〈TOHOKUユース・ミーティング――私たちがつくる明日〉 センダイガールズプロレスリング代表 里村明衣子さん2024年2月17日

  • 人間の力強さを伝え続けたい

 各界で活躍する東北ゆかりの著名人と東北青年部が、希望の明日を開くために必要な「東北のチカラ」について語り合う企画「TOHOKUユース・ミーティング――私たちがつくる明日」。今回は、「センダイガールズプロレスリング(仙女)」の代表で、世界最大のプロレス団体である米WWEと日本人初となる選手兼コーチ契約を結んでいる、女子プロレスラーの里村明衣子さんとの語らいを掲載する。

被災地に希望を

鷲足総宮城少女部長

鷲足総宮城少女部長

 〈鷲足総宮城少女部長〉 元日に能登半島地震が発生し、被災地の方々は、いまだ先の見えない不安を抱えています。胸が締め付けられる思いで一日も早い復興を祈らずにはいられません。
  
 〈里村さん〉 本当に心配ですね。私は元日、実家の新潟にいましたが、新潟も大きな揺れで、電気・ガス・水道も止まってしまいました。私は東日本大震災が起きてすぐに仙女の代表を継いだのですが、その時のことを思い出さずにはいられませんでした。

渡部総宮城男子部長

渡部総宮城男子部長

 〈渡部総宮城男子部長 当時、仙女の事務所も被災し、里村さんの身の振り方次第で、継続か、廃業かが決まるほどの状況だったそうですね。どうしてプロレスを続けようと思ったのですか。
  
 〈里村〉 当時は皆、“食べるものをどうするか”という状況で、プロレスどころではありませんでした。多くの選手が辞め、残ったのは私を含めて4人だけ。スタッフもいなくなり、リングを運ぶためのトラックの運転免許を取るところからの出発でした。
 そうした中で続ける決心がついたのは、被災した多くの方々が、住む場所や仕事を奪われた苦境の中、支え合って懸命に生きようとする姿に触れたからです。その時、“まだまだ私は頑張れる”と思いました。
 そして、被災した方々に生きる勇気と希望を送りたい一心で、被災地の広場などでチャリティー試合を始めました。それは私自身がプロレスに生きる勇気をもらい、プロレスによって人生が変わった一人だからです。
  
 〈渡部〉 “女子プロレス界の横綱”とも呼ばれる里村さんが、自らの人生をプロレスにささげたいとの夢を持ったのは、中学生の時に新日本プロレスの試合を見たからだそうですね。
  
 〈里村〉 姉が専門誌を熟読するほどのプロレスファンで、観戦に誘われたんです。行くまで全く興味はありませんでしたが、2000人の観客が歓声を注ぐ試合を見て、ここに私の生きる道があると感じました。
 私は小さい頃から、かっこいい女性に憧れ、テレビに映る仕事がしたいと思っていましたが、派手な衣装を身にまとい、華々しい舞台で戦う姿に“私が求めるものが全てここにある”と直感したんです。それで中学校を卒業し、すぐにプロレスの道場に入門しました。

観客の熱い歓声が注がれるリングで戦う里村さん㊨(2019年3月、仙台市内で=時事)

観客の熱い歓声が注がれるリングで戦う里村さん㊨(2019年3月、仙台市内で=時事)

共に生かし合う

 〈鷲足〉 私はテレビでしかプロレスを見たことがありませんが、鍛え抜かれた体が激しくぶつかり合う迫力に圧倒されます。試合に向けては、どのような鍛錬を心がけ、試合中はどのようなことを大切にしているのでしょうか。
  
 〈里村〉 どこまでいっても“人間対人間”なので、白熱した試合にするためにも、それぞれが体を鍛えることはもちろん、技の精度や衣装に工夫を凝らすなど、互いの個性を磨きながら、選手全員が高め合っていくことを大切にしています。
 その上で、私たちプロの仕事は、試合を通してお客さまにどれだけ元気や勇気といった心を伝えていけるかが重要です。ただ相手を倒し、自分だけが目立っても、お客さまを満足させることはできません。そこで大切にしているのは“つぶし合い”より“生かし合い”ということです。どれだけ、対戦相手の魅力をリングで引き出せるかに勝負をかけています。
  
 〈渡部〉 相手の魅力を引き出すためには、例えば、相手の技を真正面から受け切ることなどが必要だと思いますが、それは自分自身が強くないとできないことですよね。里村さんは、そうした強さを身に付けるために、どのようなことが不可欠だと感じていますか。また、今もなお、リングに立ち続ける里村さんが抱く“本当の強さ”とは、どのようなものでしょうか。
  
 〈里村〉 欠かせないのは、人の痛みを知ることです。痛みは、さまざまな経験を通して、自らが傷つかなければ知ることはできません。
 本当に強い人というのは、自分が痛みの苦しさを味わっている分、人をむやみに傷つけない優しさを兼ね備えています。
 またご指摘の通り、強い人は、対戦相手の魅力を引き出すために、相手が繰り出す攻撃を逃げずに受け止めます。
 私は戦う中で、そうした攻撃を受け入れられるのは、腕力などではなく、その人自身に“相手と向き合い、相手を受け入れる器の大きさ”があるからだと感じています。その器の大きさの中で、相手さえも強くしてしまうのが、本当の強さなのだと思います。

里村さん㊥が、渡部総宮城男子部長㊨、鷲足同少女部長㊧と、仙台市内のセンダイガールズプロレスリングの道場で

里村さん㊥が、渡部総宮城男子部長㊨、鷲足同少女部長㊧と、仙台市内のセンダイガールズプロレスリングの道場で

志願して里村さん㊨にプロレス技をかけてもらう渡部総宮城男子部長㊥

志願して里村さん㊨にプロレス技をかけてもらう渡部総宮城男子部長㊥

仙台で戦う誇り

 〈鷲足〉 同じようなことを、私も創価学会の活動の中で感じます。これまで学会の先輩は、私の悩みに“わがこと”のように耳を傾け、励ましを送ってくれました。そうした先輩方の大きな心に触れる中で、“私もこんな人になりたい”と思ったことが、今の私につながっていると思います。
  
 〈里村〉 強さとは、むしろリングを離れた時にこそ現れるものだと思います。そのことを教えてくれたのは、長与千種さんや北斗晶さんといった先輩でした。
 かつては、怒りや嫉妬、孤独感といった感情が、強さの原動力になると信じた時もありましたが、先輩たちが、日々の生活の中で、真正面から私たち後輩の気持ちと向き合い、人への接し方や礼儀なども含めて教えてくれたことを通し、こうした広い心を持つ人が、本当に強い人なのだと学びました。
  
 〈鷲足〉 素晴らしい先輩方の振る舞いですね。
  
 〈里村〉 私たちの成長を温かく見守ってくださった先輩には、感謝してもし尽くせません。加えて、私は東北の方々にも育てていただきました。
 石巻市の倉庫を借りて復興支援大会を行った時のこと。被災した方々から「ずっと待っていたよ」「来てくれてありがとう」と言っていただいたことは、今、思い出しても込み上げるものがあります。
 私は、そうした触れ合いや支え合いの中で、自分自身を強くしていただいたと信じています。
 今では仙女の選手も9人となり、仙台の地でプロレスをできることが、何よりの誇りです。
  
 〈渡部〉 東北に根ざし、東北の方々に勇気を送ろうとする里村さんの姿は、復興の希望になると思います。今後、復興への歩みをさらに進めていく上で、里村さんはどのような「東北のチカラ」に期待しますか。
  
 〈里村〉 震災を経験した東北は、数えきれない多くの人が傷つき、嫌というほど痛みを味わってきた場所です。同時に、そうした人たちが復興のために支え合ってきた場所でもあります。東北には、悲しんでいる人、困っている人に寄り添う“本当の強さ”が備わっていると思います。
 その強さこそ東北のチカラであり、その強さを一人一人が発揮していくことが、さらなる復興につながると信じます。
 私自身、これからもプロレスを通して、“人間というのはこんなにも強いんだ”ということを伝え続けていきたいと決意しています。

 さとむら・めいこ 新潟県生まれ。2005年に「センダイガールズプロレスリング(仙女)」の立ち上げに参加。11年から仙女の代表を務め、21年に米WWEと選手兼コーチ契約を結ぶ。これまで「女子プロレス大賞」などを受賞。得意技はスコーピオ・ライジング。
  
  

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