〈「民音の日」特集〉 インタビュー ジリアン・ハウエル博士2024年2月9日

  • オーストラリア・メルボルン大学 シニア・リサーチ・フェロー

 ――これまで音楽が平和に果たす役割を研究してこられました。代表的な事例を教えてください。
 
 オーストラリアの文化的発展を推進する団体「Tura New Music」と行ったプロジェクトを紹介します。
 
 かつて先住民アボリジニは移住を余儀なくされ、伝統が失われました。それらを現代に取り戻すために、北西部のキンバリー地域で、子どもたちを集めて、アボリジニの言葉を使った歌の制作に取り組んでもらったのです。
 
 制作や歌唱を通して、子どもたち自身が自然に対するアボリジニ固有の考えに積極的に触れることができ、その楽曲を歌うことで先住民の文化を地域に根差していくことができました。この研究を通し、2020年には、「Art Music Awards」で地域部門の優秀賞に輝きました。
 
 また、中東の紛争地域で、極度のストレスに加え、性別、年齢などの影響で、言葉を発しなくなった子どもたちに、音楽の制作を通して発話を促すプロジェクトを推進。コソボでは、対立する民族が一緒になってロックバンドとして活動する中で差異を超え、一人の人間として接する様子を考察してきました。
 
 こうした事例を通して、平和構築には、政府などの高レベルからだけでなく、音楽という身近なものを通しても携わることができると確信しています。

研究所がつないだ人々と共に
平和の団結生む音楽の活用を

 ――民音研究所が主催する月例のオンライン会議に参加されています。研究所の活動をどう評価しますか。
 
 会議では、欧米などで平和構築の音楽について研究する学者が集い、最新の研究や課題を話し合います。新たなアイデアが湧く素晴らしい場所です。
 
 昨年、運用がスタートした「MOMRI HUB」は、音楽と平和構築への関心が高まる中で、興味を持つ人々が情報を得るための信頼できるデータベースとなるでしょう。オンライン上で共通の分野を研究する人たちとつながりをつくり、アイデアを共有することもできます。私も研究の上で幾度も活用しています。
 
 「MOMRI HUB」によって、「音楽が平和構築という世界的な課題に貢献できる」ことが一層、証明されていくに違いありません。
 
  
 
 ――音楽の未来について、どのように考えていますか。
 
 音楽は人々を集め、団結させ、行動を促します。コミュニティーや他人と自身の関係性を改めて考える契機を与えます。音楽は変化をもたらす力となるのです。
 
 もちろん団結が必ずしも平和の方向にではなく、分断に向かわせる可能性もありますから、音楽の使われ方を注視しなければなりません。
 
 大事なのは、音楽プロジェクトを継続していくことだと思います。音楽制作によって異なる他者を理解できるようになったことを例にとっても、ある段階が終われば、それが必要なくなるわけではありません。
 
 研究を通して、持続的なプロジェクトの必要性を訴えられるよう、民音研究所と共に、力を尽くしていきたいと思います。

【プロフィル】

 オーストラリアのグリフィス大学で博士号を取得。対話における音楽の役割や音楽制作が育む平和の力を中心に、20年以上にわたり研究を続けてきた。これまでボスニア・ヘルツェゴビナ、スリランカ、東ティモール、コソボ、北マケドニアなどで調査を行うほか、世界各地で講演している。