〈危機の時代を生きる 希望の哲学――創価学会ドクター部編〉第18回 「生活習慣」と向き合う2023年12月9日

  • 神経内科医 小林晶子さん

 長寿社会を支える医療現場。その最前線で働く友は、これからの時代を健康で生き生きと暮らすために必要なことを、仏法の健康の智慧から、どう見ているのか。「危機の時代を生きる 希望の哲学――創価学会ドクター部編」の第18回のテーマは、「『生活習慣』と向き合う」。都内のクリニックで院長を務める神経内科医の小林晶子さんの寄稿を紹介する。

 
「長生きしていただきたい」との願い

 晴れやかな心で迎えた「11・18」。この日、私は池田大作先生の訃報に接し、頭が真っ白になりました。現実を受け止めることができず、数日間は眠れない夜を過ごしました。しかし、地域の同志と涙ながらに語り合う中、私自身の先生との思い出がよみがえってきました。
 
 苦難に直面し、もうダメだと思うたび、先生の指導から生きる勇気をもらったこと。会合の席上、先生が「一人の力あるドクターがいれば、何百人、何千人の人々を希望へと牽引していける」「ドクター部員一人は、一万人の希望に通ずる。そういう医師になっていただきたい」と期待を寄せてくださったこと……。
 
 悲しみは大きいですが、私は今、先生への尽きせぬ感謝を胸に、学会創立100周年となる2030年を目指し、前を向いて進もうとの誓いを深くしています。
 
 先生はかつて、全ての友に向けてこう望まれました。
 
 「皆さまに『健康で長生き』していただきたい。これが私の痛切なる願いです。生きぬいてください。生きぬくのが戦いです」「何があっても、長生きして、『何とすばらしい人生だったことか』と言いきれる人生を送ってください」
 
 この心をわが心とし、医師として、一人でも多くの方の健康を守るために力を尽くしたいと決意しています。
 

身体支える仕組みと生活リズム

 さて、今回のテーマは「生活習慣」ですが、この生活習慣は、私たちの健康と密接に結び付いています。
 
 私は週3日、人間ドックの診療を行っており、これまで多くの方々の健康状態を診てきましたが、その中で感じるのは、同じような生活を続けている人は、似たような診断結果が出るということです。
 
 特に、私が診ている相手はビジネスマンがほとんどで、同じような環境で働き、似たような生活リズムの人が多いと思います。その上で、睡眠時間が不規則な人は、脳梗塞や心筋梗塞の疑いがあることが多く、寝る前に食事をする人は、肥満、糖尿病になる人が多いのです。
 
 どうして、そのような結果になるのでしょうか。
 
 それは、体内のバランスを保つ「自律神経」の仕組みを知ると分かってきます。
 
 自律神経は「交感神経」と「副交感神経」という二つの柱からなり、この二つの働きで、私たちの身体活動は支えられています。
 
 交感神経は活動する際に働く神経で、心拍数を増し、血圧を上げる「身体のアクセル」です。一方の副交感神経は休息やリラックスする際に働き、心拍数を減らし、血圧を下げます。いわば「身体のブレーキ」と言えるでしょう。
 
 一般的に私たちが起床すると、交感神経が副交感神経よりも優位になり、私たちは活動的になります。その一方、起床から約12時間後に今度は副交感神経が優位になり、身体を休ませる方向に働くのです。そして、寝ている間に体内の活性酸素を分解して老化を防いだり、免疫機能を高めてウイルスやがんなどを攻撃したりして、身体のメンテナンスを行っています。
 
 交感神経と副交感神経は本来、それぞれが約12時間おきに優位になりますが、このリズムが生活習慣の影響で乱れてしまうと、“起きてもやる気が出ない”という症状や眠っている時に身体のメンテナンスが行き届かず、疲れが残り、脳や心臓などに影響が出てしまうことがあるのです。

人間ドックのイメージ。40代以降では年1回の受診が推奨されている ©Morsa Images/DigitalVision/Getty Images

人間ドックのイメージ。40代以降では年1回の受診が推奨されている ©Morsa Images/DigitalVision/Getty Images

 
太陽の光を浴びて一日を出発

 では、この交感神経と副交感神経がリズム正しく働くために、どのような生活を心がけるべきでしょうか。
 
 実は、私たちの身体には、自律神経を調整する“体内時計”があり、その時計がずれないよう、毎日リセットすることが重要だと分かってきました。そのリセットには、さまざまな方法がありますが、大切なことは次の二つです。
 
 ①起きたら太陽の光を浴びること
 
 ②起きたら食事を取ること――です。
 
 太陽の光を浴びると、脳では「セロトニン」の分泌が促されます。セロトニンは「きょうも頑張ろう」という前向きな気分にさせてくれる物質で、この働きで体内時計はリセットされ、交感神経の働きが活発になるのです。
 
 部屋の明かりではダメなのかと思う人がいるかもしれませんが、室内の明るさは太陽光の10分の1から100分の1程度で、曇りの場合でも、太陽の光は室内の10倍程度の明るさがあります。たとえ外出できなくても、窓際に移動し、太陽の光を浴びるだけでセロトニンは分泌されますので、上手に工夫していただきたいと思います。
 
 その上で、セロトニンは私たちを睡眠へと導く「メラトニン」の材料になり、脳内でメラトニンが作られるのは、起床して15~16時間後というリズムがあります。
 
 ですので、例えば午前7時に太陽の光を浴び、セロトニンができると、交感神経が優位になり、約12時間後に今度は副交感神経が優位になり始め、15~16時間後、つまり午後10~11時にメラトニンの働きで私たちは眠りにつくことができるということです。
 
 よく「早寝・早起き」と言われ、早起きするためには、早く寝ることが大事だと思っている方もいるでしょう。しかし、セロトニンとメラトニンの関係性から言えば、“太陽の光を浴びるタイミング”が“寝る時間”を決めているわけで、早起きが早寝につながるのです。
 
 平日は睡眠時間が取れないので、休みの日にまとめて睡眠を取ろうとする人もいますが、これは太陽の光を浴びるタイミングがずれてしまうことになり、夜に眠れなくなってしまいます。いくら不規則な生活になっても、「同じ時間に起きる」ことを一貫している人の方が、心身のバランスを保ちやすいことが分かっているので、起きる時間は変えず、必要に応じて昼寝を取るなど、工夫していただきたいと思います。

近年、注目を浴びる“体内時計”。その仕組みを解明した3人の研究者に2017年、ノーベル生理学・医学賞が贈られた ©Jorg Greuel/Photodisc/Getty Images

近年、注目を浴びる“体内時計”。その仕組みを解明した3人の研究者に2017年、ノーベル生理学・医学賞が贈られた ©Jorg Greuel/Photodisc/Getty Images

 
 しかし、生活スタイルも多様化し、一定の時間に起きることが難しい方もいるのではないでしょうか。そこで大事になるのが「起きたら食事を取ること」です。起きてから食事を取ると、やはり体内時計がリセットされることが分かっているので、なるべく早いタイミング、できれば起床から1時間以内に食べていただくことをお勧めします。
 
 その上で、起きた時の食事は、肉や魚、大豆などに含まれる「トリプトファン」という必須アミノ酸をしっかり取ることが大切です。トリプトファンは、セロトニンの材料となるからです。
 
 忙しく過ごす方の中には、寝る直前に食事を取る人がいますが、これは可能な限り、控えてください。そうしてしまうと交感神経の働きが活発になり、良質な睡眠が取れません。加えて、起きてからお腹もすかないので、結果的に食事を抜き、体内時計を狂わせてしまう原因になります。
 
 少なくとも寝る2時間前までに食事を終えることを心がけ、帰宅してから食事を取らなければいけない場合も、帰る前におにぎり1個だけでも口に入れておくなど、「分食」することをお勧めします。そうすると、寝る前に食べる量が減り、身体への負担が小さくなります。
 

体内時計を整える鍵は「セロトニン」

 ここまで述べてきたことから分かるように、体内時計を正常に保つためには、起きた時点でセロトニンをいかに分泌させるかが鍵になります。
 
 このセロトニンは、運動によっても分泌されます。具体的には、ウオーキングやサイクリングなど、“一定のリズム”で行う運動をすると、開始から5分ほどで分泌が促され、20~30分でピークを迎えることが分かっています。ですので、こうした運動は「20分以上は継続して行う」ことが大切です。
 
 また、セロトニンの分泌には個人差があり、同じことをしても少ししか出ない人がいます。セロトニンの活性化を意識した生活を3カ月ほど続けると、分泌しやすい脳に変化することも分かっているので、「持続」も大切です。
 
 一方、セロトニンからメラトニンが作られても、刺激の多い現代にあっては、そのメラトニンの分泌を抑制してしまうものがあふれています。特に寝る前に暗い寝室でスマホなどを見ると、そこから発せられるブルーライトによって、脳は“朝だ”と認識し、メラトニンの分泌を抑制してしまうことが明らかになっています。寝る前は使用を控え、どうしてもという時は明るさを抑えるなど、工夫していただきたいと思います。
 
 またメラトニンは「年齢」や「ストレス」とともに分泌されにくくなるので、年を重ねるごとに、メラトニンの材料となるセロトニンを作る生活、ストレスをためない生活を心がけてください。

就寝前のスマホの使用は体内時計を狂わせ、睡眠の質を悪化させることが分かっている ©Luis Alvarez/DigitalVision/Getty Images

就寝前のスマホの使用は体内時計を狂わせ、睡眠の質を悪化させることが分かっている ©Luis Alvarez/DigitalVision/Getty Images

 
周囲と絆結ぶ学会活動

 ここまで健康を保つための生活習慣について見てきましたが、よく強調される食事・運動・睡眠に適切なリズムを取り入れることが大切ということです。生活習慣の重要性は仏法でも説かれています。
 
 日蓮大聖人は、天台大師の「摩訶止観」を引き、病気の原因を挙げています。
 
 その中に「飲食の節ならざるが故に病む」「坐禅の調わざるが故に病む」(新1359・全1009)とあります。
 
 「飲食の節ならざるが故」とは、食べ過ぎや飲み過ぎ、不規則な食事といった食生活の乱れであり、「坐禅の調わざるが故」とは、睡眠や運動の不足などの生活リズムの乱れを指します。つまり、日々の生活習慣が病気の原因になるということです。
 
 その上で、私が興味深いのは、学会活動そのものに“健康になるための要素”が詰まっていることです。
 
 例えば、友のために一軒一軒、地道に歩けば、ウオーキングと同じく、セロトニンが分泌されるでしょう。
 
 セロトニンは“一定のリズム”で行う運動によって分泌されることを述べましたが、口を一定のリズムで動かしたり、同じ言葉を繰り返して言ったりすることでも分泌されると考えられています。これは私たちが毎朝、題目を繰り返し唱えることによっても分泌されるということです。
 
 健康の要素は、それだけではありません。それは、これまで述べてこなかった「オキシトシン」という物質に関する話ですが、この物質が脳内で分泌されるのは、座談会のように皆で一カ所に集まって会話を楽しむことや、周囲の人に感謝を伝えたり、誰かのために行動し、その人と心を通わせたりといった、「人との絆を強める時」であることが分かっています。
 
 このオキシトシンには自律神経のバランスを整え、不安や心配などを緩和し、ストレス状態を軽減させる働きがあることも分かってきました。また、オキシトシンが十分に分泌されると、セロトニンの分泌が増えることも知られているので、やはり健康に良いということになるのです。
 
 何より、セロトニンとオキシトシンは「幸せホルモン」と呼ばれ、私たちが充実感や幸福感を感じるために欠かせない物質です。つまり、学会活動には健康になり、かつ幸福になるための要素が詰まっているのです。
 

「広布のリズム」の中に「健康のリズム」が

 実は、私は大学時代、リズムの乱れた生活を送った時がありました。最愛の母を末期の子宮がんで亡くし、心が不安定になったからです。
 
 感情の浮き沈みが激しく、自分ではどうすることもできない。そんな時、学会の同志がじっと耳を傾け、不安な心を受け止めてくれました。
 
 その時、「勤行している?」と尋ねられ、ハッとしたことを覚えています。信心から離れていたことに気付いた私は、御本尊に向かうようになり、祈りを重ねる中で心が落ち着き、生活リズムも元通りにすることができました。
 
 その後、糖尿病になった父の看病などを通して「病気で悩む人の力になりたい」と思った私は、社会人になってから医師を志しました。
 
 働きながらの医学部受験、また医師となってからも、さまざまな困難がありましたが、全てを勝ち越えることができました。
 
 その前進の活力となったのは、学会活動です。
 
 池田先生が「学会活動には、健康になるための条件がそろっています」「広布のリズムのなかで、健康のリズムを整えていくことができる。広布のために、喜び勇んで動いたぶんだけ、自身の生命に金剛不壊の幸福の基盤を築くことができる」と教えてくださった通り、ここに最高の生き方があると確信します。
 
 今こそ、広布の道を歩む喜びを地域の同志と分かち合いながら、池田先生の願われた「健康の世紀」を開くために尽力してまいります。
 

〈プロフィル〉

 こばやし・あきこ 東京女子医科大学卒業。同大学臨床大学院・神経内科学修了。医学博士。同大学付属病院や関連病院で勤務し、2019年に都内のクリニック院長に。院長を務めるかたわら、訪問診療医として多くの患者と接する。日本神経学会認定神経内科専門医。日本内科学会認定内科医。日本医師会認定産業医。創価学会東京ドクター部女性部長。女性部副本部長。
  
  

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