』原島善衛ほか訳(日本教文社)、『エマソンの日記』ブリス・ペリー編、富田彬訳(有信堂)、市村尚久著『エマソンとその時代』(玉川大学出版部)、『美しき生命 地球と生きる――哲人ソローとエマソンを語る』(毎日新聞社)、『母への讃歌――詩心と女性の時代を語る』(潮出版社)、The Selected Lectures of Ralph Waldo Emerson,edited by Ronald A.Bosco&Joel Myerson,The University of Georgia Press、Emerson’s Complete Works,vol.4:Representative Men,Houghton,Mifflinほか

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