子どもの幸せ感じる未来へ 連載「社会は今 青年の視点から」#132023年11月16日

  • 京都大学・柴田悠教授✕井出光子女子未来部長✕梁島英明男子部長

 学会の青年リーダーと有識者との対談を通して、これからの社会を生きるための視点やヒントを探る連載「社会は今 青年の視点から」。今回は、社会保障や幸福研究を専門とする京都大学の柴田悠教授と、梁島男子部長・井出女子未来部長とのトークをお届けします。日本が直面する「少子高齢化」の現状と予測、また、子どもの幸福を実現する社会に何が必要か等、オンラインで語り合いました。
  

少子化と日本の未来

 〈梁島〉日本社会は深刻な少子高齢化に直面しています。厚生労働省の発表によると、2022年の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数に相当)は1・26と過去最低を記録。出生数は77万747人となり、初めて80万人台を割り込みました。
  
 〈柴田〉少子化対策は、日本社会において重要課題の一つです。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、これまでの政策を変えずに2060年を迎えると、高齢化率が約4割に達します。医療・介護などの分野を中心に、人手不足が深刻化するとともに、年金や医療・介護支出が膨れ上がり、社会制度が立ち行かなくなってしまうと予測されています。
  
 政府の長期予測によれば、日本社会が持続可能になるため、二つの「目安」が示されています。一つ目は、2030年までに「希望出生率」(若者の結婚・出産希望がかなった際の出生率)1・8に達すること。二つ目は、40年までに「人口置換水準」(人口が維持される合計特殊出生率)2・06に達することです。
  
 日本の場合、出生数が2000年から減少しているため、25年頃からは20代人口が急減します。結婚・出産する年代の人数が減る中で、出生率が低いままだと人口減少が加速度的に進むでしょう。つまり、少子化に歯止めをかけるためには、「2025年までがラストチャンス」といえます。
  

厚生労働省の人口動態統計をもとに作成

厚生労働省の人口動態統計をもとに作成

  
 〈井出〉日本政府としても、03年に少子化社会対策基本法を制定し、少子化対策に力を入れてきました。
  
 〈柴田〉数値だけ見ればシビアな結果かもしれませんが、政策全てが失敗したかといえば決してそうではない。「保育の充実」という観点でいえば、政府は05年から20年にかけて保育定員を約100万人増加させました。この結果、政府支出は年間約3兆円増えました。
  
 京都大学の宇南山卓教授の分析によると、この政策により、女性の生涯未婚率が約6ポイント下がり、出生率が約0・1上がり、年間出生数が約10万人増えたことが示唆されています。もし、こうした手を打っていなければ、現状はより深刻になっていたでしょう。この点、保育・教育の分野で尽力してきた公明党の存在は大きいといえます。
  

上下のグラフとも「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(令和元年改訂版)をもとに作成

上下のグラフとも「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(令和元年改訂版)をもとに作成

  
 保育の充実は、夫婦とも共働きしやすい状況をつくり、結婚と出産の障壁を下げることが期待されます。今後の少子化対策におけるポイントの一つです。
  
 また、1~2歳時の保育は、子どもの発育に良い影響をもたらす可能性があります。2歳半時点で保育園に通っていれば、言語発達の遅れが予防されやすいという研究もあります。現在、日本の1~2歳保育利用率は、北欧諸国やフランスと比べて、低水準です。さらなる拡充が求められます。
  
 〈梁島〉創価学会の支持する公明党は、児童手当の拡充や教科書無償配布、「少子社会トータルプラン」(06年)、「子育て応援トータルプラン」(22年)の制定など、一貫して推進してきました。今後の少子化対策を考える上での課題、また、公明党に求めるものはありますか。
  

柴田教授

柴田教授

  
 〈柴田〉「子育て応援トータルプラン」において、公明党は、6兆円超という具体的な予算規模を示しました。責任ある与党として、非常に大きな決断だったと思います。
  
 今後の少子化対策において、「働き方の柔軟化」が課題になります。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、18~34歳未婚女性の理想のライフコースは、1987年では、「専業主婦」が1位(33%)でしたが、2021年には、「結婚・出産と仕事を両立」が1位(34%)となり、価値観が様変わりしています。一方で、予想のライフコースを尋ねると、21年の1位は「結婚せず仕事を続ける」(33%)で、2位の「両立」(28%)を初めて上回りました。
  
 仕事と結婚・子育てを両立したいが、現実的には難しい。よって、結婚をあきらめ、仕事を選択する女性が増えているのです。いまだかつてない事態です。この要因としては、家事・育児を考慮に入れず硬直的な長時間勤務を強いる「男性稼ぎ主モデル」が、根強く残っていることが考えられます。
  
 女性の「結婚」に対するハードルを下げ、共働き・共育てモデルを普及するためには、DXやテレワーク、各種支援制度などにより、全ての人の働き方を柔軟にすることが求められます。
  
 また、「働き方の柔軟化」は、日本経済を立て直す契機にもなり得ます。長時間労働を是正し、働き方を柔軟にするには、労働生産性を上げる必要があります。そして、労働生産性が向上すれば、賃金上昇が見込まれます。公明党の「子育て応援トータルプラン」においても、「働き方改革の推進」が明記されています。ぜひ、実現に向けて注力してもらいたいと思います。
  

地域コミュニティーの存在

 〈梁島〉少子化対策においては、制度面の整備はもちろんのこと、「私たちの社会はそもそも暮らしやすいか」という視点も大切です。内閣官房参与の山崎史郎氏も、社会保障の存立を脅かす、基盤的なリスクとして、「社会的孤立」を挙げています(『人口減少と社会保障』中央公論新社、参照)。コロナ禍によって、「孤独・孤立」の問題が顕在化しました。「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」(令和4年実施)では、孤独感を抱える人は全体の約4割に上りました。こうした問題に対して、人と人とを結ぶ創価学会の役割は大きいと思います。
  
 〈柴田〉「孤立・孤独」の問題は、日本に限らず、先進諸国でも共通しています。コロナ禍を経て、オンラインでの交流も普及しましたが、コミュニティーの存在が重要になるでしょう。その点、創価学会のような広く地域に根を張ったコミュニティーの存在は、安定した人間関係を提供してくれると思います。かつてスウェーデンに滞在した時、ストックホルム郊外で創価学会の会館を見つけ、ここにも創価学会のコミュニティーがあるのかと驚きました(笑)。
  
 以前、私が行った研究では、オンライン上のつながりよりも、気楽に会える友人が身近にいる方が幸福感を得やすいという結果が出ました。さらに、こうしたつながりの存在は、先進諸国ほど重要という結果も出ました。
  

井出女子未来部長

井出女子未来部長

  
 〈井出〉「子どもの幸せをどのように実現するか」という視点も、少子化問題を考える上で忘れてはいけないと思います。
  
 創価学会には、小学生から高校生までを対象にした「未来部」という組織があり、定期的に会合が開催されています。そこでは、地域の同世代のメンバーで、仏法を学んだり、お互いの悩みや夢を共有しながら励まし合ったりしています。
  
 〈梁島〉他にも、教育本部(教育関係従事者のグループ)が地域組織と連携し、保護者の子育ての悩みを受け止め、寄り添う「家庭教育懇談会」を開催しています。
  

未来部の集いでは、保護者や担当者とともに語り合い、仏法を学ぶ

未来部の集いでは、保護者や担当者とともに語り合い、仏法を学ぶ

  
 〈柴田〉そうなんですね。「未来部」の存在は初めて知りました。「学校」という枠を超えて関係性をつくる取り組みは、非常に大切だと思います。高校生ならまだしも、活動範囲の限られる小中学生の場合、学校内の人間関係によって左右されることが多いです。学校内でのトラブルが、不登校・いじめにつながるケースも少なくありません。
  
 現在、不登校・いじめの数は増加傾向にあります。文部科学省の最新の発表(令和4年度)によると、小中学校の不登校の数は29万9048人にも上り、過去最多となりました。また、小中高校等のいじめの認知件数も、過去最多の68万1948件となっています。学校のあり方や新型コロナによる環境の変化など、その要因はさまざまですが、「学校以外のつながり」が希薄になったことも要因の一つです。悩みを抱えた子どもたちにとって、未来部の集いが「居場所」となることで、不登校やいじめの予防にもつながるのではないでしょうか。
  

本年9月、秋田での「家庭教育懇談会」の一幕。VOD番組「思春期は親子の成長期」を視聴した後、グループに分かれて、懇談会を行った。子育て世代の悩みに耳を傾ける場として開催されている

本年9月、秋田での「家庭教育懇談会」の一幕。VOD番組「思春期は親子の成長期」を視聴した後、グループに分かれて、懇談会を行った。子育て世代の悩みに耳を傾ける場として開催されている

  
 〈井出〉創価学会の牧口常三郎初代会長は、小学校の校長を務めたこともある教育者でした。1930年11月、戸田城聖第2代会長とともに「教育の目的は子どもの幸福のためにある」との信念のもと、『創価教育学体系』を発刊しました。このことが、創価学会創立の淵源となっています。2人の教育観の根底には、「人間の無限の可能性」「生命の尊厳」を説いた日蓮仏法の信仰がありました。
  
 その後、牧口・戸田両会長は、第2次世界大戦の中、軍国主義教育を進める軍部政府と対峙して、投獄されています。
  
 〈柴田〉まさに創価学会は「教育」からスタートしているのですね。戦前・戦中期は、国家のための人材として子どもを捉える向きが強かった。その中にあって、その頃から「子どもの幸福」に焦点を当てていたのは、先見の明があったと思います。
  
 今、社会全体として、子どもの声を「聴くこと」が求められています。本年4月には、子どもや若者の意見を募り、政策や制度づくりに反映するため、「こども家庭庁」が設立されました。
  
 創価学会には、「子どもの幸福」を第一に考える精神性が受け継がれていると思います。「子どもの幸せとは何か」「今、子どもが何を求めているか」など、各地の声を、広く社会に発信していってほしいと思います。
  

価値観政党として

 〈梁島〉子育て・教育支援をはじめ、公明党は結党以来、一貫して「生活者目線の政策」を推し進めてきました。その理由として、支持母体である創価学会が、仏法を基調とした生命尊厳・平和主義の哲学を有しているからだと考えています。作家の佐藤優氏は、公明党について、生命尊厳と平和主義、人間主義をもとにした「価値観政党」であるとして期待を寄せています。
  
 極端な政治的言説がはびこる今、仏法を根幹とした価値観を持つ公明党が果たす役割は大きいのではないでしょうか。
  

梁島男子部長

梁島男子部長

  
 〈柴田〉ヨーロッパ各国を対象として、国の政策と政党のイデオロギーの関係を比較分析した研究があります。ヨーロッパ各国には、キリスト教民主主義政党という中道的な宗教政党が存在します。こうした政党の議席占有率の高い国では傾向として、福祉政策や中間層向けの政策が充実しており、国民の生活満足度も高いことが示されています。明確な価値観を持っていることで、ぶれずに政策に影響を与えているのでしょう。
  
 核兵器使用のリスクや気候変動など、国際社会は不安定な状態が続いています。これからも、公明党には、「大衆のため」との精神を大切にしながら、政治をリードしていってほしいと思います。
  
  

●プロフィル●

 しばた・はるか 1978年、東京都生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。専門は社会学、社会保障論、幸福研究。同志社大学准教授、立命館大学准教授、京都大学准教授を経て現職。著書に『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、社会政策学会賞受賞)、『子育て支援と経済成長』(朝日新書)など。
  
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