名字の言 日本漫画を、世界に冠たる文化へと押し上げた鳥山明氏2024年3月16日

 愛知県在住の画家・堀尾一郎氏が、県内の高校で教員として勤めていた時のこと。1人の生徒が、おそるおそる声をかけてきた。「漫画研究同好会の顧問になってくれませんか」。後に人気漫画家となる、若き日の鳥山明氏である▼当時、漫画への理解が浅かった堀尾氏は要請を断った。だが、鳥山氏は諦めなかった。別の教員に顧問を依頼し、同好会を発足させる。堀尾氏は述懐している。「漫画は芸術ではなく娯楽と見なされる時代だったが、彼には信念があった」(3月9日付中日新聞)▼日本漫画を、世界に冠たる文化へと押し上げた鳥山氏。今月、訃報が伝えられると、国境や世代を超え、数多くの惜別の声が寄せられた。そのこと自体が、アニメ界に計り知れない功績を残したことを物語る▼芸術や文化は“人間性の発露”だ。漫画にもまた、作者の生きざまや心が反映される。「ドラゴンボール」をはじめ、鳥山氏の作品が今なお多くの人を魅了してやまないのは、氏が漫画への一途な情熱に生き抜いたからだろう▼若き日の熱い思いのまま、生涯を歩む人は幸福だ。夢や目標へ前進する途上には、挫折や葛藤もあるが、それを乗り越えようとする執念と努力が自身を鍛え、消えない心の財産となる。(当)