名字の言 未来を育んだマエストロ2024年2月26日

 指揮者・小澤征爾氏の表情は気迫に満ちていた。1999年、米ボストン交響楽団の来日公演に向けた会議でのこと。音楽監督を務める氏はツアー初日を「5月5日」にしたいと訴え、「こどもの日・スペシャルコンサート」を開くことになった▼音楽の喜びを全ての子どもたちに――氏の願いが凝縮された演奏会には、高校生ブラスバンドや子どもコーラスが出演。“年を取ったら若い人に教えることが使命”と、次世代の育成に尽くした世界的指揮者は今月、88歳で生涯の幕を閉じた▼氏が師事したレナード・バーンスタイン氏も、音楽教育に情熱を注いだ。アメリカの多くの学校で音楽の授業が満足に行われていなかった時代に、テレビで子ども向けの音楽教養番組を企画。未来の演奏家が誕生する、一つのきっかけをつくった▼バーンスタイン氏は語った。「教えるということは、教わることでもある」(山田治生著『音楽の旅人』アルファベータ)。学んでいたのは子どもたちだけではない。未来を育む聖業こそが、マエストロとして、さらなる高みを目指す原動力となったのだろう▼人間は人間の中で磨かれ鍛えられる。わが使命のステージで、良き友と学び高め合い、向上の人生をうたい上げよう。(当)