〈健康PLUS〉 代謝は規則正しい生活から2024年1月30日

認定産業医 土田隆さん

 「代謝が良い」と、よく耳にすることはありますが、どのような状態のことを指すのでしょうか。よく汗をかくこと? 痩せやすいこと?――今回は、代謝の基礎知識や、バランスの良い代謝の保ち方、冬の代謝の特徴などについて、認定産業医の土田隆さんに聞きました。
 
 

〈ポイント〉

 ① 体温や疲労感が体からのサイン
 ② 塩分は減らし、筋肉は増やす
 ③ 冬こそ外気の中で体を動かす
 
 

体内で起こる化学反応!?

 代謝とは、食事や呼吸によって体内に取り込んだものを、変化させたり消費したりすること全般を指します。食べた物をエネルギーにして体を動かす、酸素を取り入れ二酸化炭素を吐き出すなど、私たちの生命活動の源であり、体内で起こる化学反応なのです。
 代謝について、二つの側面から考えてみましょう。一つは、「エネルギーの出入り」です。例えば、食べた物は体内でブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸などに分解されます。分解の過程で生まれたエネルギーを消費して、人間は活動しています。
 エネルギーの消費量は、大きく基礎代謝量、身体活動量、食事誘発性熱産生に分類されます。基礎代謝は、心臓の鼓動や呼吸など、生命を維持するのに必要最低限のエネルギーの消費。身体活動量は、生活や運動など自ら体を動かす活動で使われます。食事誘発性熱産生は、食べた物を消化・吸収するための内臓の活動で消費されるエネルギーです。
 もう一つの側面として、代謝における物質的な変化に注目してみましょう。体に取り入れられた水分や食べ物が分解され、尿や便、二酸化炭素として体の外に出ていく仕組みになっています。よく聞く「新陳代謝」も物質的な変化を指していると言えるでしょう。私たちの体は、けがの治癒や肌の生まれ変わり(ターンオーバー)のように、破壊と再生を繰り返し、状態を保っているのです。
 

高すぎ低すぎは良くない

 代謝は高い方がいい――こう考えられがちですが、実は違います。私たちの体は、ホメオスタシス(生体恒常性)といって、生理機能が一定に保たれるようになっています。血圧や血糖値と同様に、代謝も基準の範囲で収まるよう、体が調整しています。代謝は高すぎず、低すぎないバランスが大切なのです。
 目安となるのは、体温の変化です。比較的、低体温の人は代謝が低く、体温の高い人は代謝が高いと考えられます。体温が高くなると、血液の流れが良くなり、免疫機能を持った白血球が体中を巡ることで、免疫力や抵抗力も上がります。代謝が下がると、免疫力も下がってしまいます。
 一方で、代謝が過剰に活発になる「代謝性疾患」もあります。高血圧や糖尿病、脂質異常症などがその代表例です。
 疲労感から、体調の異変に気付くこともよくあります。大事なのは、“自分は元気だ”“疲れにくい状態だ”と、体力の充実を実感できていることです。そのような状態であれば、代謝が安定していると言えるでしょう。何かしら無理をして、一定の範囲から外れそうになると、疲労を感じさせ休むように教えてくれたり、違和感や不調として信号を送ってくれたりします。体はいつも、一番いい状態を保とうとしていることを理解しましょう。
 

食事と運動が特に大切

 代謝を安定させるには、規則正しい生活が不可欠。正しい食生活と運動習慣、良質な睡眠、ストレスの発散、適度な水分摂取を心がけることが大切です。代謝が乱れる原因になるのは、食事と運動です。毎日、食べ過ぎが続いたり、全く運動をしなかったりでは、代謝のバランスを保つことはできません。
 食事で特に気を付けたいのは、塩分の過剰摂取です。血中の塩分濃度が上がると、濃度を下げようとして、血液量が増え、高血圧になります。これも、代謝異常の一つ。健康を害する大きな要因となるので、日頃から塩味を薄くする習慣をつけておきましょう。
 高齢の方は、栄養を上手に摂取するのも大切なポイントです。消化力や吸収力は年を重ねると衰えるものです。栄養を吸収しやすいよう、食事を4~5回に小分けにする工夫もよいでしょう。
 下がった代謝を改善するためには、何よりも、体を動かすことです。筋肉を鍛えるのも良い習慣でしょう。日常生活での動きはもちろん、立ったり、座ったりしているだけでも筋肉は使われ、代謝が上がります。筋肉は存在するだけでエネルギーを使っているといっても過言ではありません。筋肉量を増やすことが、健康的に代謝を上げることに直結します。
 

まずは5分動いてみる

 “冬は代謝が下がる……”。そのように思っていませんか? 本来、冬は夏に比べて、代謝が上がる時季なのです。寒さを感じると、代謝によって自ら、体温を上げる必要があります。
 しかし、服を着込んだり、暖かい部屋にこもったりしてばかりでは、その効果は得られません。そればかりか、運動を避けて、代謝を下げてしまっているのです。
 また代謝には水分が欠かせません。夏は水分をよく取りますが、冬は少なくなりがち。空気も乾いているため、体が乾燥します。冬こそ、小まめな水分補給を心がけることが大切です。
 冬の代謝アップの方法は、外気を感じながら、体を動かすことです。初めは厚着でもいいので、まずは5分、外に出て、体を動かしてみましょう。
 外に出るのがおっくうな人は、自宅で、まずは窓を開けて、外と同じ環境をつくってみてください。暖房を長時間つけていると、室内の空気は低湿度や低酸素になり、循環も悪くなっています。外気を入れることで、酸素の入れ替えをし、室温を下げる。これだけで体は熱を作ろうとするわけです。
 ただし、高血圧や心疾患がある人は注意が必要です。体が急に寒さを感じると、血圧が一気に上がってしまいます。まずは窓を開けたり、温かい服装で外に出たりするなど、少しずつ慣らしていきましょう。また、寒い環境で、自分の血圧がどれだけ上がるのか、家のベランダなどで測ってみてもいいでしょう。
 寒さに負けず、積極的に体を動かして、冬を乗り越えていきたいものです。
 
 

 つちだ・たかし よこはま土田メディカルクリニック院長。日本医師会認定産業医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。東邦大学医学部卒業後、同大学医療センター大森病院脳神経外科学教室などを経て、2011年、よこはま土田メディカルクリニックを開設。自身の体験から予防医学の必要性を実感。生活習慣改善などをテーマにメディア、講演などの出演多数。著書多数。
 
 

 イメージ写真:PIXTA
 
 

 取り上げてほしいテーマなど、ご意見・ご要望をお寄せください。

 dokusha@seikyo-np.jp