〈医療〉 ひきこもりが“病的”かを判別2024年4月29日

  • 協調性が高いことも要因に?
  • 〈今日のポイント〉早期発見で精神疾患を予防

 コロナ禍を経てオンライン授業やテレワークが普及する中、病的ではない「ひきこもり」が増えてきました。九州大学の専門家チームは、「病的なひきこもり」と、病的ではない、いわば健康的なひきこもりを区別するための診断評価法を開発し、昨年9月、国際学術誌「ワールド・サイカイアトリー」に発表しました。この評価法を活用して、病的なひきこもりを早期に発見して支援し、うつ病やゲーム障害などの精神疾患を予防したいとしています。

在宅ワークや授業
外出制限もきっかけに

 内閣府がコロナ流行時の2022年11月に行った調査によると、“半年以上、家族以外とほとんど会話をしない”などの条件を満たすひきこもりの人は、全国で146万人と推定されました。コロナ前の15~18年の調査では115万人で、約30万人増えたことになります。
 調査の担当者は「外出が制限され、自宅でも授業や仕事ができるという状況がきっかけになった可能性がある」と指摘しました。
 国内で初めてひきこもりの専門外来を開設した九州大学病院で治療や研究に当たってきた、加藤隆弘准教授(精神科)は「健康的にひきこもっている分には幸せだが、一部には病的な人がいる。長期にわたるとメンタルを病むこともある」として、両者を見分ける必要性を強調しています。
 加藤さんらは、10項目程度の質問に答える形で、病的なひきこもりを鑑別する評価票を作成しました。

加藤隆弘准教授=福岡市

加藤隆弘准教授=福岡市

評価票で該当すれば
医療機関などに相談を

 評価票ではまず、1時間以上外出する日が週に3日以下であれば「物理的ひきこもり」とし、その期間が3カ月以上6カ月未満であれば「プレひきこもり」、6カ月以上であれば「ひきこもり」としています。
 さらに、直近1カ月の外出状況について、“自身がつらく感じているか”“仕事や学業に支障が出ているか”“家族や周りの人が心配しているか”などの7項目の質問で、一つでも当てはまれば「病的ひきこもり」の可能性があると判定します。
 厳密な診断や評価には専門家の面接が必要ですが、評価票で病的ひきこもりに該当すれば、クリニックや地域支援センターなどへの相談が勧められます。
 加藤さんらは、この評価法を使って、さらに研究を進めました。
 全国の20~59歳で働いていない500人を対象にした調査で、評価票で病的ひきこもりと判断された人は、病的ではないひきこもりの人に比べて、抑うつ傾向が強く出ました。
 さらに、ゲーム障害の症状が出ている人の傾向は、6カ月以上ひきこもっている人より3カ月未満の人がより強く、特に、ロールプレーイングゲームにはまっている人が多いといいます。

「物理的ひきこもり」は
3割以上の人が経験

 コロナ前にはひきこもりでなかった社会人561人を対象にした調査では、コロナ禍で3割以上の人が一度は「物理的ひきこもり」になり、そのうち約3割が「病的ひきこもり」に陥っていました。
 病的ひきこもりになった人の要因を分析すると、社交的で社会的な達成感を求める傾向が強く、協調性の高い人はリスクが高いことが判明しました。「意外なことに、ひきこもりとは無縁と思われていたこうした特性が、コロナ禍では病的ひきこもりの危険要因になった可能性が示された。より強くストレスを感じたのが理由かもしれない」と、加藤さんは指摘します。
 ポストコロナ時代において、情報通信技術の急速な進展や仮想現実(VR)の活用などで、ひきこもり的なライフスタイルの広がりが予想されるといいます。加藤さんは「新しい視点に基づくひきこもりの鑑別と支援体制の充実が必要だ」と訴えています。

 ※加藤准教授が代表を務める「ひきこもり研究ラボ@九州大学」のホームページ(https://www.hikikomori-lab.com/)。「ひきこもり度」「ひきこもり傾向」のチェックも可能

〈メディカルトピック〉子宮頸がんの話題から

HPVワクチン接種後
不安が“大幅”に解消

 岡山大学は、学生や教職員の希望者に子宮頸がんを予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種をしたところ、重篤な副反応はなく、接種前に感じていた不安が大幅に解消したとする調査結果を発表しました。
 HPVワクチンは、2013年6月から約9年間にわたって国が積極的勧奨を控えて接種率が大幅に下がったため、1997年4月2日~2007年4月1日生まれの女性は、公費負担でキャッチアップ接種が受けられます。
 岡山大学は昨年8月から今年1月にかけて、学生と教職員150人に3回までのキャッチアップ接種を実施。副反応などに関するアンケートに答えてもらいました。有効な回答があったのは約110人でした。その結果、接種後の局所の痛みは約60%、腫れは約30%、発熱は約4%の人でありました。症状は接種当日から翌日には消える人が多く、継続した診療が必要な副反応が出た人はいませんでした。
 新型コロナウイルスワクチンを打ったことのある人で、HPVワクチンの方が副反応が「軽かった」、または「やや軽かった」と答えた人は90%を超えました。
 接種前は約60%が「不安があった」と答え、不安の内容は副反応に関するものが多くありましたが、接種1週間後の調査では、約90%が「不安はない」と答えていました。
 調査をまとめた岡山大学保健管理センターの樋口千草准教授は「HPVワクチンに不安を持ち、接種を迷っている人は多い。副反応の程度を知って、接種を前向きに考えてほしい」と話しています。
 国のキャッチアップ接種事業は25年3月で終了しますが、必要な3回の接種を公費負担で完了するには、今年9月までに接種を始める必要があります。

ナスのヘタに効果

 ナスのヘタから抽出した成分が子宮頸がんの抑制に効果があったとする研究結果を、名古屋大学の産婦人科チームが英科学誌に発表しました。
 ナスのヘタは、子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)が手や指に感染してできるイボに対する民間療法として、使われていた経緯があります。
 チームは、ナスのヘタから「9―oxo―ODAs」という天然成分を抽出し、人間の子宮頸がん細胞やマウスの子宮頸がんに投与して、効果を分析しました。
 その結果、投与量が多いほどがん細胞の増殖を抑えたり、細胞死を導いたりしました。チームは、治療薬の開発につながる可能性があるとしています。