誓願 368~369ページ 【小説「新・人間革命」】第30巻〈下〉2024年4月27日

 二月十六日正午、山本伸一は、ブエノスアイレスの大統領公邸に、カルロス・サウル・メネム大統領を表敬訪問した。語らいで伸一は、二十一世紀は、「人類一体化の世紀」「地球文明興隆の世紀」にしなければならないとして、民族の融合の大地アルゼンチンに脈打つコスモポリタニズム(世界市民主義)に期待を寄せた。
 今回の南米訪問では、各国で、国家指導者等との会見や記念の式典が、間断なく続くことになる。そのスペイン語の通訳・翻訳を見事に務めたのが、アルゼンチン出身の女子部の友たちであった。
 彼女たちは、日系人の両親のもと、アルゼンチンで育った。少女時代に、鼓笛隊の活動を通して、信心を学び、“人びとの幸せのために、広布のために生きたい”との思いを深めていった。そして、アルゼンチンの国立大学や、国費留学生として日本の大学で懸命に勉学に励む一方、語学の習得にも力を注ぎ、SGIの公認通訳となったのである。
 若き生命に植えられた“誓い”の種子は、やがて“使命”の大樹となって空高く伸びる。
 十六日の夜、伸一は、アルゼンチンの上院、並びに下院を表敬訪問した。
 上・下両院のある国会議事堂は、荘厳なグレコローマン様式であり、一九〇六年(明治三十九年)に完成。軍事政権時代は議会活動の禁止によって閉鎖されていたが、八三年(昭和五十八年)、軍政に終止符が打たれると、国会議事堂として復活した。アルゼンチンの“民主の朝”を告げる象徴となった。
 上院では伸一の「平和への不断の活動」に、下院では彼の「『世界の諸民族の平和』への闘争」に対して特別表彰が行われた。地球の反対側にあって、伸一の発言に耳を傾け、その行動を注視してきた人びとがいたのだ。
 これもアルゼンチンの同志が、誠実に対話を重ね、信頼を広げてきたからこそである。
 彼は、メンバーの奮闘に心から感謝し、その栄誉を、皆と分かち合いたいと思った。