名字の言 即座の対応に真心が表れる


 歌手のさだまさしさんがディナーショーを行った日のこと。会場のホテルにチェックインすると、声をかけられた。「頼みたいことがあるんだ。今、少し時間あるかい?」。相手は漫画家の手塚治虫氏だった▼さださんはリハーサルの直前。「30分ほど後でよろしければ、時間はたくさんあります」と返したが、手塚氏と都合が合わない。やむなくその場で氏を見送った。ところが1カ月半後、さださんは後悔に襲われる。闘病中だった氏が世を去ったのだ▼「頼みたいこと」とは何だったのだろう。すぐに話を伺えばよかった――。さださんは「このとき以後、『後でね』を自分に禁じた」と、自戒の念をつづる(『さだの辞書』岩波現代文庫)▼激しい法難の渦中にも、日蓮大聖人は門下との交流を最優先にされた。「病が治ったことを、きょう聞きました。これ以上、うれしいことはありません」(新2165・全1298、通解)――即座の対応に、日頃から門下の幸福を願う、深き御慈愛があふれている▼私たちの周囲にも、まさに今、苦境と戦う友がいる。その声に耳を傾け、共に一歩を踏み出すのは、「今」をおいてほかにない。日々、縁する友の幸せを祈り、試練の時には真っ先に駆けつける人でありたい。(値)