名字の言 徳島で最初に演奏された「第九」2023年12月24日

 年の瀬の風物詩となった、ベートーベンの「第九」。新型コロナウイルスの影響で、4年ぶりに演奏会が完全復活した地域も少なくない▼日本での「第九」の初演は105年前の1918年。場所は、徳島県にあった板東俘虜収容所。第1次世界大戦で日本軍の捕虜となったドイツ兵が演奏会を開催した。女性がいなかったため、男性だけの合唱曲に書き替えて実施された▼この収容所は人道的な運営が行われ、自由な雰囲気があった。地域住民との交流も盛んだった。「第九」が選曲された理由は明らかになっていないが、捕虜たちは「すべての人々は兄弟となる」日を待ち望んだ楽聖の魂を誇らかに歌い上げたに違いない▼「オーケストラはコミュニティであり、社会です。すべてにおいて最も大切なのはハーモニー」と語るのは、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメル。「音楽的、技術的なハーモニーだけでなく、共に生きるという意味でのハーモニー。音楽が創り出すのはまさにそのハーモニーであり、時に社会が見失いがちだけれど、いちばん大切なものなのです」(季刊誌「考える人」2014年秋号)▼来年は「第九」誕生200年。「共に生きる」社会を足元から建設していきたい。(川)