〈社説〉 2024・3・6 若い世代のがんを考える2024年3月6日

多様な悩みに寄り添う社会へ

 15歳~30代を「Adolescent and YoungAdult(思春期と若い成人)」の頭文字をとって「AYA世代」と呼び、がん医療において多く用いられる。国立がん研究センターによると、年間で約2万人が診断されている。

 AYA世代のがんは、病状の進行が早いケースが多い。年代的に進学や就職、結婚など人生の節目と重なる時期でもある。患者が誰にも相談できず、一人で孤独を抱えてしまうこともあり、周囲もまた、関わり方が分からず戸惑ってしまうなど課題もある。

 医療機関の役割について「AYA世代の患者を見逃さないこと」「患者のニーズを多職種で多角的に、そして継続的に評価すること」「個別のニーズに応じて必要な支援のリソースにつなぐこと」が大切とされている(『事例に学ぶ AYA世代のがん』診断と治療社)。医師や看護師だけでなく、身近な人の支援も力になる。AYA世代の現状を知ってもらおうと、支援団体が今月2日から10日を「AYA week」と定め、啓発活動を推進し、各種イベントを行う。こうした機会を通し、一層の理解を深めていきたい。

 東京都在住の池田華陽会メンバーは脳幹部グリオーマを発症。両親は絶望に直面するたび、決意を一つまた一つと深めていった。ようやく抗がん剤治療が功を奏し、腫瘍は縮小する。そんな彼女は、18歳の時に母から初めて病名を聞いた。「怖かったけど、みんなが、私のことをずっと祈ってくれていたから、私は今、生きているんだという喜びの方が大きかった。みんなへの“ありがとう”で胸がいっぱいだから、がんになんか負けないよ」とほほ笑む。闘いは続くが、友人が学会に入会し、今は一緒に信心を深めている。

 心が闇に覆われ、あらがうすべさえ見つからない時もある。それでも、がん患者が希望を信じられるのは、そばにいる人が“一緒に”と手を握ってくれるから。そのぬくもりが冷え切った心を温めてくれるから。

 池田先生は「どんなに幼い命でも、『生きよう。生きよう』と瞬時も休まず闘っている。それが生命の本然の力なのです」と。

 AYA世代の“生きたい!”と願う声なき声に耳を傾け、時に励まし、時に静かに見守りつつ、決して独りにはさせない。その輪を広げていきたい。