〈インタビュー〉 今を生きる子どもたちに「公平」な社会を2024年2月29日

  • 認定NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子さん

 学習支援の先駆けとして知られるキッズドアが、生活困窮家庭へのアンケート調査を行った。その結果から見えたものは――。(「第三文明」3月号から)
 
 

1964年、千葉県生まれ。千葉大学卒業後、大手百貨店や出版社勤務を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。配偶者の仕事の関係で1年間のイギリス滞在を経験し、社会全体で子育てを行う様子に感銘を受ける。帰国後の2007年にキッズドアを創立(09年にNPO法人化)。以来、子どもを対象とした無料学習会の開催やキャリア教育などの活動を一貫して続けている。こども家庭庁や厚生労働省の審議会部会委員ほか公職経験多数。著作に『子どもの貧困――未来へつなぐためにできること』(水曜社)などがある
 

1964年、千葉県生まれ。千葉大学卒業後、大手百貨店や出版社勤務を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。配偶者の仕事の関係で1年間のイギリス滞在を経験し、社会全体で子育てを行う様子に感銘を受ける。帰国後の2007年にキッズドアを創立(09年にNPO法人化)。以来、子どもを対象とした無料学習会の開催やキャリア教育などの活動を一貫して続けている。こども家庭庁や厚生労働省の審議会部会委員ほか公職経験多数。著作に『子どもの貧困――未来へつなぐためにできること』(水曜社)などがある  

コロナ禍より物価高がつらい

 私たちは現在、「キッズドアファミリーサポート」を展開しています。同事業では協賛企業・団体の協力を得て、各家庭の実情に即した支援を提供してきました。

 そうした中で昨年、同事業の登録世帯にアンケート調査を実施。経済状況やそれに伴う親子の心身の状態等の実態把握に努めました。特に、11月実施の調査(回答数1822件)では、もはや日々の子育てや暮らしが成り立たないほどの窮状が浮き彫りとなっています。

 まず回答者の基本属性でいうと90%が母子世帯です。また、回答者の半数が40代で、約8割が就労していますが、雇用形態は不安定でパート・アルバイトが43%。それに付随する形で、賃上げの政策効果も96%が「実感できていない」と答えています。
 貯蓄に関しても「ない」が40%で、10万円以下を含めると実に5割を超える状況です。加えて、公的なものや消費者金融も含めた借り入れがある家庭が43%に達しています。

 より切実なのは、昨年6月実施の調査(回答数1538件)で「物価高とコロナ禍の影響」を聞いたところ、6割が「物価高の方が深刻」と答えている点です。それというのも、コロナ禍は一過性のものと受け止められますが、現在の物価高は全くと言っていいほど先が見えないという現状があります。

 なかなか賃金が上がらない中で物価が高騰し、借り入れたお金も返済しなければならない。まさに生存の危機ともいえる状況です。実際、調査結果でも4割の家庭が1食110円以下で済ませており、「(子どもの栄養は)学校給食が頼り」と答えています。それこそ、卵1パック100円の値上げすら持ちこたえられない窮状なのです。
 

自力で脱却できない複合的な苦境

 とりわけ見過ごせないと感じるのが、親御さんが自力で脱却できない複合的な苦境に陥っているとともに、その負のスパイラルが子どもにまで連鎖している点です。

 それを象徴するのが不登校の問題です。11月の調査では、21%が「子どもが不登校・不登校気味」と答えています。そして膨大な自由記述を読み込んでいくと、不登校の背景に経済的要因があることがうかがえます。

 生活が苦しいので給食費が払えない。すると教員に呼び出され、子どもに支払用紙が渡される。それが何度か続くうちに登校するのがつらくなり、いつしか不登校になってしまう――という具合です。そうなると親御さんは、わが子を見守るためフルタイムで働けず収入が低下、一層の悪循環へと陥っていきます。

 さらに問題なのは、こうした子どもたちの居場所がない点です。調査でも不登校・不登校気味の子どもの半数以上が、経済的理由等でフリースクールや通信制学校などの「学び」にアクセスできず、何もしないで自宅で過ごしていることが分かりました。勉強や心身の健全な発達の遅れ、社会的孤立や疎外感、事件・事故に巻き込まれるなど無数のリスクが生じ、その悪影響は数十年に及びます。
 

平等と公平の違い

 かつてない少子化を背景に、昨年こども家庭庁が発足しました。子ども政策の司令塔が誕生したこと自体は、歓迎すべきです。しかし同庁発足を機に、一部からは「少子化対策と子どもの貧困対策を一緒にすれば効率的だ」との声が聞かれます。

 けれど少子化対策は、生まれてくる子どものための施策です。一方、子どもの貧困対策は、今を生きる子どもの幸せを目指すものです。現在と未来の子どもの施策は一緒くたにすべきものでなく、車の両輪のごとく、バランス良く回転させる必要があります。

 そして、子どもの貧困対策で最も重要だと感じるのが、格差是正による社会的「公平」の実現です。コロナ禍や物価高で多くの人が痛みを感じている今、ともすれば「平等」の重要性が強調されがちです。一見、似たような言葉に感じますが、両者には明確な違いがあります。

 それがよく分かる著名なイラストがあります。背の高い人、中くらいの人、低い人がいて、各自一つの木箱に乗って塀越しに野球を観戦する。ただし、背の低い人は塀で遮られて見ることができない――これが「平等」です。他方、「公平」は背の高い人が低い人に木箱を譲り、皆が野球観戦できるようになっています。
 

 私は、この「公平」の実現こそ、今を生きる子どもたちに不可欠のものであり、政治にはその実現に取り組んでほしいと願っています。この点、公明党は少子化対策とともに、「今そこにある」子どもの貧困にも全力で取り組んでこられました。さらなる尽力を期待しつつ、調査を踏まえていくつかの施策を要望します。

 一つ目は、児童扶養手当の増額・支給期間延長・所得制限の引き上げです。児童扶養手当自体も重要ですが、同時にこの手当が医療・教育等の公的支援にひもづいているため、所得制限を引き上げ、当事者が制度からこぼれ落ちないようにすべきです。

 二つ目は、経済的自立につながる就労支援やリスキリング(職業能力の再開発)支援です。中でもリスキリングは、受講料免除の他、働きながら学べるように土日・祝日の開講やオンライン講座など多様な学びを確保してほしいと思います。また、じっくりスキルを獲得できるよう、受講中の生活費給付も重要です。

 三つ目は、不登校対策です。予防策としては給食費無償化や就学援助の推進で、これ以上不登校リスクを高めないこと。その上で不登校児に対しては、無料学習会の拡大やフリースクール・塾代の支援も講じてほしいと思います。
 

 こうした政策提言を見て、「こんなにも支援が必要なのか」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現実に「普通に食べることができない、成長することができない」子どもたちが社会に存在するのです。しかも、親御さんが精いっぱい働いているにもかかわらずです。

 一方で、こうした家庭に暮らす子どもたちは他者の善意や人情にも敏感で、「いつか恩返しをしたい」との思いを抱いています。実際、キッズドアの支援を受けて進学・就職し、やがてボランティアで手伝いに来てくれる若者も多数出てきています。

 社会の皆さまには、こうした「善意の循環」の社会的意義に思いを寄せ、温かな理解の輪を広げていただけたらと願っています。