〈インタビュー〉 ジェンダー×核兵器廃絶――人権の枠組みから考える2024年1月31日

  • GeNuine共同創設者 徳田悠希さん

 ジェンダー平等と核兵器廃絶は、どのような関係があるのか。(「第三文明」2月号から)
 

東京都生まれ。上智大学4年。中学・高校の修学旅行で訪れた広島で被爆者と出会い、核兵器問題に関心を持つ。大学進学後、「KNOW NUKES TOKYO」や「議員ウォッチ」で、核兵器廃絶への取り組みを開始。国際会議でのロビー活動や国会議員との面会、イベント開催などを行う。2023年4月に任意団体GeNuineを創設。全国で核兵器廃絶へのアドボカシー(政策提言)を行う一般社団法人かたわらの理事も務める
 

東京都生まれ。上智大学4年。中学・高校の修学旅行で訪れた広島で被爆者と出会い、核兵器問題に関心を持つ。大学進学後、「KNOW NUKES TOKYO」や「議員ウォッチ」で、核兵器廃絶への取り組みを開始。国際会議でのロビー活動や国会議員との面会、イベント開催などを行う。2023年4月に任意団体GeNuineを創設。全国で核兵器廃絶へのアドボカシー(政策提言)を行う一般社団法人かたわらの理事も務める  

根っこの部分に共通の課題が見えた

 ジェンダーの視点から核兵器廃絶を目指す任意団体「GeNuine」を立ち上げたのは2023年4月。大きなきっかけは、22年6月にオーストリア・ウィーンで開催された核兵器禁止条約の第1回締約国会議に参加したことでした。
 
 高校時代にジェンダーの問題に関心を持つようになり、大学に入ってから「KNOW NUKES TOKYO」などに参加して、核兵器の問題に取り組むようになりました。核問題に関心を持った当時から、デートDVなどのジェンダー問題と核の議論の構造が似ていると感じていました。実際に活動してみると、共通の課題が見えてきます。それは、意思決定の場にいる人たちの同質性や、そもそも意思決定の場における当事者の不在という課題です。ただし、当時は日本国内でそうした問題提起をしている同世代が見当たらず、自分の感覚が合っているのか自信が持てませんでした。
 
 そのようななか参加したのが、第1回締約国会議でした。驚いたのが、世界中から集まったユースの半数ほどがジェンダー問題に取り組む団体だったことです。さらに、とあるサイドイベントで聞いた「核兵器に関する言説がジェンダー化されている」という言葉が印象に残りました。
 

 例えば、広島と長崎に投下された原子爆弾には、それぞれ「リトルボーイ」と「ファットマン」という男性を表すコードネームが付いていました。あるいはインドが核実験を行った際、同国の高官は「核兵器を持つことで、去勢された男性ではないと証明する」と発言しました。
 
 また、核兵器に関する国際会議に参加する外交官を見ると、男女比で女性が3割を超えることはありません。単に外交官に女性の数が少ないというわけではないはずです。その証拠に、紛争後の平和構築について話し合う国連総会の第3委員会では、男女比が半々になることもあるのです。こうした背景には、安全保障は男性が、平和構築は女性が、それぞれ担うべきものという無意識のバイアス(偏見)があるのかもしれません。
 
 日本では、なかなかユース世代が核兵器の問題を自分事として考えられていない現状があります。各国のユースたちが認識しているように、ジェンダーと核兵器が地続きの問題であることを明示できれば、日本の若者たちにとっても核問題のフレーミング(切り取り方)が変わって、自分事として考えられるようになるかもしれない。そうした思いから「GeNuine」を立ち上げました。
 

締約国会議で見られた前進

 「Genuine(正真正銘)」という英単語には、「Gender(ジェンダー)」と「Nuclear weapon(核兵器)」の頭の文字が含まれています。取り組みとしては、国際会議への参画、ウェブサイトやSNSでの情報発信、イベントの運営、アニメーションの制作などを行っています。
 
 こうした活動は、同世代からは共感を得られやすい一方で、「ジェンダーの問題」=「女性の問題」と連想する世代から共感を得るのが難しいと感じる場面もあります。そうした時は、しっかりと対話で意見を伝えるようにしています。
 
 大事なのは、被爆者の方々の思いをきちんと継承していくこと。その上で、これまでエピソードベースで語られてきた被爆者の方々の体験に、ジェンダーなどの視点を新たに入れ、改めて総括していく作業も必要だと考えています。
 
 第2回締約国会議は、ウクライナ危機やガザ危機などの厳しい国際情勢のなかで、23年11月に開催されました。核抑止の論理に挑戦していくことが打ち出されたり、核被害者援助のための国際信託基金の創設が最終文書に盛り込まれたりと、前進が見られたのは喜ばしいことです。
 
 とりわけ「基金の創設」は、第1回の際に私も提言活動を行った経緯があったので、感慨深いものがあります。被害者援助に関する議論では、「女性の被害に目を向けること」から、「主体性のある多様な人々の意思決定のプロセスへの参画」という段階に進んだように受け止めています。核抑止の論理への挑戦として、いかにして核兵器に近い国々を巻き込んでいけるか、注視していきたいです。
 

諦めることなく自分事と捉える

 一方で、緊迫する世界情勢の影響もあって、オブザーバー参加した国々が、条約自体には参加しない意思を第1回のときよりも強固に表明。これは残念なことでした。

 また、今回も日本政府がオブザーバー参加しなかったことは、とても残念に思います。もし現時点で「核の傘」が必要だと考えているのであれば、オブザーバーになった上で、その意見を表明してもらいたかったです。
 
 日本には被害者援助に貢献ができる経験とノウハウがあり、世界に対して日本のプレゼンス(存在感)を示す機会があるともいえます。現在のように国際信託基金のルールメイキングに参加できていないのは、日本政府にとってデメリットではないでしょうか。
 
 25年3月に開催される第3回締約国会議こそ、日本政府にオブザーバー参加をしてもらいたいと思います。市民社会は、その土台づくりを進めていかなければなりません。
 

 24年3月24日には、核兵器廃絶と気候危機の解決など、地球規模の課題の克服に向けて若者の理解と行動を促進するイベント「未来アクションフェス」が国立競技場(東京都新宿区)で開催されます。私はこのイベントの実行委員を務めます。
 
 核問題を単に安全保障の課題と捉えて解決を諦めるのではなく、人権に関する課題と捉え直して自分事にしてもらう。個人的には、未来アクションフェスをそうしたフレーミングの転換のきっかけとしたいと思っています。
 
 若い世代の大半は、自分たちが声を上げたから社会が変化したという成功体験を持っていません。フェスに参加することで、「自分たちの声が届いた」「その声によって現状が変わった」と実感してもらいたい。そのために、24年9月に開催される国連の未来サミットや、25年3月の第3回締約国会議に向けてのタイムラインを明確にしていく必要があります。フェスに参加したことをきっかけに、自分なりの行動を始める。そんなイベントにしたいと思います。