〈健康PLUS〉 尿トラブルの予防と改善 医学博士 髙橋悟さん2024年2月27日

 トイレが近い、尿漏れをしてしまうといった“尿トラブル”は、誰にでも起こり得ます。ただ、デリケートなことなので、人に相談しにくいものです。今回は、尿トラブルの基礎知識と予防・改善のポイント、尿を見て分かる体調の変化について、医学博士の髙橋悟さんに聞きました。

 ① 1日8回以上で「頻尿」
 ② 酒、コーヒー、塩分に注意
 ③ 色、泡立ち、臭いをチェック

40代でも起こる

図:PIXTA

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 “尿トラブル”と聞くと、高齢になってからの頻尿や尿漏れをイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、尿トラブルは高齢者に限りません。40代でも抱えている人は少なくありません。
 尿は作られ排せつされるまで、腎臓から尿管までの「上部尿路」、膀胱(ぼうこう)から尿道の「下部尿路」を通っていきます(図参照)。一般的な尿トラブルの多くは、下部尿路の症状で、大きく三つに分けられます。
 一つ目は、蓄尿症状。ぼうこうに尿をうまくためられず、頻尿になったり、意図せず漏れてしまったりすることを指します。せき、くしゃみで出る腹圧性尿失禁も蓄尿症状の一つ。腹圧性尿失禁が女性に多いのは、男性に比べ、尿道が短いことも原因だと考えられます。
 二つ目は、排尿症状。これは排尿時の症状で、主に尿の出の悪さを指します。尿線が細い「尿線細小化」や、尿が途切れる「尿線途絶」、力まないと出ない「腹圧排尿」などがあります。
 三つ目の排尿後症状は、文字通り、排尿後の症状。例えば、残尿感や、男性に多い“ちょい漏れ”(排尿後尿滴下)です。

不便な蓄尿症状

 特に生活に影響するのが、蓄尿症状です。排せつの間隔が短くなったり、間に合わずに漏れてしまったりすると、外出への不安を抱えるなど、不便さを感じるシーンが多くなるからです。
 「頻尿」の定義は、1日に8回以上排尿があることを指します。また、睡眠中に1回でも、排せつのために起きてしまうことを「夜間頻尿」といいます。何度もトイレに起きてしまえば、良質な睡眠は確保しづらく、生活の質は落ちてしまうでしょう。
 頻尿は、自身が気にならなければ、問題視する必要は、ほとんどありません。悩んだ時は、泌尿器科で相談してください。生活習慣の見直しや骨盤底筋トレーニング(別掲)で改善も期待できるので、まずはそこから始めてみましょう。

生活を見直す

 生活習慣を見直すことで、尿トラブルが改善することもあります。例えば、せきやくしゃみによって、尿漏れをしてしまう「腹圧性尿失禁」は、体重を減らすことで改善する場合があります。補正下着や締め付ける服装は、腹圧がかかって尿漏れしやすくなるので避けるようにしましょう。
 水分の取り過ぎも、当然、トイレに行く回数を増やす原因になります。特に、酒やコーヒー、紅茶、緑茶などは、飲む量とタイミングに気を付けましょう。アルコールやカフェインには利尿作用があります。夕食の時刻にアルコールなどを取ったら、飲み終えてから2~3時間は起きて、まとまった尿を出してから就寝するようにしましょう。
 寝酒と称して、寝る前にお酒を飲む人がいますが、アルコールは、かえって睡眠の質を下げることが分かっています。良質な睡眠を求めるのであれば、お酒は控えるのが無難です。
 また、塩分摂取量を減らすことで、夜間頻尿の回数が減ることも分かっています。日頃から塩分を控えめにすることで、尿トラブルや高血圧の改善といった健康効果があるので、ぜひ意識してみてください。

骨盤底筋トレーニング

尿漏れ、頻尿の改善・予防に効果あり

①背もたれのあるいすに、深く腰掛ける
②足を肩幅に開いて、リラックス
③肛門と尿道付近の筋肉を意識して引き締め、10秒キープ
④10秒、力を抜いてリラックス

 ※③~④を、1日に60回を目安にやってください。何回かに分けて行ってもOKです。毎日行えば、2~3週間で効果が感じられるでしょう。

〈実践のヒント〉

・力を入れる時は、排尿を途中で止めるイメージ
・肛門は、おならを我慢するように締める
・腹筋には力を入れない。おなかを触って確認する

豆知識 なぜトイレに行きたくなるの?

 Q.バスや電車などで、“今は、トイレに行けない”と考えれば考えるほど、トイレに行きたくなります。これって、気のせいでしょうか。

 A.トイレをイメージすることで、排せつが我慢できなくなるのは、蓄尿症状の一つ、「過活動ぼうこう」の典型です。トイレのマークを見ただけで催したり、家に帰ってきて、“もうトイレに行ける”と安心した瞬間に漏れてしまったりすることもあります。また、寒さを感じたり、水の音を聞いたりするだけでも、尿意を感じてしまいます。意識をトイレ以外に向けることが大切です。不便を感じているようでしたら、ぜひ一度、受診してみてください。

健康状態のバロメーター

 尿は、自身の健康状態を知ることができるバロメーターです。色、泡立ち、臭いをチェックしてみましょう。

 尿の色は通常、淡い黄色(麦わら色)です。水分を取り過ぎると、無色に近づいていきます。逆に、脱水状態になると、濃い黄色、茶色になります。ただ、水分を補給しても変わらないようなら肝臓や胆のうに問題がある可能性もあります。
 ピンクや赤の場合は、尿中に血液が混じる血尿です。がんなどで起こる症状なので原因を確認するようにしましょう。
 尿が濁っていて痛みがあると、尿路感染やぼうこう炎、または尿路結石の疑いがあります。

泡立ち

 尿の勢いで最初泡立つのは、問題ありません。ただし、少し時間がたっても泡が消えないなら、病気が潜んでいるかもしれません。腎臓の病気や糖尿病になると、尿の中にタンパク質が含まれ、尿が泡立ちやすくなるからです。

臭い

 尿の臭いは、食事の影響を受けることがあります。コーヒーやビタミンB2を含む栄養ドリンクやサプリメントは尿の臭いを濃くします。果物のような甘い臭いがする場合は、糖尿病のサインかもしれません。

 たかはし・さとる 医学博士。1985年、群馬大学医学部卒業。東京大学在職中に米・メイヨークリニックに留学。2005年から日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。21年4月、同大学医学部付属板橋病院の病院長に就任。日本排尿機能学会(理事長)、日本泌尿器科学会(代議員)など所属学会多数。排尿障害・尿失禁の薬物療法と手術が専門。

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