〈ターニングポイント 信仰体験〉 児童心理士として歩む使命の道2024年2月7日

  • 自分の弱さに負けない勇気
  • 感謝するのは僕の方

 「おはよう!」。まだ眠そうに目をこする子どもたちに声をかけながら、千田真一は施設の中を忙しそうに動き回る。

 着替えの手伝い、朝食の配膳など、子どもたちを学校に送り出すまでは、息つく暇もない。

 真一がいるのは「福祉型障害児入所施設」。知的な障がいのある子どもの生活や社会自立のための支援を行う。

 大半が小中学生。虐待や育児放棄によって保護者と生活することが難しくなり、入所したケースが多い。真一はここで児童指導員、心理士として働く。

 子どもたちを学校へ送り出した後は、おのおのの挑戦課題をふまえて、今後の関わり方を検討していく。

 入所間もない子どもたちと接していると、大人への不信感や恐怖心、寂しさや不安が伝わってくる。暴れたり泣いたり、過剰に甘えたり。表現方法は違っても、子どもたちの心の叫びが、痛いほど胸を締め付ける。

 そんな姿を目の当たりにする時、どうしようもない無力感に襲われることがある。せめて児童心理士として、自分のできる精いっぱいを模索し、日々、真剣勝負で子どもたちと向き合う。

 真一は一人一人の顔を思い浮かべ、自分の心に問いかける。“僕にできることは、何だろうか”と――。

 * 

 2016年(平成28年)、創価大学大学院を修了後、地元の山口県で心理職の公務員として働き始めた。

 しかし、どうにも仕事に身が入らない。充実感に乏しく、人間関係にも悩み、気付けばいつも心の中で悪態をついていた。このモヤモヤとした気持ち、実は以前にも経験があった。

「支え続けてくれた妻とかわいい子どもたちに感謝しています」と(右から長女・心陽ちゃん、千田さん、妻・悠希さんと長男・蒼李ちゃん)

「支え続けてくれた妻とかわいい子どもたちに感謝しています」と(右から長女・心陽ちゃん、千田さん、妻・悠希さんと長男・蒼李ちゃん)

 ――大学院で児童心理を学び始めて、少したった頃。進路に迷い、勉強が手につかなくなった。次第に部屋にこもるようになり、昼夜逆転の生活。大学にも行けなくなった。

 この時、そんな状況から救い出してくれたのは、大学の仲間たちの励ましと、ゼミの教授だった。

 心理士でもある教授は、真一の乱れた生活態度と精神状態を整えるために、一つ一つ手を打ってくれた。そして「私は教授という立場じゃなくて、一人の人間として、あなたと向き合っている」と。

 真剣さに心打たれた。“これが心理士なんだ”。目指すべき目標が見えた気がした。その後、懸命に勉強に励み無事修了。心理士としての第一歩を踏み出すのだった――。

 だが結局、社会人になっても何も変われてない自分に嫌気が差す。男子部の先輩から創価班大学校(当時)の話を聞いたのは、そんな時だった。“根本から自分を変えたい!”。真一は挑戦を決意した。

 ある冬の夜、先輩と一緒に創価班の任務に就いていた。会館から少し離れた駐車場。あまり利用者はなく、人けのない場所。その上、口数の少ない先輩との任務。漂う静けさが、寒さを更に厳しく感じさせた。

 “意味あるのかよ……”。徒労感が募ってくる。そんな真一の心を見透かしたように、先輩がボソッと言った。「人間革命するには、やり切ることだよ」

 胸が熱くなった。これまで、環境や誰かのせいにばかりしてきた。不満はあっても、行動はなかった。自分を変えるのは結局、自分自身だと気付かされた。

「家庭も仕事も全てを信心で開いていこうとの仲間たちの姿に、いつも励まされています」と千田さん㊥。男子部の同志と

「家庭も仕事も全てを信心で開いていこうとの仲間たちの姿に、いつも励まされています」と千田さん㊥。男子部の同志と

 真一は大学校1年間の目標を決めた。聖教新聞を毎日読み、池田先生の書籍を研さんする。そして弘教を実らせる。“これは、自分と池田先生との約束だ”

 何十人と対話する。しかし、弘教にはつながらなかった。大学校の卒業まで、あと数カ月。込み上げる焦りを抑えながら御本尊に向かい続けた。

 思い切って、学会の先輩に友人と会ってもらうことにした。すると友人は、打って変わって素直に首を縦に振った。

 初めての弘教。うれし涙と一緒に、感謝の気持ちがあふれた。“僕は、ずっと誰かに助けられていたんだ”

 それに気付ける自分になれた。“今度は僕の番だ!”

 * 

 妻・悠希さん(30)=女性部員=との結婚を機に、4年前に静岡県浜松市へ。3年間、児童相談所に勤務し、現在の施設に異動してきた。

 知的障がいや発達障がい、そして虐待などによる心理的ダメージ。普段はおとなしい子どもが突然、パニックに陥ることがある。

 この施設が安全な場所であること。真一たち職員が安心できる存在であること。それが子どもたちに伝わるよう全力を注ぐ。

 そのためには「僕自身が健康で、何より生命力にあふれていることが大切」。だから真一は、御本尊に向かい、学会活動に挑戦する。そして、池田先生の言葉を命に刻む。

 〈我らには勇気がある。勇気が慈悲に代わる。勇気がある限り智慧は滾々と湧き出ずる〉

 現実は厳しい。時間をかけて結んだ子どもとの信頼関係が、ふとしたきっかけで、一瞬で崩れ去ることもある。

 それでも、くじけず諦めず勇気を振り絞る。困難から逃げないため、自分の弱い命をたたき出すために。

 〈ちだせんせい。いつもありがとう〉。ある児童が手紙をくれた。

 「感謝するのは僕の方。自分の心は自分には分かる。全力で子どもに向き合っているのかって、いつも考えている。その思いが少しでも伝わっているのなら、僕は何度でも勇気を奮い起こせるんです」。児童心理士として使命の道を歩み続ける。

 ちだ・しんいち 1991年(平成3年)生まれ、翌年入会。静岡県浜松市在住。県内の「福祉型障害児入所施設」で児童指導員、心理士として働く。2児の父。男子部副本部長(部長兼任)、区少年部長。

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