〈教育〉 子どもと歩む――“育自”日記 ポエム編2024年3月7日

 子どもと家族をテーマにした読者からの詩を「子どもと歩む――“育自”日記 ポエム編」として紹介します。併せて、詩人・エッセイストの浜文子さんのコメントも掲載します。

 
●「広い窓」

 青い空と灯台が見える
 「きれいやなぁ」と ひ孫の声
 遠くから迫る音
 ヘリコプター 飛行機
 「乗ってみたいなぁ」
 私は耳をふさぐ
 ひ孫が手をふっている
 爆音で昔を思い出す
 B29焼夷弾の音を
  
 お昼にひ孫に遠い昔話をしたら
 テレビやスマホで
 ウクライナのことを知っていた
 早く戦争が終わってほしいね
 おいしい物 食べられるし
 友達と遊べるしと
 少しは分かっている
 ひ孫3人でした
  
 作・中井幸江
 (三重県志摩市 82歳)
 

 
●「だって 私はママだから」

 もう貴女は すっかり忘れたかな
 嫁ぐ前日
 「ママみたいに子どものためだけに
 生きない」って 言ってたね
  
 今では貴女も 2人の息子のママ
 受験の日の朝 暗いうちから
 お弁当作って送りだし
 一日中 胸が張りさけそうなほど
 思いを込めて祈っていたね
 貴女の後ろ姿 昔の私を越してたよ
  
 「心配で 心配で」と
 これからの事
 いつも心配している貴女
 でも大丈夫……大丈夫
 皆の幸せ 精一杯
 私が祈っていきます
 だって だって
 私は 貴女のママだから
  
 作・川瀬裕子
 (岐阜市 主婦・72歳)
 

 
●「お手てつないで」

 お手てつないで幼稚園
 北風さんに背中を押され
 ぎゅっと お手てに力を入れた
  
 しょうじくん 寒いねー!
 うん!
 お母さん 早くおうちに帰って
 こたつで足を温めて!
 私は思わず心が
 温かくなりました
 ありがとね
  
 今は遠くてなかなか会えないね
 3人の親になったあなたは
 今度は子どもたちに
 温かい贈り物 もらってね
  
 作・大﨑令子
 (横浜市港南区 パート・76歳)
 

 
●「優しく素直な少年に成長」

 仕事をやめ 一人でいると
 むなしい気持ちにさいなまれる
 人と会えなくなるとは
 こんなに つらい
 
 乳のみ子だった孫をみる時がきた
 「おいで」というと 
 両手を広げて うでの中に
 幸せの一瞬だ
 一日が あっという間に過ぎた
 2カ月の間
 「ばあばは辰ちゃんが 大好きだよ」
 と言葉にした
 中学1年生になったサッカー少年は
 ばあばより はるかに 身長が伸びた
 久々にやって来た辰ちゃんは
 ばあばのそばに
 静かにそっとハグしてくれた
 生きている限り 君の味方だよ
  
 作・安田信子
 (神奈川県藤沢市 主婦・76歳)
 

 
〈私の感想〉 詩人・エッセイスト 浜文子さん

親の心を温めてきた育児の風景、言葉に

 「広い窓」。美しい空と灯台の描写からスタートする一編。遠くから響くヘリコプターの音や飛行機に向かい、「乗ってみたい」と手を振るひ孫たち。脇に立つ作者は、その轟音に思わず耳をふさぎます。想起するのは、過ぎた日のB29、焼夷弾。作者は昼どきに小さい3人に戦争体験を語ります。作者の話で、現在報じられているテレビの向こうの出来事ががぜん、日常へとつながったひ孫たち。世代の持つ肉体に刻んだ記憶を言葉にして、次世代、次々世代へと伝える意味。人は“記憶の器”です。窓を開くように記憶を開いて、青い空の向こうにある別の世界を見せる作者の姿が、この詩のタイトルを象徴していますね。
 「だって 私はママだから」。育てた娘も、やがて母となる。作者と同様の体験を持つ読者はこの詩に、思わずほほ笑むことでしょう。繰り返され、手渡されていく「愛」というもの。その尊さを、小さくつぶやくように静かに詩った美しい一作です。
 「お手てつないで」。作者の、育児人生にずっと残り続けている一つの風景と、子どもの言葉があり、それは、こたつのぬくもりの余韻のように幾度も心を温めてきました。今は、もう遠くに住み、3人の子の父親になった息子、しょうじくんに、作者は、そっと心で話しかける思いを詩にまとめました。――私が昔、あなたからもらった言葉で心を温めてきたように、あなたも子どもたちから、その温かさを、しっかり受け止めてね――と。一つのエピソードを入り口に順送りの親の思いの普遍を、9行の言葉の連なりでつづってみせた手法の、さりげなさが光ります。
 「優しく素直な子に成長」。仕事を辞めた後の、心の空漠を埋めてくれた孫。腕の中に飛び込んできた辰ちゃんも、もう中学生に。背も作者を超えた彼は今、訪れると、黙ってそっと彼女をハグしてくれる少年に成長しました。語り始めと、終わりの世界が呼応している描写に、ほのぼのとした味わいが広がります。この年代の少年が、そうできるのも、祖母との思い出と心のつながりがあればこそ……。 

  
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