核兵器問題を考える2024年2月26日

  • 被爆の実相を世界へ 次代へ

 恒久平和の実現こそ、仏法者の社会的使命である。なかんずく、全人類の生存を脅かす核兵器の廃絶は、創価の師から弟子へ脈々と受け継がれてきた“誓願”にほかならない。
 
 創価学会は、第2代会長・戸田城聖先生の「原水爆禁止宣言」を原点とし、池田大作先生のリーダーシップのもと、核兵器のない世界を目指す平和運動を長年にわたり展開してきた。
 
 今回は、創価の青年も参加する東京・国立競技場での「未来アクションフェス」(本年3月24日に開催)の中心テーマの一つ「核兵器廃絶」について現状と課題を整理し、学会・SGI(創価学会インタナショナル)の核廃絶運動の歩みを振り返る。
 

◀◀現状と課題▶▶

 「私たちは、偶発的にしろ、意図的にしろ、この数十年で最も高い核戦争の危機に直面しています」――昨年2月、グテーレス国連事務総長はこのように警鐘を鳴らした。
 
 長崎大学核兵器廃絶研究センターによれば、昨年6月時点での世界の核弾頭数は1万2520発。冷戦期のピーク時に約7万発も存在した核弾頭は、米ロの2国間条約などによって総数としては減少してきた。
 
 しかし近年、退役・解体待ちを除く「現役核弾頭」の数は、増加傾向にあると指摘されている。つまり、配備されていつでも使える核弾頭と、配備に備えて貯蔵されている核弾頭の数は増えているというのだ。
 
 2022年2月から続くウクライナ危機では、核兵器使用の威嚇が繰り返されている。その中で核軍拡競争が再燃し、核保有国は核戦力の近代化や増強を加速させているのが現状だ。
 
 どの国も核戦争を望んでいないとしても、情報の誤認や偶発的な事故、サイバー攻撃による混乱などが引き金となり、“意図せざる核使用”を招く恐れは大きい。それは、地球上の誰もが被爆者になりうるということにほかならない。
 

ヒバクシャの苦しみ

 核兵器の恐ろしさは、多くの命を一瞬で奪う“破壊力”とともに、“その後”にもある。
 
 爆発の際に放出される大量の放射性物質が、白血病やがんなど、時を経てからでもさまざまな健康被害を及ぼす。それは、被爆した当事者だけでなく、世代を超えて人々の暮らしを毒し、人生を狂わせてしまうのだ。
 
 そのことを誰よりも痛感しているのが、戦争で原爆が投下された広島、長崎の被爆者たち。そして、核実験やウラン採掘などで被害を受けてきた世界各地の「グローバル・ヒバクシャ」たちである。
 
 史上初めて核兵器の開発、保有、使用等を全面的に禁止した「核兵器禁止条約」(21年に発効)の前文には、核兵器の使用による被害者(被爆者)と、核実験の影響を受けた人の「容認し難い苦しみ」に留意することが明記されている。
 
 そして第6条では、「被害者に対する援助」と、核兵器の影響で汚染された地域の「環境の修復」、また第7条では、そのための「国際協力・援助」の義務が定められている。
 
 同条約の第1回、第2回の締約国会議でも、それらをどう進めるかが重要なテーマとして議論された。
 
 この問題に深く関わる国の一つが、中央アジアのカザフスタン共和国である。第6条、第7条に関する作業部会の共同議長を務め、25年開催の第3回締約国会議では議長国を担う。
 
 同国はかつて、ソ連の一構成国であり、核開発の最重要拠点の一つだった。中でも、旧セミパラチンスク(現セメイ市ほか)は最大の核実験場。1949年から89年までの40年間に合計450回を超える核実験が繰り返された(91年8月29日に閉鎖)。
 
 放射性物質による被ばくで、周辺住民にがんや白血病、新生児の障がいなどが多発し、150万人以上が健康被害を受けたとされている。放射能による被害の苦しみは、実験場閉鎖から30年以上がたった今も消えていない。
 
 また、アメリカの大学の研究グループは、限定的な地域での核戦争であっても、核爆発によって大気中に飛び散る煤煙や塵埃が太陽光線を吸収し、地球全体が寒冷化する「核の冬」をもたらすと指摘。その影響で食糧生産が壊滅的な打撃を受け、「核の飢饉」によって何十億という人々が死に至る可能性があるという。
 
 核兵器の廃絶は、気候変動をはじめ、人権、ジェンダー、SDGsの達成などにも関わる、最も緊急性の高い問題なのである。

カザフスタン共和国・旧セミパラチンスクの核実験場跡地

カザフスタン共和国・旧セミパラチンスクの核実験場跡地

 
核抑止からの脱却を

 核兵器を巡る課題は山積みだ。現在、核兵器禁止条約への署名国は93カ国、批准国は70カ国。その中に核保有国や、日本などの「核の傘」に依存する国は、一つも参加していない。
 
 核保有国をはじめ191カ国が批准している「核兵器不拡散条約(NPT)」については、2015年と22年の再検討会議で、その成果となるべき最終文書が採択されずに決裂。核軍縮交渉が義務づけられているNPT体制への信頼が大きく揺らいでいる。
 
 核保有国は、国家の安全保障上、核兵器が必要だとする「核抑止」(相手に核兵器による脅しをかけて攻撃を思いとどまらせようとする考え)の立場を取り、核兵器の禁止は現実的ではないと主張する。
 
 今後、国際的・地域的な安全保障環境を改善し、核抑止からの脱却を図り、安全保障における核兵器の役割を低減していくことが必要だ。同時に、核兵器の使用は非人道的な結末をもたらすことを踏まえ、日本や世界のヒバクシャの声と被爆の実相を伝え広めながら、核兵器は廃絶されるべきだとの規範を一層強化していくことである。
 
 17年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO「ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)」のメリッサ・パーク事務局長が、本年1月に創価学会本部を訪問した際、次のような期待の言葉を寄せた。“青年の皆さんには、「頭脳」を使って核抑止論を論破する論理的な発信をしながら、一方で、人々が被爆者の声に耳を傾けるよう、一人一人の「心」に訴えかける方法を考えていただきたい”
 
 「頭脳」と「心」を使ったクリエーティブな取り組みの推進――だからこそ、世代や団体を超えた市民社会の連帯と知恵が、ますます求められていく。
 

◀◀学会の取り組み▶▶

 戸田先生の「原水爆禁止宣言」の思想を継承し、核兵器を「絶対悪」と訴え、恒久平和への行動を貫いてきたのが池田先生である。
 
 1968年の本部総会で先生は、核保有国による核廃絶に向けた会議の開催を提唱。また、米ソや中ソの対立が激しさを増していた70年代には、それらの国々を相次いで訪れ、各国首脳らとの対談を通して核戦争回避、そして平和のための民間外交を繰り広げた。
 
 さらには、第1回国連軍縮特別総会(78年)、第2回同総会(82年)、第3回同総会(88年)へ「軍縮提言」を発表。
 
 その後の提言でも、「真に対決し克服すべきは、自己の欲望のためには相手の殲滅も辞さないという『核兵器を容認する思想』」であると強調し、その解決への方途や国際的な取り組みなどについて具体的な提案をし続けてきた。
 
 近年のウクライナ危機を巡っては、2022年7月、23年1月、同年4月に相次いで緊急提言を発表。核廃絶を実現する道を開くため、目下の打開策の一つとして、「核兵器の先制不使用」の誓約等を訴えた。
 

三代に続く平和闘争

 三代会長の平和闘争を継ぐ学会・SGIは、市民社会に足場を置き、国内外でシンポジウムの開催や署名活動、被爆証言集の発刊、被爆・戦争体験継承運動等、平和・軍縮のための教育を推進してきた。
 
 学会の反核展示のスタートは1982年。国連広報局等と協力し、「核兵器――現代世界の脅威」展を国連本部で開催した(88年まで)。さらに96年からは、冷戦後の時代状況に即して内容を一新し、「核兵器――人類への脅威」展として再開。合わせて世界24カ国39都市を巡回し、約170万人が観賞した。
 
 また「原水爆禁止宣言」発表から50周年となった2007年からは、池田先生の提言をもとに「核兵器廃絶への民衆行動の10年」のキャンペーンをスタート。「核兵器廃絶への挑戦」展をはじめ、被爆証言の映像制作等、草の根の意識啓発に尽力してきた。
 
 さらに、同年に発足したICANと協力し、12年に「核兵器なき世界への連帯」展を制作。これまで21カ国90都市以上で開催し、核廃絶を求める市民社会の連帯を後押ししている。

メキシコで開催された「核兵器なき世界への連帯」展(昨年2月、ラピエダ市で)

メキシコで開催された「核兵器なき世界への連帯」展(昨年2月、ラピエダ市で)

 
生存の権利守るため

 学会・SGIは市民社会の一員として、核軍縮・廃絶に関するさまざまな国際会議に出席。核兵器禁止条約の成立過程においても、生命に対する権利や軍縮教育の重要性を訴えるなど、活発に議論に貢献してきた。
 
 また、被爆者団体、国際機関、各国の関連団体等とも緊密に連携を取り、核兵器の脅威や非人道的被害の実相を明らかにしながら、積極的に議論形成に努めている。
 
 昨年8月には、26年のNPT再検討会議に向けた第1回準備委員会で、カザフスタン共和国政府代表部等と共に関連行事を開催。そこでは、SGIが同国NGOの国際安全保障政策センターと制作した、カザフスタンの核実験被害者の証言をまとめたドキュメンタリー映画の予告編が上映された。
 
 旧セミパラチンスク出身の核実験被害者の第3世代の男性は、遺伝性疾患の鎖骨頭蓋異形成症を患っている。鎖骨がほとんどなく、頭蓋骨の発達にも異常がある。また、3歳でがんを発症し、5年間、化学療法を受けて早世した女の子、放射能による健康被害で中学生の息子を自殺で失った父親……。
 
 3世代にわたり核実験による被ばくを経験し、今なお苦しめられている人々の証言映像は、昨年11月に開かれた核禁条約の第2回締約国会議の関連行事で完成版が初上映され、核実験がもたらす壊滅的被害を人々に鮮明に意識させるものとなった。
 
 さらに、学会・SGIは数多くのFBO(信仰を基盤とする団体)等と協力し、核兵器を憂慮する宗教間の共同声明を発表するなど、人類の生存の権利を守る人道的観点から核兵器廃絶運動を推進している。

核兵器禁止条約の第2回締約国会議。SGIの代表も登壇し、議論に貢献した(昨年11月、米ニューヨークの国連本部で)

核兵器禁止条約の第2回締約国会議。SGIの代表も登壇し、議論に貢献した(昨年11月、米ニューヨークの国連本部で)

 
◀◀今すぐ私にできること▶▶

①家族や友人に「核兵器禁止条約」を知っているか聞く
 
②核兵器のイメージを家族や友人と語り合う
 
③なぜ核兵器がいらないのか、自分の言葉で伝える
 
 ※創価学会公式サイト内の「『核兵器禁止条約』とは?」のページはこちら