〈Switch――共育のまなざし〉 池田先生の励ましの言葉から2024年3月8日

  • 「不登校」や「親の生き方」を巡って

  
 日本と世界、それぞれの国や地域で親子を取り巻く環境や価値観に違いはあっても、「子育てに悩みはつきもの」であることは共通しているでしょう。池田先生はかつて、アメリカやブラジル、欧州、アジアのSGI(創価学会インタナショナル)リーダーや創価の教育者とてい談を行ったことがあります。そこでは「不登校」や「親の生き方」を巡る語らいも交わされました。『母と子の世紀』(『池田大作全集』第63巻所収)の中から、抜粋して紹介します。
  

「子どものために何ができるか」という挑戦

君たちこそ人類にとって希望の“未来”であり、世界の宝だ――池田先生が、包み込むように励ましを送る(1996年6月、アメリカ・ニューヨーク文化会館で)

君たちこそ人類にとって希望の“未来”であり、世界の宝だ――池田先生が、包み込むように励ましを送る(1996年6月、アメリカ・ニューヨーク文化会館で)

何に苦しんでいるのか

 <文部科学省の調査によると、2022年度の小・中学校における不登校の児童生徒数は過去最多。不登校の概念は国によっても違いはありますが、わが子が突然、学校に行けなくなってしまった時の親の驚き・焦り・不安に、変わりはないかもしれません。ある国のSGIリーダーが「実は私の娘も一時期、不登校に……」と打ち明け、当時のわが子の様子や自身の心情を話しました。池田先生は耳を傾け、語ります>
  
 不登校も、最初は、ただ何となくという気持ちから始まったのかもしれない。それが一日、一日と経つにつれて、だんだんと学校に行きづらくなり、元に戻れなくなってしまう場合がある。
  
 子どもだって苦しんでいる。何とかしなければと思っている。しかし、年頃の子どもというのは、それを真正面から言われると反発したくなる。素直に自分の気持ちが伝えられないものなのです。そこをくみ取ってあげながら、大きくつつみ込んであげるのが、親の愛情です。親の心は、たとえ時間はかかっても、必ず通じていくものです。最後まで、「子どもを信頼する心」を持ち続けることが大切ではないでしょうか。
  
 <先のSGIリーダーは、わが子が不登校になった時、母親として「今までこんなに一生懸命、育ててきたのに」と悔しさと情けなさで、心がズタズタになったと言います。しかしSGIの先輩に話を聞いてもらい、唱題を重ねると、娘の気持ちに気づいてあげられなかった自分を反省。“不登校を何とかしたい”という祈りから、“娘に幸せな人生を歩んでほしい”という祈りへと変わっていくと、不思議と娘も再び学校に通い始めるようになったのです。池田先生は訴えました>
  
 自分のことを、心底、思ってくれている人がいる――それが、娘さんの心を開いたのだろうね。それが、新しい一歩を踏み出す「勇気」になり、大きな「支え」になったのでしょう。その子がいちばん、何に苦しんでいるのか。まず、そこに目を向けてあげることです。そのうえで、確かな人生の方向性を教えてあげることが大切です。
  
 飛行機だって、方角を見失ったままでは、目的地に着くことはできない。いつまで経っても、灰色の雲の中で迷い続けることになる。それでは不幸です。子どもは、自分で飛び立つ力は持っている。それを引き出し、方向づけてあげるのが、「親の愛情」であり、「教育」と言えるのではないでしょうか。
  

まず「聞く」こと

 <別のSGIリーダーにも、13歳になる長女が「学校に行きたくない」と突然、言い始めたことがあったそうです。長女は「仕事を始める前に読んでね」と手紙を渡してきました。通勤バスの中で手紙の封を開けると、そこには“学校の試験勉強を頑張ったのに、いい点が取れなかったことがきっかけで、授業に出たくないという気持ちになった”との心情が書かれていたのです>
  
 娘さんは、精いっぱいの勇気を振りしぼって、お母さんに「告白」の手紙を書いたのかもしれない。それは、ある意味でお子さんからの「SOS」の信号とも言えるでしょう。
  
 いざという時に親がどう対応するか。子どもからのサインを決して見過ごしてはならない。また、後回しにしてもいけません。きちんと子どもの心に応えてあげないと、親が気づかないうちに、子どもが深く傷ついてしまうことがあるものです。
  
 お子さんからのサインに気づいて受けとめられるかどうかは、やはり親御さんの心、親御さんの境涯で決まると言えるでしょう。親御さんが大きく、どっしりと構えていれば、子どもは安心して飛び込んでいけるのです。親御さんがびくびくしていたり、おどおどしていれば、子どもも不安になる。ですから、自分の境涯を高める場とも言えるSGIの世界で、活動ができるということは、本当に恵まれているのです。
  
 <手紙を読んだSGIリーダーは帰宅後、娘とじっくり話し合う時間をつくりました。話を聞くうち、悩みの本当の原因が女の子の友人との人間関係にあることが分かり、担任の教員とも連携して問題は解決に向かっていったそうです>
  
 子どもの話に「真剣に耳をかたむける」ことが大事です。最近、日本では青少年の悲しむべき事件が相次いで起こっていますが、そうした原因の一つとして、「親子の対話が不足している」と指摘する識者も多い。
  
 親子のコミュニケーションがとれていないから、親は子どもが何を考えているのかわからない。一方、子どもは、伝えたいことがあっても、それを聞いてもらえないし、素直に言葉にすることもむずかしい――この親子の対話不足の悪循環から、さまざまな問題が生じてきます。
  
 ともすると、何かあった時に、結論を急いだり、子どもに「ああしなさい」「こうしなさい」と命令しがちになるものです。でもその前に、子どもの言うことに、しっかりと耳をかたむけることを忘れてはなりません。まず「聞く」ことから、「対話」も「信頼」も生まれてくるのですから。
  
 仏法では「七宝」といって、人間行動に大切な徳目を七つ挙げていますが、その最初が「聞くこと」なのです。「聞く」ということは、「心を開く」ことでもあります。子どもの話をよく聞いたうえで、親の信念を厳然と示していけばよいのです。
  

神奈川・平塚文化会館で行われた家庭教育懇談会。未就学児の保護者をはじめ小・中学生から高校生、大学生のいる世帯まで幅広く。子育ての悩みと喜びを共有し、励まし合った(本年1月)

神奈川・平塚文化会館で行われた家庭教育懇談会。未就学児の保護者をはじめ小・中学生から高校生、大学生のいる世帯まで幅広く。子育ての悩みと喜びを共有し、励まし合った(本年1月)

人間の本当の価値とは

 <話題は「家族のあり方」にも及びました。ひとり親家庭や共働き家庭が増えています。“仕事から帰ると、とても疲れていて、子どもと質の高い時間を過ごすことができない”“それで負い目を感じて子どもを甘やかしてしまったり、反対に、必要以上に厳しくしつけたりしてしまう”という実情もあるようです>
  
 なるほど。そうした傾向は日本も同じですね。家族というのは、社会から孤立した存在ではない。社会が変われば、家族のあり方も変わっていくのは、当然のことでしょう。
  
 「昔はよかった」と、過去の家族像を理想化する人もいますが、世の中が変わってきているのだから、「過去の理想」を追い求めてもしかたがない。しかし、家族の大切さは、変わっていないと思う。むしろ、荒波のような現代社会にあっては、人間の「よりどころ」としての家族が、いっそう大きな役割を持ってきます。
  
 <SGIの友は「善につけ悪につけ、マスコミの影響が大きいと思います。テレビなどのメディアによって、『自己中心主義』が刺激され、それが家族のあり方に変化をもたらしています」と訴えました。「たとえば、女性であれば、テレビドラマに出てくる主人公のように、いつも若く、美しく、自分の生きたい人生を自由に生きる――そんなイメージが誇張されています。ふつうのお母さんまでもが、『あのテレビのような生活がしたい』と考え、『今の自分は、だめなんじゃないか』と思うようになります」と。今でいえば、SNSの影響も大きいでしょう>
  
 テレビを見て楽しむのもよいし、そこから学べることもたくさんある。しかし、そうした華やかさは、幻のようなものです。虚像に振り回されては、賢明な生き方はできません。マスコミというのは、富や名声をもつ人ばかりをクローズアップしがちです。しかし、本当の人間の価値とは、物質的な豊かさや名声のなかにはありません。
  
 もちろん私は、皆さんに裕福で、健康な生活をしてほしい。しかし、「心の豊かさ」こそが、最高の価値であることを忘れてはいけない。いかに生きたか。いかに世の中の役に立ったか。無名であっても、立派な家に住んでいなくても、誠実に、人々のために尽くしていく人こそ、「心の財宝」を積んでいける。その人こそ、本当の幸福を実感できるのです。
  

“未来の世界”から

 <人のために尽くす生き方の豊かさ・素晴らしさは、世界中の同志が言葉だけでなく、実践をもって証明してきたものでもあります。池田先生は呼びかけました>
  
 “言行一致”の生き方でなければ、子どもたちに信頼されません。子どもたちの目は清らかです。本当に鋭いものがある。
  
 ブラジル文学アカデミーの故アタイデ総裁も語っておられた。「子どもたちは、われわれの“未来の番人”であり、何世代にもわたって培われた“遺産”の継承者です」
  
 子どもたちは、つねに未来に生きています。未来の世界から、大人たちを見つめているのです。そして、大人たちの生き方の核心を選びとり、精神性の遺産として未来へ運んでいくのです。ゆえに、子どもたちの成長は、大人たちの成長いかんにかかっていると言えるかもしれない。
  
 教育とは、子どもたちのために何ができるかという、みずからの生き方をかけた、大人たちの挑戦にほかならないのです。
  

  
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