〈クローズアップ ~未来への挑戦~〉 スペイン㊦ インタビュー編2024年3月28日

 世界の同志の姿から、創価の哲学と運動の価値を考える「クローズアップ 未来への挑戦」。24日付に続く今回のスペイン㊦は、インタビュー編。同国における宗教間対話の意義と、存在感を増す仏教の価値、スペイン創価学会への期待などについて、2人の識者に聞きました。(記事=萩本秀樹、写真=石井和夫)

マドリード・カルロス3世大学
フアン・ホセ・タマージョ 名誉教授

 ――タマージョ名誉教授は「解放の神学」(※)が専門の神学者でいらっしゃいます。近年のスペインの宗教事情について教えてください。
 
 1978年に現在の憲法が制定され、キリスト教カトリックの国教制が廃止されてから、社会は大きく変わりました。78年以前も存在していた宗教的多様性は、より顕著に表れるようになり、モザイクのように現代社会を構成しています。
 
 アフリカ北部からの移民に多いムスリムやキリスト教プロテスタントのほか、近年はヒンズー教徒も増えており、西洋社会になじみが薄かった神秘性を伝えています。さらに仏教も存在感を増しており、かつてないほどの仏教徒がいます。
 また、まだ数は少ないですが、アフリカや中南米の先住民たちの信仰も、豊かな文化をもたらす宗教として注目しています。過去のユートピア(理想世界)や大地との結合を伝えながら、宗教と宗教を結ぶ可能性を有したものであると私は見ています。
 
 スペインにはこれらの多様な宗教が存在しますが、宗教間の平等は、完全には達成されていないと考えています。宗教教育や税制面での優遇など、さまざまな側面で、宗教によって権利に差があるからです。
 こうした理由から私は、スペインにおける宗教間対話を非常に重要視しています。
   
 ――名誉教授は2003年、マドリード宗教間対話協会を共同創設され、長年、理事を務めてこられました。
 
 大きなきっかけの一つは、同年3月に始まったアメリカなどによるイラク侵攻でした。4月に開かれた諸宗教会議で、さまざまな宗派の代表が、侵攻に対する抗議と非難の声を上げたのです。これが起源となって、協会は設立されました。
 
 全ての宗教が社会で認知され、尊重されるよう、対話を促進することが協会の目的の一つです。諸宗教の代表が集い、自分とは異なる信仰について知識を得ることは、とても意味のあることです。
 また、核兵器や環境問題をはじめとする人類的課題に対して、宗教がいかに力を合わせていけるかを語り合う場でもあります。危機の解決の方途を、国際社会に発信できるよう、今後もサポートしていきたいと考えています。

 ※ 貧困や抑圧に苦しむ人の視点から聖書を解釈する神学。

座談会を終えた女子部のメンバー。日々の語らいが活力の源に(バルセロナ市内で)

座談会を終えた女子部のメンバー。日々の語らいが活力の源に(バルセロナ市内で)

信仰の差異を超えた「共通の倫理観」

 ――宗教間対話を通して、どのような価値が生まれているとお考えですか。
 
 対話の場では、どの宗教がより優れているのか、より信者が多いのかといったことは話しません。それは根本目的に反するものです。宗教間対話が目指すのは、信仰の差異を超えた「共通の倫理観」を確認し合うことです。
 それは漠然とした倫理観ではなく、現実の社会課題に対応するために、各宗教が行動の基準とすべき倫理観であるといえます。
 
 私が特に重要だと考える宗教の共通項は、第一に、人類共通の大地を守ることです。地球の生態系がかつてないほどの危機に瀕している今、宗教に何ができるかを考えなくてはなりません。
 第二に、平和に対する貢献です。紛争や暴力で覆われたこの世界に立ち向かう鍵は、積極的な非暴力の精神です。この精神を守り、育むのが宗教の役割であるのです。
 第三は、全ての人の平等を実現していく挑戦です。そして第四は、誰も置き去りにしない公正な社会を築くために立ち上がることです。
 そして最後に、苦しむ人と同じ目線に立ち、共に生きることです。こうした慈悲や共感の精神は、とりわけ仏教が重要視するものであると理解しています。
   
 ――スペイン創価学会のメンバーとも、交流を重ねてこられました。
 
 10年、20年と友情を深め、いい思い出ばかりです。皆さんから学んだことは、本当に多くあります。
 
 創価学会は在家信徒の団体であり、“僧侶が上”といったヒエラルキー(位階制)はありません。皆が平等に活動に参加し、民主的な方法で物事を進めている点に、現代にあるべき宗教の姿を見る思いです。
 
 また、近隣との友好関係を大切にし、会館を地域行事の会場として提供したり、行事の準備や運営を学会員が担ったりしています。創価学会は市民からも「開かれた家」として親しまれています。
 そして、社会課題にも深く関わり、不正や差別、暴力、環境問題などを敏感に捉え、慈愛の精神をもって解決のために取り組んでいます。
 
 そうした意識と行動の根底に、日蓮の人間主義の精神があることをよく理解しています。日蓮は、全ての生命の尊厳性を説き、人々の幸せに生涯をささげました。
 権力の迫害にも屈せず、言論の力で立ち向かった日蓮の闘争は、仏教に革命をもたらし、社会に大きな影響を与えました。ゆえに私は、日蓮に注目し、その系譜に直結する創価学会に期待し、信頼しているのです。
 
 宗教は、現実世界の要請に応えるものであらねばなりません。その模範を示しているのが創価学会であると、私は思います。

スペイン仏教連盟
ルイス・モレンテ会長

 ――スペイン社会で、仏教への認知はどのように広がってきたのでしょうか。
 
 わが国で仏教が急速に普及していったのは、1970年代です。特にチベット仏教や禅の教えが顕著に広がりましたが、それにはヒッピー文化が影響を与えていました。
 仏教が本格的に社会に浸透する中で、78年に現行憲法が制定され、「信教の自由」が認められました。仏教団体の間で連携が始まり、バラバラではなく「共同体」として、社会に根を下ろしていくようになったのはこの頃です。
 そうした流れがある中で、92年に五つの団体によって、スペイン仏教連盟が発足しました。
 
 仏教を信じる人は、90年代のうちに1万5000人を超え、一昨年には10万人を数えるまでになりました。今、国内に約400の仏教施設があります。
 カトリックやプロテスタント、イスラム教、ユダヤ教に続く宗派として、スペイン仏教連盟は2007年、スペイン社会に「着実に根を下ろしている」状態であることが、政府から認められ、さまざまな権利が付与されるまでになりました。
   
 ――スペイン創価学会は08年に連盟に加盟しました。16年からはエンリケ・カプート理事長が連盟の会長を務め、一昨年にモレンテ会長にバトンタッチされました。
 
 エンリケさんの会長就任は、連盟の全会一致での決定でした。創価学会の長年の献身的な協力に、皆が深く感謝していたからです。一昨年に任期を終える時も、もっと長く在任してもらえるよう、規約を変更してはどうかと考えたほどです(笑)。
 
 わが連盟は、社会で価値を生みゆくことを目指しています。仏教界だけでなく、社会に開かれた連盟でありたい。「価値創造」を根本の哲学とする創価学会は、そのことを最も良く理解し、自ら実践している団体です。
 
 池田第3代会長に、私は深い敬意を抱いています。会長の類いまれなるリーダーシップによって、創価学会は世界に広がり、社会へと開かれました。組織を拡大するだけでなく、支え合い、励まし合う生き方を喜びとする人たちを育んでこられました。
 その人間としての資質は、数値では測れないものです。しかし私は、創価学会の皆さんとの友情を通して、深い慈悲と思いやりを実感してきました。出会った全ての人が、実の家族のように温かく接してくださいました。そうした振る舞いに、他団体の人たちも感銘を受けていったのだと思います。

“創価家族”の絆を強く――支え合い、励まし合って進む男子部の同志(マドリードで)

“創価家族”の絆を強く――支え合い、励まし合って進む男子部の同志(マドリードで)

池田会長の英知に社会変革の方途

 ――これからの時代に、宗教が果たすべき役割をどのように考えていますか。
 
 世界では、いまだ争いや暴力が絶えません。人々の分断をあおるようなメッセージがいとも容易に発せられ、特に青年世代は大きな影響を受けています。
 スペイン内戦(※)は、家族の中でさえも亀裂や争いなどの分断を生じさせました。分断は憎悪の連鎖を生みます。そうした社会の傾向性を転換するのが、宗教の使命にほかなりません。生命を軽視する風潮を許さず、戦争には臆さず「ノー」と言うべきなのです。
 
 社会の転換は、人間一人一人がエゴを乗り越えることから始まります。その「内面の変革」の重要性を、明確に説いているのが仏教です。
 ブッダとは「目覚めた人」の意味ですが、私はそこに、「大きな境涯」という意味もあると考えます。自身が目覚め、他者を目覚めさせ、共に大きな境涯を開いていく。そうした実践を生涯、貫かれたのが池田会長です。
 
 「SGIの日」記念提言をはじめ、世界の諸問題の解決の道を示された会長の英知に、私たちは今こそ学ぶべきなのです。創価学会を手本として、人類貢献の仏教の価値を、広く社会に伝えていきたいと思っています。

 ※ 1936~39年。共和国政府と反乱軍(ナショナリスト)との間で、国を二分して戦われた。

社会に信頼を広げるスペイン創価学会の友。多様な文化背景を持つメンバーが集い、仏法の喜びを生き生きと語り広げる(昨年9月、首都マドリードで)

社会に信頼を広げるスペイン創価学会の友。多様な文化背景を持つメンバーが集い、仏法の喜びを生き生きと語り広げる(昨年9月、首都マドリードで)

 スペイン㊤(24日付)の記事はこちら

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