ユースの使命と役割2024年3月23日

  • 若き熱と力が未来を変える

 生存の権利を脅かす核兵器のリスク、気候変動に伴う大規模な自然災害……。
 
 人類の前途に立ちはだかる地球的諸問題の影響を最も大きく受けるのは、言うまでもなく、今とこれからの「青年」たちだ。そして、それらの解決の方途を探り、未来の希望を創り出す原動力となるのも「青年」たちであろう。
 
 いよいよ今月24日、東京・国立競技場に約7万人の青年世代が集う「未来アクションフェス」が開催される。本年9月に初めて行われる「国連未来サミット」でも青年の有意義な包摂が求められるなど、国際社会における青年の役割は、いやまして重視されている。
 
 今回は、「ユースの使命と役割」をテーマに、青年を取り巻く主な現状と課題を確認し、核兵器廃絶や気候変動の問題などに取り組んできた学会青年部の歩みをたどる。

◀◀現状と課題▶▶

 ある調査結果がある。日本財団が17~19歳を対象に行った意識調査(2022年)によれば、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と回答した割合が26・9%。調査対象6カ国(日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド)の中で日本は最も低かった。下から2番目のイギリス(50・6%)と比べても、約半分と差が開いた。
 
 さらに、政治や選挙、社会問題について、「自分の考えを持っている」「積極的に情報を集めている」「家族や友人と議論することがある」と回答した割合も、6カ国中最下位という結果に。日本の若い世代が社会の問題などに対して悲観的になり、“立ちすくむ状態”にあることを示唆しているといえよう。
 
 一方で、「国や社会に役立つことをしたいと思う」との回答は、他国との比較ではいまだ低いものの、そこまで大きな差はなかった。プラスに捉えれば、若い世代に潜在的な社会貢献への欲求が眠っている表れのようにも思える。
 
 選挙の投票率をはじめ、社会や政治に参加する青年の割合が低いとされる日本。しかし、だからといって青年が、社会の問題に対して「無気力」「無関心」であると決めつけてよいのだろうか。
 
 “自分が行動すれば、何かを変えられるかもしれない”――青年がそう思える機会や経験を、上の世代がどれだけ提供していけるかどうかが重要である。青年のエンパワーメント(内発的な力の開花)を推進し、若い声と力が現実を変える社会への転換が、今こそ求められている。

影響力及ぼす参画を

 近年、国連などの国際機関において、国際会議等に10代や20代が参画し、意見表明する機会が多く見られるようになってきた。
 
 2015年にSDGsを定めた国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、ユースを“変革のための重要な主体”と位置づけている。
 
 また、同年に採択された国連安全保障理事会「2250決議」は、ユースが紛争の予防や解決のために果たせる重要な役割と貢献を認めた初めての決議となった。具体的には、国連加盟国等に対して、ユースに教育や訓練の機会を提供し、あらゆるレベルの意思決定、平和構築の取り組みにユースを参加させるための措置などを求めている。
 
 日本でも、昨年4月に「こども基本法」が施行され、子どもの権利や、若い世代の政治・社会参加が一段と注目されるようになってきた。
 
 しかし、真の意味で、子どもの権利が尊重され、若年層の意見が大事にされるためには、制度と意識の両面における粘り強い改革が必要とされよう。超高齢社会の日本にあっては、少数派である若年層の意見は政治や国際会議の場で反映されにくく、若い世代の政治への「影響力」が減退しているのは否めない。
 
 たとえ、参加の形を取っていても、そこに「影響力」が及ばなければ、結局“自分には力がない”と感じ、あきらめや無力感を助長しかねないだろう。
 
 さまざまな意思決定や政策決定の過程に青年が積極的かつ継続的に参画し、「影響力」を発揮できるための工夫や施策が必要である。

核兵器禁止条約の第2回締約国会議の関連行事として開催された「ユース締約国会議」。SGIの青年代表が参加し、企画や運営にも貢献した(昨年11月、ニューヨーク市内で)

核兵器禁止条約の第2回締約国会議の関連行事として開催された「ユース締約国会議」。SGIの青年代表が参加し、企画や運営にも貢献した(昨年11月、ニューヨーク市内で)

「世界市民」育む教育

 社会の問題を解決し、青年の可能性を最大限に伸ばすためには、「教育」の役割が欠かせない。中でも、核兵器や気候変動をはじめとする地球的諸問題を“自分のこと”として捉え、その解決のための「連帯意識」を育む「世界市民」の教育が、ますます重要である。
 
 昨年の民間企業のある調査では、日本におけるSDGsの認知率は91・6%と、世界でも群を抜いて高かった。同調査の5年前の認知率が14・8%であったことを考えると、学校でのSDGs教育の推進などが影響している結果だと推察できよう。しかし他国と比べれば、SDGsを意識して行動している人の割合は低い傾向にある。
 
 教育の役割として、正しい知識や技能を習得させることは当然の上で、青年がそれらを活用し、いかに新たな付加価値やイノベーション(革新)を生み出していけるかが重要だ。複雑化する課題を抱えた未来を生き抜くためには、柔軟な思考力や表現力、また多様な人々と協働して課題解決を図っていける人間力、行動力なども培っていかなければならない。
 
 そのためにも、学校や地域などで社会問題に触れる機会を増やし、共に考え、アクションを起こす仲間を増やすこと。また、自分とは異なる民族や文化、考え方の人と積極的に交流することも大切であろう。
 
 他者との対話や、異なる世界との交流は、自身にとって新たな価値を創造する貴重なチャンスである。そして若い世代こそ、そうした機会を通して学んだ知識や経験を周囲に語り、発信し、連帯の輪を日本中、世界中に広げていける存在である。
 
 「一人の声」「一人の行動」が微力に思えたとしても、それらが重なり合えば大きな“意思の集合体”となり、新しい時代を開きゆく原動力となる。未来を変えるのは、若き熱と力と連帯にほかならない。

◀◀学会の取り組み▶▶

 「それ(原子爆弾)を使用したものは悪魔であり、魔ものであるという思想を全世界に広めることこそ、全日本青年男女の使命であると信ずるものであります」
 
 核兵器を“絶対悪”と位置づけた「原水爆禁止宣言」で、第2代会長・戸田城聖先生が託したのは、未来を担った「青年」たちであった。
 
 その恩師の遺訓を受け止め、一貫して平和闘争を続けてきたのが池田大作先生である。そのリーダーシップのもと、師弟の平和理念を具現化しようと、運動の中核を担ってきたのが学会青年部だ。
 
 1973年、青年部が「生存の権利を守る青年部アピール」を採択し、ベトナムなどの難民への救援募金を開始(以来、約30年間にわたり「難民救援キャンペーン」を実施)。
 
 同年から翌年夏にかけては、核兵器廃絶のための1000万署名運動を行い、75年、池田先生の手によって国連本部に提出された。
 
 また、青年の手で戦争の記憶を後世に伝え残そうと、74年から約12年の歳月をかけ、「戦争を知らない世代へ」シリーズ(80巻)を刊行。証言者は約3200人に上り、約4000人のメンバーが編集作業に携わったこと自体が、貴重な継承の機会となった。

核兵器廃絶を訴える1000万人の署名簿。1973年から翌年夏にかけて集められ、75年1月に池田先生の手によって国連に提出された

核兵器廃絶を訴える1000万人の署名簿。1973年から翌年夏にかけて集められ、75年1月に池田先生の手によって国連に提出された

 その反戦出版活動が76年の「反戦反核展」へと発展し、それが学会の展示活動の源流に。82年から世界各地で始まった、核兵器、人権、環境、教育などに関する展示活動も、青年部が主体となって行われてきたものである。
 
 また89年からは、“青年が平和をつくる”との誓いと連帯を強める場として、広島・長崎・沖縄の代表による「3県平和サミット」を開催(2015年からは「青年不戦サミット」に改称し、現在まで開催)。
 
 さらに、戦乱で国土が荒廃したカンボジアの民主教育活動を支援するため、青年部がラジオ寄贈運動(ボイス・エイド)を展開し、1993年に28万台のラジオを届けた。
 
 98年には、核時代平和財団が主導した核廃絶の国際キャンペーン「アボリション2000」の趣旨に賛同し、約1300万人の署名を推進。
 
 2010年には、青年部が「核兵器禁止条約」の制定を求める227万人の署名を集め、当時の国連事務総長とNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議の議長に提出するなど、草の根で運動を展開し、核兵器禁止条約の成立に貢献した。

意識啓発運動に尽力

 14年からは、青年による行動の連帯を広げることを目指す運動「SOKAグローバルアクション」をスタート。被爆の体験を青年が聞く「平和の誓い」フォーラムや、被爆地・広島で23カ国の青年が集った「核兵器廃絶のための世界青年サミット」の開催のほか、中国や韓国との青年交流を通じた「アジアの友好」などを推進した。
 
 さらに20年からは、新たに「SOKAグローバルアクション2030」を始動し、SDGsの普及・推進などに尽力。とりわけ、気候変動への対策として青年部が作成したウェブサイト「マイ・チャレンジ10」や、セミナー・講演会等の実施を通して、青年世代の意識啓発に努めている。
 
 また、SGI青年部は核軍縮や気候変動対策の国際会議、それらを巡る国連等での一連の討議と交渉会議などに参加し、市民社会の声を届けてきた。
 
 核兵器禁止条約の第1回締約国会議(22年)、第2回締約国会議(23年)で発表された「ユース声明」は、青年部の代表が起草に携わったものだ。また、同会議の関連行事として行われた「ユース締約国会議」では、他団体とのワークショップの共催や企画・運営など、一連の会議に尽力した。
 
 19年9月に開かれた「ユース気候サミット」をはじめ、気候変動に関する国際会議や行事にも積極的に参加。国連の気候変動対策の会議「COP」においても、関連行事の開催や意見の提出等を行っている。

国連気候行動サミットの関連会合として行われた「ユース気候サミット」。世界各地の青年が集い、SGIの代表も参加した(2019年9月、ニューヨークの国連本部で)

国連気候行動サミットの関連会合として行われた「ユース気候サミット」。世界各地の青年が集い、SGIの代表も参加した(2019年9月、ニューヨークの国連本部で)

青年に光当てた提言

 池田先生は「若人の連帯があるところ、乗り越えられない壁など断じてない」との信念で、世界の教育界のリーダーらと手を携えながら、青年のエンパワーメントに力を注いできた。
 
 2006年9月に発表した提言「世界が期待する国連たれ」では、「国連全体として、青年に焦点を当てていく体制を整え、青年の積極的な参画の機会を確保していただきたい」と訴え、国連に「青年担当局」の設置などを提案。
 
 その後も、青年たちの声などを反映させることを求める「グローバル・ビジョン局」の設置(09年1月の提言)や、青年の視点による提案等を国連の首脳に届ける「国連ユース理事会」の創設(21年1月の提言)など、青年を議論の中心に据える施策をたびたび訴え続けてきた。
 
 国連としても、「青年」に光を当てた取り組みが一段と推進され、12年には、全世界の若者から集めた意見を初めて中核に据えた「世界ユース白書」を発表。翌13年には、各国の青年世代の声を国連に届ける国連のユース担当特使が創設・任命された。
 
 18年には国連が、青年の役割を重視する「ユース2030」戦略を立ち上げ、昨年、「国連ユース・オフィス」を新設。国連の通常予算で運営される常設の機関であり、青年が主役となって世界の問題解決に取り組む流れが、一段と強化されるであろう。
 
 本年9月の「国連未来サミット」でも、国連の意思決定プロセスに青年が主体的に参画し、青年の声が国際社会を動かしていくことが期待されている。

池田先生の言葉から

 どんなに素晴らしい理想も、胸に描いているだけでは夢物語のままで終わってしまう。そこに“生きた現実”としての輪郭を帯びさせるためには、自分には何もできないのではないかといった無力感やあきらめと戦い、行動に踏み出す「勇気」が必要です。
 
 その勇気の炎を社会に灯す熱源こそ、青年です。青年の情熱には、一人から一人、また一人へと伝播し、あらゆる困難の壁を溶かし、新しき人類史の地平を開く力が脈動している。
 (2009年9月の提言から)
 
☆★☆
 
 世界市民教育は、どんな場所で起きた出来事にも、同じ人間としての眼差しをもって向かい直す「縁」となり、問題解決への行動の連帯を育む「縁」となるものです。それは、グローバルな課題を人間一人一人の生き方に引き寄せながら、その人自身が持つ可能性を開花させていく源泉にほかなりません。
 
 この世界市民教育の推進を通し、①苦しむ人々の立場に自分の身を置く経験を重ね、②共に生きる社会を築くために何が必要かを見いだし、③皆で力を合わせて足元から「安心の空間」をつくり出していく――。
 
 私は、こうした教育による「縁」の波動を広げ、青年の力を引き出す中で、時代変革の潮流は勢いを増すと信じるものです。
 (2017年1月の提言から)