〈インタビュー〉 「こどもまんなか社会」の実現に向けて――現代社会にこそ光る公明党の立党精神2024年1月24日

  • 日本大学教授 末冨芳さん

 「こどもまんなか社会」の実現に向けて、さらなる課題を探る。(「第三文明」2月号から)
 

1974年、山口県生まれ。京都大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。大学院修了後、福岡教育大学准教授などを経て2016年から現職。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員等を歴任。著作に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには』(共著、光文社新書)などがある
 

1974年、山口県生まれ。京都大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。大学院修了後、福岡教育大学准教授などを経て2016年から現職。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員等を歴任。著作に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには』(共著、光文社新書)などがある  

歴史的転換点を迎えた一方で

 2023年10月、『子ども若者の権利とこども基本法』(編著・明石書店)を出版しました。同年は、「こども基本法」の施行や「こども家庭庁」の発足、「こども未来戦略方針」の策定など、子ども政策の歴史的転換点となる1年だったといえます。
 
 他方、日本における「子どもの権利※1」の認知度は、子ども・大人を問わず、まだまだ低いと言わざるを得ません。そこで権利の普及・啓発と、政策・法整備促進の意義を兼ね、この分野で初となる概説書を編もうと考えたのです。
 
※1 国連の「子どもの権利条約」(1989年)に定められる世界中すべての子どもたちが持つ人権。「差別の禁止」「生命、生存及び発達に対する権利」「児童の意見の尊重」「児童の最善の利益」の四つの原則が掲げられている。
 

 幸い、渡辺由美子・こども家庭庁長官をはじめ、各界各分野の学識者・実務家の皆さんの協力が得られ、党派性に左右されない普遍的な概説書に仕上がりました。読者の皆さんからも、「すべての子どもが、1人の人間として尊重される社会を築くことの大切さが分かった」など、好意的な反響が寄せられています。
 
 翻って子どもの権利を取り巻く政治環境に目を向けると、暗澹たる気持ちになります。一部の教育関係者や自民党の宗教右派政治家を中心に、「子どもは未熟だから権利を与える必要はない」「権利を知ってもわがままになるだけだ」といった時代錯誤な主張が繰り返され、子どもの健やかな成長や幸せを願うすべての関係者を悲しませています。
 
 最たる例が、23年末に行われた24年度税制改正大綱の議論における「高校生年代の扶養控除縮小」です。扶養控除は国民の生存権保障の仕組みですが、民主党政権時代に全世代で子どもだけ縮小されました。財務省・自民党税制調査会が、民主党に続いて子どもの生存権を否定する悪夢を繰り返すなら、子どもたちの幸せも、少子化の改善もあり得ません。
 
※2 高校生年代の扶養控除縮小は、自民・公明の間で大綱への明記は合意したものの、最終決定は2024年末の議論に持ち越した。
 

 さらに憂慮するのは、このような政治のありようが社会に影を落とし、結果として日本をグローバルビジネスから孤立させる点です。現代は、世界規模で活動する多国籍企業が国際的な影響力を持ち、日本企業も彼らとの取引なしには存続し得ない状況です。
 
 重要なのは、こうした多国籍企業が国連のSDGs等の諸指針をもとに、子どもの権利擁護に敏感となり、児童の強制労働・虐待を犯す企業などをグローバルサプライチェーン(商品の国際的な製造・供給網)から締め出している点です。事実、大手芸能事務所創業者による児童への性加害事件は、BBCワールドニュースで繰り返し報じられ、世界的批判につながったことで、同事務所との契約を打ち切る日本企業が相次ぎました。
 
 ゆえに今後は、子どもの権利促進に鈍感であること自体が、日本経済・企業経営に深刻な影響を与えかねないリスクとなるのです。
 

子どもを尊重するスキルを磨くために

 それでは、子どもや私たち大人が「子どもの権利」を学ぶためには何が必要でしょうか。私は、子どもの意見表明と参画の機会を質量ともに増大すること、そうして大人たちが「子どもを尊重するスキル」を磨くことが必要だと考えます。
 
 好例となるのが、23年11月に山口県宇部市の小野小学校(全生徒21人)で行われた「こども選挙」(模擬投票)です。画期的だったのは、市の選挙管理委員会や教育委員会の全面協力のもと、市議会議員4人が候補者として“立候補”し、極めてリアルに近い形で選挙が実施されたことです。
 
 まず事前学習では、市長が主権者教育の大切さや民主主義の理念、選挙制度について説明しました。続く立会演説会では、4人の候補者が「小野校区含む宇部市北部地域の振興」をテーマとして演説。小学生たちの質疑にも応じ、投開票まで実施したのです。
 

 とても印象的だったのが、模擬選挙を通じて、大人と子どもたちの間に同じ市に生きる人同士の信頼や連帯の意識が醸成された点です。
 
 一般に現実の選挙では、総花的で聞こえの良い公約が語られがちです。けれど模擬選挙では、「地域に病院を建ててほしい」との子どもたちの要望に、ある候補者が「市は財政難で新規建設は難しい」と答えた上で、「市民病院への交通環境改善」や「ドクターヘリの運用強化」といった前向きな提案をするなど、真剣勝負でぶつかっていたのです。
 
 なお、宇部市では今回の模擬選挙の成功を受けて、他の学校でも実施できないか検討中といいます。また、市の町づくり施策についても、子どもの意見を積極的に取り入れる仕組みができないか模索しているそうです。
 
 このようにこども選挙には、子どもの権利推進のあるべき姿があると感じます。すなわち、大人が子どもを1人の人間として信頼・尊重し、協働して物事をつくり上げていく、民主主義の当たり前が良い形で実現されているのです。
 

より良き民主主義の伴走者として

 これまで公明党は、「こどもまんなか社会」実現の先頭に立ち、あらゆる政策の旗振り役を務めてきました。先の高校生年代の扶養控除縮小を巡る議論においても、一貫して反対の論陣を張ってくれました。その姿に、「子どもたちのために、公明党がこんなに頑張ってくれているとは知らなかった」との声など、反響が寄せられています。
 
 過日、公明党創立者・池田大作氏が逝去されましたが、その際、創立者が提唱した立党の精神である「大衆とともに」というフレーズがメディアでも多く用いられました。公明党のあらゆる政策の底流に、この立党精神があることを感じるとともに、その輝きは色あせるどころか、現代社会にこそ光るものだと受け止めています。
 
 目下、政府も自民党も混迷の度合いを深め、国民の政治不信は極度に高まっています。このような時だからこそ公明党の皆さんには、もう一度立党精神を思い起こし、日本政治の手綱を引き締めてくれることを期待します。
 
 自民党は経済を重視しますが、経済合理性のみでは、働くことのできない子どもなど弱い立場の人々が社会的に孤立してしまいます。こうした人々を温かく、優しく守る政治こそが肝要なのです。
 
 一方で、自民党も公明党と政権を共にすることで、少しずつ進化しているようにも感じます。自民党の進化は、日本の民主主義の進化とも言えます。その意味では、公明党は「より良き民主主義のための伴走者」でもあるのです。
 
 皆さんの奮闘で「温かく優しい日本社会」が実現し、すべての子どもが、各人の個性や才能に応じて輝ける時代が到来することを願っています。