「本気の他人事」で誰もが頼れる社会を――NPO法人 あなたのいばしょ・理事長 大空幸星さん2023年12月2日

  • 電子版連載〈WITH あなたと〉#Z世代と孤独

 Z世代の記者がZ世代をテーマに特集しています。第5回は、自殺対策や孤独・孤立対策のため、日本初の24時間365日チャット相談窓口を運営するNPO法人「あなたのいばしょ」の理事長を務める大空幸星さんに話を聞きました。25歳というZ世代当事者でもある大空さんに、若者が置かれている苦しい一面を教えてもらいました。(取材=松岡孝伸、菊池優大)

■“居場所”のない若者

 ――近頃、「トー横キッズ」(新宿・歌舞伎町にある「新宿東宝ビル」横周辺に集まる若者たち)が問題になっていますね。同年代の子どもたちの現実に、悲しさを感じています。
  
 トー横キッズを巡っては、事件やトラブルが相次いでいますが、彼らにとってはそこだけが唯一の居場所であり、つながりです。本人たちも危ないということは重々承知の上で、それでも家庭や学校に自分の居場所がないため、集まってきているわけです。

 こうしたトー横キッズに代表されるように、自分の居場所がない、“望まない孤独”を抱えている子どもたちが大勢いるのもZ世代の現実です。
 

歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺で、若者が集う「トー横」と呼ばれる地区=10月5日、東京都新宿区(時事)

歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺で、若者が集う「トー横」と呼ばれる地区=10月5日、東京都新宿区(時事)

 昨年は、小中高生の自殺者数が初めて500人を超え、統計開始以来、最悪の514人となりました。

 これには複数の社会的背景が考えられますが、ここ数十年で進んだ核家族化や地域コミュニティーの衰退が、子どもたちが頼れる大人の数を減らしたことは間違いありません。

 さらに、昨今の時代の変化の中で、日本社会に大きく広がったのが「懲罰的自己責任論」です。

 ――「懲罰的自己責任論」。初めて聞きました。どういった意味なんでしょうか。

 簡単に言うと、本来は自分の責任ではないことまで、「自分のせいだ」「自業自得だ」と捉えてしまう考え方です。

 「あなたのいばしょ」では、2020年3月からチャットの相談窓口を開設し、3年半で84万件もの相談が寄せられました。そのうち7割が29歳以下の若者・子どもたちです。

 10代の学生Bさんは、「学校でいじめられているわけでもなく、友達や家族と仲が悪いわけでもないけれど、死にたいんです」とチャットで相談してくれました。

 よくよく聞くと、Bさんの場合、「周りの人は支えてくれているし仲良くしてくれているのに、『自分』が勉強に取り組めないばかりに、どんどん学力も人間関係も悪化させている」と考え、自分を責め、否定する「自己否定ループ」に陥っていました。

 同じように、いじめの相談をしてくる子どもたちの多くも、「自分が悪いんだけれど」と、まず言います。こうした「懲罰的自己責任論」が2000年代以降に広がり、家庭にまで、まん延してしまった状況の中で生きているのが、今の若者だといえます。

■「親ガチャ」の意味

 ――少し前にZ世代の間で「親ガチャ」(子どもが親や家庭を選べないことを、カプセル玩具の自動販売機「ガチャガチャ」に例えて、親にも“当たり外れ”があることを表している)という言葉が流行りました。自己責任論とは反対のイメージで、全てを親のせいにしているようにも思え、私自身はあまり良いイメージを持っていないのですが……。

 確かにそうかもしれません。しかし、この言葉に私は救われました。「親ガチャ」という言葉は、「お前なんて生まなければよかった」といった罵声や暴力を振るう、いわゆる“毒親”家庭で育った子どもたちが、そこで感じる苦しみや不条理までも自分のせいだとする「自己責任論」に反駁するために生み出した言葉だと思っているんです。

 私自身、小学5年の時、母が家を出たことで、父が暴力を振るうようになりました。そのことがきっかけで学校へ通えなくなり、死ぬことまで考えました。その後、入院をしたことがきっかけで母に引き取られ、中学は何とか卒業。

 しかし、高校2年の頃には、働くことができず、情緒不安定になった母と壮絶な罵倒をし合う毎日でした。バイトにも追われ、小学生の時より、はるかにつらい状況に追い込まれてしまった。

 「ガチャなら仕方ない」と現実を突き放すことができれば、自分をぎりぎり肯定できるのではないかと思うんです。

■「スティグマ」をなくす

 ――なるほど。そういう視点も含め、多様な背景から1つの流行語を考えていく必要があるんですね。私の周りにも同じような境遇の友人がいます。彼らは自分を否定したまま、人生を前向きに捉えられずにいます。大空さんはなぜ、現在のようなNPO法人を立ち上げることができたのでしょうか。

 私は担任の先生という、頼ることができる大人に奇跡的に出会えました。何度も相談に乗ってもらいながら、先生のおかげで大学まで進学することができ、現在に至ります。

 だからこそ伝えたいのは、孤独を感じたら、迷わず誰かに頼ってほしいということです。先ほどのBさんのように一見、恵まれている環境にあっても、孤独になり得ます。孤独というのは全ての人が人生のどこかで必ず陥るものなんです。

 しかし、今の社会には懲罰的自己責任論によって「人に頼ってはいけない」「相談するのは恥ずかしい」と考える人がたくさんいます。

 これは、「スティグマ」(他者や集団によって個人に押し付けられたネガティブなレッテル、差別・偏見)です。孤独は、一人で対処することは難しい。このスティグマは、社会全体として必ずなくしていかなければなりません。

■大人も頼っていい

 ――頭では「誰かに頼った方が良い」と分かっていても、実際に一歩相談に踏み出すことは、ハードルが高いと感じます。どうすればスティグマを乗り越え、頼れるようになるのでしょうか。

 親御さんや先生は、子どもたちに「何でも相談して」と言いますが、皆さんは誰かに相談していますか、と問いかけてみたいんです。

 自分たちが他の人に助けを求めていないのに、それを見ている子どもたちが助けを求めるでしょうか。ですからまずは、大人たち自身が「誰かに頼ること」を、率先して姿勢で見せていくことが第一歩だと思います。

 「大人は相談してはいけない」「大人は誰かに頼ってはいけない」という考え方は、まさにスティグマです。そんなことは決してありません。完全な人間はいませんし、誰でも孤独を抱えているのだから、誰かに頼っていいんです。

■2つのステップ

 その上で、相談してくれた子どもに対しては、2つのステップを意識してほしいです。

 1つは、傾聴によって、悩み事を整理できるようにサポートしていくことです。なぜなら、苦しんでいる本人自身が何に悩んでいるかを分かっていない場合が多いからです。

 あなたのいばしょチャット相談では、自分を客観視できるよう、悩みを書き出してもらい、それを読み返してもらうことがあります。「あの時、こういうことがあった。そうしたことが積み重なってこうなっていたんだ」と、順序立てて自分の中で整理してもらうだけで、苦しみが大きく軽減されることがあるんです。

 

 そして、励ましの言葉をかけていってください。ただ、「ありのままの自分を愛せ」というメッセージは難しいでしょう。ありのままの状態が受け入れられず、苦しんでいるわけですから。

 従って、その子が取り組んできた「プロセス」を褒めてみてください。「休みの日や夜も、塾に通って頑張った」「眠いのを我慢して英単語を覚えた」など、積み上げてきたことそのものに着目をして、少しずつ自信を持たせていくことが生きる力につながっていくと思います。

■「薄い線」を引く

 ――しっかり寄り添い、伴走することが大事だと感じました。

 その通りです。でも、支える側が自己犠牲にならないように気をつけたいものです。

 支援機関である私たちのNPOでは、自分たちの限界性を知った上で支えるように心がけています。

 具体的には「本気の他人事」という方針を守って行動しています。相手に対して「本気」で、真剣に接するけれども、結果として相談者の力にうまくなれなかった。そうであったとしても、それは相談員の責任ではないし、思い詰めなくていいと、意識の上で「薄い線」を引くようにしているんです。

 自分の心に余裕を持ててこそ、持続的な支援も可能になります。支援のあり方のハードルを下げることで、もっと気軽に人に頼ったり、頼られたりする文化を築いていくことができると信じています。

【プロフィル】

 おおぞら・こうき 1998年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員などを務める。著書に『望まない孤独』『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由』。

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