〈インタビュー〉 アラブ首長国連邦の詩人 シハブ・ガネム博士2023年12月28日

  • 池田大作博士は 最も偉大な平和の使者

 シハブ・ガネム氏はUAE(アラブ首長国連邦)の著名な詩人。100冊に迫る著作・訳書があり、その詩は20言語以上に翻訳され愛読されている。敬虔なムスリム(イスラム教徒)であり、池田大作先生の平和エッセー集『君が世界を変えていく』の翻訳・監修を務めたほか、湾岸SGI(創価学会インタナショナル)が主催する「詩人の集い」の開催にも尽力している。その思いを聞いた。(聞き手=南秀一)

シハブ・ガネム博士

シハブ・ガネム博士

 ――長年にわたり、池田先生、SGIに対して深い友情を寄せてくださっています。
 
 池田大作博士のご逝去にあたり、改めて心からの哀悼の意を表したいと思います。
 
 直接お会いすることは、かないませんでしたが、著作や写真、詩を通じて、どれほど卓越した方であられたかはよく存じ上げております。「詩人の集い」にも幾度となく真心のメッセージを寄せてくださり、私に対しても温かい言葉を贈ってくださったことは忘れられません。
 博士は間違いなく世界で最も傑出した平和の使者の一人であり、20世紀と21世紀において最も偉大な人物の一人であります。
 
 ――池田先生の詩や著作の翻訳にも尽力してくださいました。
 
 池田博士の作品に込められているメッセージは、大変に気高いものです。正義や愛、平和など、人類が持ち続けるべき価値が込められています。そうした博士の言葉を、正確に伝えようと心がけてきました。
 
 博士の詩は大変明瞭で、現代の作品に見られがちな、抽象的な言葉を多用し、言葉遊びをするようなきらいは全くありません。翻訳していて「どんな意味だろうか」と戸惑うことがないのです。それは恐らく、博士が平和建設を使命とされているからでしょう。「伝える」ことを大切にされているがゆえに、言葉も率直で、内容も明瞭なのだと思います。

創価大学を訪問したガネム博士を学生らが歓迎。この日、博士に創大名誉博士号が授与された(2015年、同大学で)

創価大学を訪問したガネム博士を学生らが歓迎。この日、博士に創大名誉博士号が授与された(2015年、同大学で)

 ――池田先生には世界芸術文化アカデミーからの「桂冠詩人」称号をはじめ、「世界桂冠詩人賞」、「世界民衆詩人」称号、「世界平和詩人賞」などが贈られています。
 
 よく存じ上げております。池田博士は「価値」について数多く書かれていますが、驚くほど見事に言葉を選び抜かれています。例えば、博士は「人間の尊厳」を語ると同時に、民衆に対する不正義は「傲慢」として強く拒絶されています。
 
 またもう一つ印象的なのは、博士が“無知”や“無関心”を社会からなくそうと尽力されたことです。世界各地に教育機関や研究機関を建設されたのは、そうした理由からではないでしょうか。その意味で、池田博士は理想を追求された方なのだと思います。しかし同時に、現実を見据えてSGIという組織を築き、人々に“良き市民になる”という指針を示し、「自他共の幸福」という理念を語り、実践し、為政者らに対して自ら平和のメッセージを語り続けてこられた。理念と行動を両立させた人生――そこに私は、博士の偉大さを見るのです。

湾岸SGIが主催して毎年行われている「詩人の集い」(2月、ドバイで)

湾岸SGIが主催して毎年行われている「詩人の集い」(2月、ドバイで)

 ――ガネム博士は、どのようなきっかけで池田先生のことを知ったのでしょうか?
 
 池田博士の著作を初めて手にしたのは、旧知のSGIの友から依頼を受け、『君が世界を変えていく』の翻訳・監修と序文の執筆を手がけたことが、きっかけでした。以来、ぜひ博士の思想を伝える集いを開きたいとSGIの友人たちと語り合ってきました。
 
 2011年に『君が世界を変えていく』のアラビア語・英語対訳版出版発表会をカタールで行い、私も出席しました。その後、構想が実現し、博士の中東訪問50周年の佳節を迎えた翌12年に「詩人の集い」を実施することができました。小さなスタートでしたが、毎年開催する中で徐々に規模が広がり、今では世界各地の詩人や学生ら1000人近くが参加する集いとなりました。運営の労を執ってくれている湾岸SGIの友に心から感謝しています。
 
 この集いがここまで発展を遂げてきた理由の一つは、参加者全員が「ギブ・アンド・テイク」ではなく、“皆に何かを与えよう”という「ギブ・アンド・ギブ」の心に満ちているからだと思います。
 
 ――ガネム博士が最も池田先生に共感されるのは、どのような点でしょうか?
 
 池田博士の人生そのものが、深く人々の胸を打つものです。戦争で長兄を失い、3人の兄も兵隊に取られた。爆撃で家を追われ、移り住んだ先の家も爆撃で全焼した。そうした悲嘆の中で戸田城聖氏と出会い、生涯の師匠と定めて、SGIを世界に発展させた。その過程で、初代会長の牧口常三郎氏、第2代会長の戸田氏と同様、投獄もされている。
 
 その上で博士は、多くの書籍を執筆し、教育機関を設立しながら人々を啓発し、SGIを世界的な連帯へと拡大されてきた。これほど才ある人物がいるでしょうか。
 
 ドバイをはじめクウェート、バーレーンなどでSGIの方々とお会いしましたが、誰もが博士に大きな啓発を受けていました。調和を世界中に広げ、「良き市民」の範を示してこられた。大変、影響力のある方であります。とりわけ、平和と教育に対する博士の熱情には特筆すべきものがあります。
 
 だからこそ、博士の作品の翻訳には喜んで携わらせていただきました。英文詩集『平和への闘争』を翻訳し、アラブ圏で最高峰の翻訳・出版で知られている「カリマ(言葉)」プロジェクトから出版できました。
 
 もう一つ、啓発という意味で忘れられない経験は、2015年に広島を訪れる機会に恵まれたことです。平和記念資料館を見学しましたが、本当に恐ろしい内容でした。この時の経験をもとに帰国後、池田博士にささげる詩を書きました。

広島を訪れた経験をもとにガネム博士が執筆した詩

広島を訪れた経験をもとにガネム博士が執筆した詩

 ――詩が人間に対して持つ重要な影響とは何でしょうか。
 
 詩とは魂であり、心と密接に結びついています。私はいつも言うのですが、ある国について深く知りたければ、まずその国の詩を読むべきです。詩は人々の魂の表れであるからです。詩を学んだ後に、哲学を学ぶことです。哲学は精神と結びついているからです。
 
 詩人は常に魂で語りかけるのであり、そこに物質主義の影はありません。それゆえ世界中で愛されるのです。
 
 詩人は愛や誇りをうたい、物質主義的な生活には関心を持ちません。その意味では理想主義的です。
 
 私にとって詩は家族と同様、人生で何より大切なものです。しかし残念なことに、世代を経るごとに詩に触れる機会は減り、学校等でも学ぶ機会が少なくなっているようです。私もかつてはエンジニアとして勤めており、“詩なんかよりも目に見えるものの方が価値がある”という同僚も少なくありませんでした。そうした意見を否定するつもりはありませんが、物質的な側面と精神的な側面のバランスが大切なのです。
 
 池田博士が言われるように、私たちは「なぜ生まれてきたのか」を自らに問いかける必要があります。私は、それは神に仕えるためであり、善をなすためであると思います。私たちは理想のために、平和のために戦わなければなりません。博士は公平な世界、正義と幸福の世界を呼びかけられ、一人の人間として最大の努力をなされました。そして何百万という人々に影響を与えてこられた。その偉大な池田博士の人生に学ばねばなりません。だからこそ私は博士の事績を、作品を、伝えていきたいのです。